航海の安全を確保するツールとしてのAISと便利な使い方

AISとは、船舶の自動識別装置(Automatic Identification System)のことです。

これを搭載している船は、地図上に自動的に表示されるので、自艇のいる海域にどんな船がどれくらいいるのか、どういう位置関係にあるのか、すぐにわかります。

これは船の安全な航行にも役立つと同時に、気になる豪華客船が今どこにいるのか、とか、世界一周中のヨットの現在位置を知る、ということにも使えます。

船舶の位置を示した地図を見るだけなら、特別な機材を使わなくても、パソコンやスマホのアプリで簡単に表示可能です。どんなものか、実際に見た方が早いでしょう。

ここで示している例は Marine Traffic というサイト で、日本付近を航行する船舶を示しています(2022年12月)。

東京湾~相模湾付近はこうなっています。

東京湾の出入口付近にズームインすると、こんな感じ。

気になる船があったら、その船の矢印をクリックしましょう。たとえば、中央やや上の赤い矢印をクリックしてみます。
次の図のように、船名、速度、進行方向などがポップアップで表示されます。

また、その船の詳細も(登録されていれば写真を含めて)知ることができます。

もちろん、船名から位置を検索することもできます。
日本を代表する豪華客船・日本丸が現在どこにいるのか、調べてみると、こんな風に港に停泊中でした。

上記はすべてパソコンで表示させたAISの船舶データです。

エリアは日本やアジアに限りません。欧米やアフリカなど、世界中の海を表示できます。船も世界中の船舶が対象です。

スマホのアプリでも、エリアを選んで、自由に拡大縮小ができます。

※AISで検索すれば アプリも何種類か出てきます。

では、もう少し具体的に見ていきましょう。

客船かタンカーか、プレジャーボートかなど、どういう船かは色分けされています。
動いている船は、矢印で示され、動いていない船は●で示されます。

AISについては、旅客船や一定の大きさを超える船には搭載義務があります。

日本では、海上人命安全(SOLAS)条約に基づき、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」という長い名前の法律で、すべての旅客船と総トン数500トン以上の船舶(国際航海に従事する船舶は300トン以上)にAISの搭載が義務づけられています。

プレジャーボートに搭載義務はありませんが、その利便性から、日本一周など、ロングクルージングをしているヨットなどでも、AISを搭載した艇が増えているようです。

利便性というのは、たとえば、海の上は沿岸でもスマホが通じないことがよくありますが、スマホが圏外でも、自宅にいる家族には船が今どのあたりにいるのか、どの方角に向かっているか一目瞭然なので、安否確認ツールにもなっています。

海上保安庁のAISについて説明したサイト

国際VHF無線機の運用手順と関連情報

船舶での非常時の連絡に有効な国際VHFについて、
利用可能なチャンネルと具体的な手順を A4 用紙 2 枚に整理した「国際VHFの運用手順」(pdfファイル)をダウンロードできるようにしました。もちろん無料です(欧米ではこうしたカードが普通に販売されています)。
印刷してラミネート加工し、無線機の近くに置いておけば、忘れても安心?

国際VHFの運用手順 (pdfファイル)

国際VHFでは、操作(運用)する者の資格として
海上特殊無線技士の免許

設置する無線機(船舶局)に対して
特定船舶局の免許

の2つが必要になります。

プレジャーボート用の無線機としては、
●携帯可能な出力5W以下のハンディタイプ
●25W 以下の固定型

があります。

無線機の出力によって、必要な運用資格が変わります。

●5W 以下: 第3級海上特殊無線技士以上
●25W以下: 第2級海上特殊無線技士以上

※ 自艇で無線局を開局するには、海上特殊無線技士免許を取得した上で、
電波法に基づいて「特定船舶局」の開局申請をする必要があります。

3級海上特殊無線技士免許については、マリーナ等で行われる講習を受けるだけで免許が与えられたりするため、ハードルはそれほど高くありません。国家試験を受けて、手数料のみで安くすませることも可能です。

船舶局の開局申請については、技術基準適合証明を受けた、いわゆる「技適マーク」付きの無線機を購入して申請すれば許可されます。

申請内容については、無線機に添付された資料の説明に従って所定の用紙に記入するだけです。提出は、オンラインでも可能です。

関連する情報のサイトは、次のとおりです。

総務省の『国際VHF利用ガイド』(pdfファイル)

国際VHFに関する一般的な説明(日本マリン無線協会のサイト)

国際VHFを使用するための免許について(日本無線協会のサイト)
ここで1~級海上特殊無線技士の詳細情報が入手できます。

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前回掲載したの国際VHFの具体的な運用手順についてはこちら

安全備品としての国際VHF無線機の使い方と具体的な手順(日本語と英語)

 

安全備品としての国際VHF無線機の使い方と具体的な手順(日本語と英語)

小型船舶で緊急時の法定備品として指定されている信号紅炎(非常事態を知らせる発煙装置)(1個)が携帯やスマホで代用できることは、プレジャーボートに乗っている人はよくご存じでしょう。

スマホはGPSで現在地もわかるし、海図を表示させてナビゲーションに利用することもできる便利なツールです。

問題は、相手の番号がわからないと通話できないことと、海の上では圏外のことが多いということ。

たとえば、目の前に他の船がいても番号を知らないと連絡できないし、スマホの基地局は建物や住宅の多いエリアから重点的に設置されているので、海の上では陸の近くでも意外なところで圏外になることがあります。

そういう場合に役立つのが、国際VHFと呼ばれる無線装置です。

これは国内外で広く利用されている船舶共通通信システムです。

海外では、海沿いにあるレストランに船から食事の予約をして乗りつける、といったカジュアルな使い方もされています。日本では、海岸局/船舶局ともに申請・許可が必要で、操作する者にも運用免許が必要になるため、ちょっとハードルが高くなっています。

管轄の総務省はしきりに旗をふっていますが、プレジャーボートではなかなか普及しませんね。

とはいえ、国際VHFは、プレジャーボートだけでなく、大型の船舶や海上保安庁、各国コーストガードも常時ワッチしているため、特に非常時には威力を発揮します。

知床の遊覧船事故はまだ記憶に新しいですが、船と会社との連絡に(携帯が通じないエリアなので)アマチュア無線を使用していた(しかも会社の装置は故障で使えなかった)ことも露見しました。そもそも、アマチュア無線を業務の連絡用に使うことはできません。

無線機があっても事故そのものを防ぐことはできませんが、いち早く救助を求める連絡手段を確保しておくことが、特に海や山では「命の確保」につながります。

というわけで、国際VHFの無線について、知っているようで知らない、具体的な運用の手順(ワッチ/聴守すべきチャンネル、相手への呼びかけとチャンネル移動、非常時の発信のやりかた)について、整理しておきましょう。

 

ワッチ(聴守)すべきチャンネル

ワッチとは船では見張り(当番)のことです。
無線では、電源を入れ、特定のチャンネルで何らかの応答がなされたとき、それが聞こえるようにしておくことです。

チャンネル16:海上航行する船舶で呼び出しや応答をする専用チャンネル。

これは必須(既定)。救助要請もこのチャンネルで呼びかけます。
海上保安庁(以下、「海保」)を含め、本船はほぼすべてがこのチャンネルを聞いている(はず……本船では設置が義務化されています)。

複数のチャンネルを同時に並行して聴守できるマルチワッチ機能付の無線機では、これに加えて

チャンネル77: 旧マリンVHFの呼び出し専用チャンネル

(プレジャーボート用に総務省推奨)
プレジャーボート同志で交信をするときは、このチャンネルで呼び出し、別の空いているチャンネルに移動して交信を続けます(チャンネル16でも可能ですが、エリアによっては順番待ちになることもあるので)。

※ かつて日本ではVHF無線は国際VHF(主に本船用)とマリンVHF(プレジャーボート用)の二本立てでしたが、法改正で、現在は国際VHFに統一されています。
国際VHFといっても英語では Marine VHF になるため、国内専用のマリンVHFとの混同もあり、非常にまぎらわしかったですね。

チャンネル9: 海保の基地局との交信

特定の相手(船)に呼びかける手順

まず、

  • チャンネル16(または77)で相手(船)を呼び出し、
  • 応答があったら、
  • 別の空いているチャンネル(通話用チャンネル)に切り替えて話をします。

プレジャーボートの通話用チャンネル: 69、72、73(総務省で推奨)
航行している船舶同士の通話用チャンネル: 6、8、10
航行の安全のための通信用チャンネル: 13(海上保安庁を含む)

※ 移動先のチャンネルが空いているか(そのとき他の船が使っていないか)を確かめて、つまり、そのチャンネルで応答がなされているかしばらく聞いてみて、呼び出し専用チャンネル(16/77)に戻って、マイクのボタンを押し、呼び出しの発信をします。

では、具体的な交信の例です。

日本では海外の船も数多く航行しているので、英語の例もつけ加えてあります。
(自艇をドンブラコ号、相手の船をコロンブス号、通話チャンネルを69と仮定)
チャンネルを16または77にしてから、呼びかけます。

自艇: コロンブス号、コロンブス号、コロンブス号。こちらはドンブラコ号。どうぞ。
英語: Columbus, Columbus, Columbus. This is Donburako. Over.

相手の船名を3回、自分の船名を1回言ってから、「どうぞ」(終わりの合図)で、応答を待ちます。
逆に自艇がコロンブス号で、上のように呼び出されたら、同じ形式で返事をします。

相手の船: ドンブラコ号、ドンブラコ号、ドンブラコ号。こちらはコロンブス号。どうぞ。
英語:Donburako, Donburako, Donburako. This is Columbus. Over.

自艇: ではチャンネル69に移ります。どうぞ。
英語: Please switch and listen to Channel 69. Over.

相手の船: チャンネル69に移ります。以上。
英語: Switching to Channel 69. Out.

この「移ります」まで耳で確認してから、無線機のチャンネルを69に切り替え、
最初の呼び出しと同じ手順で相手の船を呼び出して、必要な会話を続けます。

必要な会話とは、たとえば逆方向から来て行き合い関係になった船同士で、互いに相手の船を認識しているのか確かめたり、自艇の回避行動を告げたり、事故を未然に防止するための連絡です。

「以上」 (Out) は、呼び出し専用チャンネルを終了するという意味です。

呼び出し専用の16チャンネルを使おうとして、他船等がすでに呼び出しを行っていた場合、その呼び出しの終了を確認して(「以上」(Out)を聞いて)から、自艇での呼び出しを開始します。

相手が船舶ではなく陸上の海岸局の場合も手順は同じですが、通話チャンネルが異なります。

海保の基地局: チャンネル9
海保やポートラジオ等: チャンネル11、12、14
マリーナ等の海岸局: 71、74、86

※ ポートラジオは港湾業務用の通信を伝達するための陸上の海岸局で、全国に33カ所あります。
プレジャーボートに直接関係ありませんが、気象情報や船の航行状況、入出港時間など、さまざまなやりとりがなされています。

非常時に救助を求める場合

事故による船の浸水/沈没の危険があり、人命にかかわる状況で救助を求める通信を行うには、VHF無線機をチャンネル16にセットし、次のように発信します。

メーデー、メーデー、メーデー。こちらはドンブラコ号、ドンブラコ号、ドンブラコ号。
Mayday, Mayday, Mayday. This is Donbrako, Donbrako, Donburako.

次に、自艇の位置、非常事態の内容(浸水/負傷/火災)、必要な支援(排水ポンプ/救助/曳航)、乗員数、艇の種類/大きさ/外観(色)など、わかる範囲の情報を簡潔に伝え、「以上」で切って、応答を待ちます。

しばらく待ち、応答があれば、通話に切り替えます。
応答がなけば、少し間をおいて、何らかの応答があるまで、上記を繰り返します。

[通話内容の例]
磁針方位185度に石廊崎灯台、距離3海里
Irozaki Light bears 185 degrees magnetic, distance 3 miles.

(GPSで緯度経度がわかる場合は、それも伝えましょう)
現在地は北緯34度33分39秒、東経138度51分20秒
My position is 34 degrees, 33 minutes, 39 seconds North, 138 degrees, 51 minutes, 20 seconds East.

※ 非常時にはデータなどわからないことも多いでしょう。そういうときは目に見える範囲で目立つもの(山や灯台、建物、煙突など)がどっちの方向に、どれくらいの距離に見えるかを伝えるだけでも救助到着までの時間短縮につながります。

水面下の物体と衝突した。
Struck submerged object.
排水ポンプ/治療/けん引が必要。
Need pumps / medical assistance / tow.
乗員は5人
Five persons on board.
大人3人、子供2人。
Three adults, two children.
1名、腕の骨折。
One person, fracture of arm.
2時間は浮いていると思われる。
Estimate can remain afloat two hours.
全長32フィートのキャビンつきクルーザー、船体は白、デッキハウスは青。
Thirty two foot cabin cruiser, white hull, blue deck house.
以上。
Over.

といったことを伝えます。

また、国際VHF無線機には、非常用ボタン(赤色で Distressなどと書いてある)がついていることもあります。
このボタンを押すと、救助要請が自動的に発信され、海保や周囲にいる他の船舶の無線機でアラームが鳴って知らせるようになっています。
船が沈没する危険があるなど、命の危険があるときは、ちゅうちょなく押しましょう。

※ ボタンにふれただけで誤作動しないように、3秒ほど長押しすると発信されるようになっています。
誤って押してしまった場合は、遭難信号の発信を停止させ(手順は無線機によって異なります)、さらに呼び出しを行ったチャンネルで、次のように取り消しておきましょう。

各局、各局、各局。こちらはドンブラコ号。12時40分の遭難通報を取り消します。
英語: All stations, All stations, All stations. This is Donburako. Cancel my distress alert of 12 40 JST.

※ JSTは日本標準時 (Japan Standard Time),
UTC: 協定世界時(= グリニッジ標準時)

何らかの救助が必要だが、船が沈むとか人命にかかわる危険がそれほど差し迫っていない場合には、メーデーの代わりにパン、パン Pan-Pan を使います(それ以外の手順は同じです)。

パン・パン、パン・パン、パン・パン。こちらはドンブラコ号。
英語: Pan-Pan, Pan-Pan, Pan-Pan. This is Donbrako.

状況、必要とする支援内容、乗員数、艇の説明などを説明して応答を待ちます。