現代語訳『海のロマンス』80:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第80回)


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連邦下院を参観

そろって白シャツの制服姿をした六十人の学生が、議会のある通りに面した下院議員昇降口側の大玄関(ポルチコ)の前に並んで、すぐ目の前にそそりたつテーブルマウンテンから吹きおろしていくる涼しい風に汗ばんだ額をふいたのは、予定時刻の午後三時であった。

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現代語訳『海のロマンス』79:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第79回)

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その膝下(しっか)に立ちて

二月十四日、ケープタウンの最初の上陸日に、ぼくはアデレイ通りのビジターズ・ルームを訪問して、ケープタウンと、ケープタウン入港当時に最大に関心事だったテーブルマウンテンのことに関して概括的な知識を得ようと試みた。すると、CPCA(ケープ半島登山会)の首席秘書官だというミスター・アディックソンという人が親切にも奥から出てきて、いろいろと説明してくれ、望みとあらば「登山会」の方から有志五、六名を案内者として出してもよい、などとさかんに親切な申し出をしてくれた。英国人はいったん好意を示したが最後、うるさいほど世話をやき面倒をみてくれる国民だと聞き及んでいる。何か親切の後押しが来ているだろうと(少々意地がきたないようだが、決して心待ちしていたというわけではない)、議会の傍聴をすませて船に戻ってみると、手紙が先回りしてすでに届いていたのにはいささか驚いた。そのなかに、「ケープタウンの者にとって、テーブルマウンテンはいわゆる「詩郷(ホーム・オブ・ポエトリー)である。その明暗、対照的な二つの表情は、見る人の想像をそそるに違いない。しかし、この山に対する賛辞(さんじ)は、登山したいという熱烈なる思慕(しぼ)の念と平等に論ぜらるべきものではない。従って、想像して得られた印象がかのラスキンによって描出せられたもののように深(しん)かつ大(だい)であるとしても、真に山の神秘を洞察しその真髄を理解するには、実際にその山に登ってみなければわからない」というような一節があった。

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ヨーロッパをカヌーで旅する 92:マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第92回)


この航海記の初版では、川下りで遭遇する岩のかわし方について、六つのパターンに分けて説明されています。その概略をこちらで紹介します。著者ジョン・マクレガー自身が描いた図です(下記で個別に拡大します)。

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それぞれの図で、川の流れは「下から上」に流れ、カヌーもその流れに乗って「下から上」に進むと想定されています。川の流れは岩で分流したりもするわけですが、それは薄い線で示してあります。岩については、斜線部は隠れ岩(沈み瀬)で、白枠のみは水面上に見えている(露出している)岩です。図1~図3と図5では、すべて隠れ岩になっています。


図中の太い線はカヌー(の中心)が進むべきコース(推奨)を示しています。


慣れれば自然にこのコースをとれるようになるが、いずれの場合も岩からカヌーの長さの半分以上の距離を空けて通過すること、としています。


このあたり、現代の高性能で軽量なカヌー/カヤックでは対処法も異なるかもしれませんが、ゴムボートによるラフティングや小型のボートによる川下りでは頭に入れておいた方がよいでしょう。


では、個々の事例について、具体的にマクレガーの説明を紹介しましょう。


カヌーが川に浮かんでいて、特に障害物がない場合、カヌーはそのまま流れに乗って進み、前方に露出した岩があれば、川の流れは自然にその岩を避けて、どちらか一方の側にカヌーを運んでくれる。

これが最も単純なケースで、こういう状況が一番多い。

習うより慣れろで、パドリング技術を要するわけではないので、特に注意すべきことはない。

障害物(岩)を回避する基本パターン

川で前方に露出していない隠れ岩が一つあり、川面の様子からカヌーがその上を通過できるだけの水深があるかはっきりしない場合
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・ 図1のように、岩の手前(上流側)で迂回(うかい)するか、
・ 図2のように、岩の脇をやりすごしてから下流側で迂回する

川下りの最初の頃に実際に何度か意識して、

「隠れ岩の上流側」
「隠れ岩の下流側」

の両方で、カヌーの先端の向きを変えて(進入角度を変えて)半円を描くようにスムーズに方向を調節する練習を積んでおくと、もっと複雑な状況に遭遇した際にあわてなくて済む。

回避すべき岩が複数あって、やや複雑な状況では、どうすべきだろうか?

岩の数がどんなに多くても、通過する際にカヌーが通るべきパターンとしては「3つの岩の組み合わせ」に集約できる。

図3~6では、カヌーは岩Aと岩Bの間を通り、それから岩Bと岩Cの間を通るべきである。岩Aと岩Cの間は通らないこと。

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岩Aと岩Bの間、岩Bと岩Cの間を通過するのは図1と図2の応用(組み合わせ)になる。

カヌーがAとBの間を通過する際の進入角度は、カヌーの長手方向(縦)の軸と、BとCの間を通過して次にどの方向に向かうかによって変わる。

だから、図1と図2の隠れ岩を迂回する際に、図3以下の場合に求められる角度を想定して、それをかわす技術を身につけることが重要になってくる。

(図4~6については次回)

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現代語訳『海のロマンス』78:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第78回)
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五、ハーシェル翁

テーブルクロスと呼ばれる雲の成因と、その雲自体と南東風(サウイースター)との関係はずいぶんと長い間、気象学者が頭をひねった問題であった。そして、今なお的確に理解し説明したものはないが、強いサウイースターがテーブルマウンテンの裏手にあるサイモンズ湾から吹き上がって、生ぬるいインド洋の湿潤な空気が冷涼な山頂にぶつかり、白いテーブルクロスとなるという大雑把な説では皆一致するようである。この白いテーブルクロスが黒く汚れたが最後、獰猛(どうもう)な雲と風とは義経(よしつね)のひよどり越えさながら無造作に落とし来たって、ケープタウンはたちまち塵(ちり)と瓦礫(がれき)の修羅場(しゅらば)となってしまう。figure-p268-modified


※ 一般の世界地図のイメージに合わせて、原図の左右を逆にして示してあります。
サイモンズ湾は、ホオジロザメの見学ツアーでも有名な、広い意味のファルス湾にある小湾です。

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