航海の安全を確保するツールとしてのAISと便利な使い方

AISとは、船舶の自動識別装置(Automatic Identification System)のことです。

これを搭載している船は、地図上に自動的に表示されるので、自艇のいる海域にどんな船がどれくらいいるのか、どういう位置関係にあるのか、すぐにわかります。

これは船の安全な航行にも役立つと同時に、気になる豪華客船が今どこにいるのか、とか、世界一周中のヨットの現在位置を知る、ということにも使えます。

船舶の位置を示した地図を見るだけなら、特別な機材を使わなくても、パソコンやスマホのアプリで簡単に表示可能です。どんなものか、実際に見た方が早いでしょう。

ここで示している例は Marine Traffic というサイト で、日本付近を航行する船舶を示しています(2022年12月)。

東京湾~相模湾付近はこうなっています。

東京湾の出入口付近にズームインすると、こんな感じ。

気になる船があったら、その船の矢印をクリックしましょう。たとえば、中央やや上の赤い矢印をクリックしてみます。
次の図のように、船名、速度、進行方向などがポップアップで表示されます。

また、その船の詳細も(登録されていれば写真を含めて)知ることができます。

もちろん、船名から位置を検索することもできます。
日本を代表する豪華客船・日本丸が現在どこにいるのか、調べてみると、こんな風に港に停泊中でした。

上記はすべてパソコンで表示させたAISの船舶データです。

エリアは日本やアジアに限りません。欧米やアフリカなど、世界中の海を表示できます。船も世界中の船舶が対象です。

スマホのアプリでも、エリアを選んで、自由に拡大縮小ができます。

※AISで検索すれば アプリも何種類か出てきます。

では、もう少し具体的に見ていきましょう。

客船かタンカーか、プレジャーボートかなど、どういう船かは色分けされています。
動いている船は、矢印で示され、動いていない船は●で示されます。

AISについては、旅客船や一定の大きさを超える船には搭載義務があります。

日本では、海上人命安全(SOLAS)条約に基づき、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」という長い名前の法律で、すべての旅客船と総トン数500トン以上の船舶(国際航海に従事する船舶は300トン以上)にAISの搭載が義務づけられています。

プレジャーボートに搭載義務はありませんが、その利便性から、日本一周など、ロングクルージングをしているヨットなどでも、AISを搭載した艇が増えているようです。

利便性というのは、たとえば、海の上は沿岸でもスマホが通じないことがよくありますが、スマホが圏外でも、自宅にいる家族には船が今どのあたりにいるのか、どの方角に向かっているか一目瞭然なので、安否確認ツールにもなっています。

海上保安庁のAISについて説明したサイト

国際VHF無線機の運用手順と関連情報

船舶での非常時の連絡に有効な国際VHFについて、
利用可能なチャンネルと具体的な手順を A4 用紙 2 枚に整理した「国際VHFの運用手順」(pdfファイル)をダウンロードできるようにしました。もちろん無料です(欧米ではこうしたカードが普通に販売されています)。
印刷してラミネート加工し、無線機の近くに置いておけば、忘れても安心?

国際VHFの運用手順 (pdfファイル)

国際VHFでは、操作(運用)する者の資格として
海上特殊無線技士の免許

設置する無線機(船舶局)に対して
特定船舶局の免許

の2つが必要になります。

プレジャーボート用の無線機としては、
●携帯可能な出力5W以下のハンディタイプ
●25W 以下の固定型

があります。

無線機の出力によって、必要な運用資格が変わります。

●5W 以下: 第3級海上特殊無線技士以上
●25W以下: 第2級海上特殊無線技士以上

※ 自艇で無線局を開局するには、海上特殊無線技士免許を取得した上で、
電波法に基づいて「特定船舶局」の開局申請をする必要があります。

3級海上特殊無線技士免許については、マリーナ等で行われる講習を受けるだけで免許が与えられたりするため、ハードルはそれほど高くありません。国家試験を受けて、手数料のみで安くすませることも可能です。

船舶局の開局申請については、技術基準適合証明を受けた、いわゆる「技適マーク」付きの無線機を購入して申請すれば許可されます。

申請内容については、無線機に添付された資料の説明に従って所定の用紙に記入するだけです。提出は、オンラインでも可能です。

関連する情報のサイトは、次のとおりです。

総務省の『国際VHF利用ガイド』(pdfファイル)

国際VHFに関する一般的な説明(日本マリン無線協会のサイト)

国際VHFを使用するための免許について(日本無線協会のサイト)
ここで1~級海上特殊無線技士の詳細情報が入手できます。

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前回掲載したの国際VHFの具体的な運用手順についてはこちら

安全備品としての国際VHF無線機の使い方と具体的な手順(日本語と英語)

 

安全備品としての国際VHF無線機の使い方と具体的な手順(日本語と英語)

小型船舶で緊急時の法定備品として指定されている信号紅炎(非常事態を知らせる発煙装置)(1個)が携帯やスマホで代用できることは、プレジャーボートに乗っている人はよくご存じでしょう。

スマホはGPSで現在地もわかるし、海図を表示させてナビゲーションに利用することもできる便利なツールです。

問題は、相手の番号がわからないと通話できないことと、海の上では圏外のことが多いということ。

たとえば、目の前に他の船がいても番号を知らないと連絡できないし、スマホの基地局は建物や住宅の多いエリアから重点的に設置されているので、海の上では陸の近くでも意外なところで圏外になることがあります。

そういう場合に役立つのが、国際VHFと呼ばれる無線装置です。

これは国内外で広く利用されている船舶共通通信システムです。

海外では、海沿いにあるレストランに船から食事の予約をして乗りつける、といったカジュアルな使い方もされています。日本では、海岸局/船舶局ともに申請・許可が必要で、操作する者にも運用免許が必要になるため、ちょっとハードルが高くなっています。

管轄の総務省はしきりに旗をふっていますが、プレジャーボートではなかなか普及しませんね。

とはいえ、国際VHFは、プレジャーボートだけでなく、大型の船舶や海上保安庁、各国コーストガードも常時ワッチしているため、特に非常時には威力を発揮します。

知床の遊覧船事故はまだ記憶に新しいですが、船と会社との連絡に(携帯が通じないエリアなので)アマチュア無線を使用していた(しかも会社の装置は故障で使えなかった)ことも露見しました。そもそも、アマチュア無線を業務の連絡用に使うことはできません。

無線機があっても事故そのものを防ぐことはできませんが、いち早く救助を求める連絡手段を確保しておくことが、特に海や山では「命の確保」につながります。

というわけで、国際VHFの無線について、知っているようで知らない、具体的な運用の手順(ワッチ/聴守すべきチャンネル、相手への呼びかけとチャンネル移動、非常時の発信のやりかた)について、整理しておきましょう。

 

ワッチ(聴守)すべきチャンネル

ワッチとは船では見張り(当番)のことです。
無線では、電源を入れ、特定のチャンネルで何らかの応答がなされたとき、それが聞こえるようにしておくことです。

チャンネル16:海上航行する船舶で呼び出しや応答をする専用チャンネル。

これは必須(既定)。救助要請もこのチャンネルで呼びかけます。
海上保安庁(以下、「海保」)を含め、本船はほぼすべてがこのチャンネルを聞いている(はず……本船では設置が義務化されています)。

複数のチャンネルを同時に並行して聴守できるマルチワッチ機能付の無線機では、これに加えて

チャンネル77: 旧マリンVHFの呼び出し専用チャンネル

(プレジャーボート用に総務省推奨)
プレジャーボート同志で交信をするときは、このチャンネルで呼び出し、別の空いているチャンネルに移動して交信を続けます(チャンネル16でも可能ですが、エリアによっては順番待ちになることもあるので)。

※ かつて日本ではVHF無線は国際VHF(主に本船用)とマリンVHF(プレジャーボート用)の二本立てでしたが、法改正で、現在は国際VHFに統一されています。
国際VHFといっても英語では Marine VHF になるため、国内専用のマリンVHFとの混同もあり、非常にまぎらわしかったですね。

チャンネル9: 海保の基地局との交信

特定の相手(船)に呼びかける手順

まず、

  • チャンネル16(または77)で相手(船)を呼び出し、
  • 応答があったら、
  • 別の空いているチャンネル(通話用チャンネル)に切り替えて話をします。

プレジャーボートの通話用チャンネル: 69、72、73(総務省で推奨)
航行している船舶同士の通話用チャンネル: 6、8、10
航行の安全のための通信用チャンネル: 13(海上保安庁を含む)

※ 移動先のチャンネルが空いているか(そのとき他の船が使っていないか)を確かめて、つまり、そのチャンネルで応答がなされているかしばらく聞いてみて、呼び出し専用チャンネル(16/77)に戻って、マイクのボタンを押し、呼び出しの発信をします。

では、具体的な交信の例です。

日本では海外の船も数多く航行しているので、英語の例もつけ加えてあります。
(自艇をドンブラコ号、相手の船をコロンブス号、通話チャンネルを69と仮定)
チャンネルを16または77にしてから、呼びかけます。

自艇: コロンブス号、コロンブス号、コロンブス号。こちらはドンブラコ号。どうぞ。
英語: Columbus, Columbus, Columbus. This is Donburako. Over.

相手の船名を3回、自分の船名を1回言ってから、「どうぞ」(終わりの合図)で、応答を待ちます。
逆に自艇がコロンブス号で、上のように呼び出されたら、同じ形式で返事をします。

相手の船: ドンブラコ号、ドンブラコ号、ドンブラコ号。こちらはコロンブス号。どうぞ。
英語:Donburako, Donburako, Donburako. This is Columbus. Over.

自艇: ではチャンネル69に移ります。どうぞ。
英語: Please switch and listen to Channel 69. Over.

相手の船: チャンネル69に移ります。以上。
英語: Switching to Channel 69. Out.

この「移ります」まで耳で確認してから、無線機のチャンネルを69に切り替え、
最初の呼び出しと同じ手順で相手の船を呼び出して、必要な会話を続けます。

必要な会話とは、たとえば逆方向から来て行き合い関係になった船同士で、互いに相手の船を認識しているのか確かめたり、自艇の回避行動を告げたり、事故を未然に防止するための連絡です。

「以上」 (Out) は、呼び出し専用チャンネルを終了するという意味です。

呼び出し専用の16チャンネルを使おうとして、他船等がすでに呼び出しを行っていた場合、その呼び出しの終了を確認して(「以上」(Out)を聞いて)から、自艇での呼び出しを開始します。

相手が船舶ではなく陸上の海岸局の場合も手順は同じですが、通話チャンネルが異なります。

海保の基地局: チャンネル9
海保やポートラジオ等: チャンネル11、12、14
マリーナ等の海岸局: 71、74、86

※ ポートラジオは港湾業務用の通信を伝達するための陸上の海岸局で、全国に33カ所あります。
プレジャーボートに直接関係ありませんが、気象情報や船の航行状況、入出港時間など、さまざまなやりとりがなされています。

非常時に救助を求める場合

事故による船の浸水/沈没の危険があり、人命にかかわる状況で救助を求める通信を行うには、VHF無線機をチャンネル16にセットし、次のように発信します。

メーデー、メーデー、メーデー。こちらはドンブラコ号、ドンブラコ号、ドンブラコ号。
Mayday, Mayday, Mayday. This is Donbrako, Donbrako, Donburako.

次に、自艇の位置、非常事態の内容(浸水/負傷/火災)、必要な支援(排水ポンプ/救助/曳航)、乗員数、艇の種類/大きさ/外観(色)など、わかる範囲の情報を簡潔に伝え、「以上」で切って、応答を待ちます。

しばらく待ち、応答があれば、通話に切り替えます。
応答がなけば、少し間をおいて、何らかの応答があるまで、上記を繰り返します。

[通話内容の例]
磁針方位185度に石廊崎灯台、距離3海里
Irozaki Light bears 185 degrees magnetic, distance 3 miles.

(GPSで緯度経度がわかる場合は、それも伝えましょう)
現在地は北緯34度33分39秒、東経138度51分20秒
My position is 34 degrees, 33 minutes, 39 seconds North, 138 degrees, 51 minutes, 20 seconds East.

※ 非常時にはデータなどわからないことも多いでしょう。そういうときは目に見える範囲で目立つもの(山や灯台、建物、煙突など)がどっちの方向に、どれくらいの距離に見えるかを伝えるだけでも救助到着までの時間短縮につながります。

水面下の物体と衝突した。
Struck submerged object.
排水ポンプ/治療/けん引が必要。
Need pumps / medical assistance / tow.
乗員は5人
Five persons on board.
大人3人、子供2人。
Three adults, two children.
1名、腕の骨折。
One person, fracture of arm.
2時間は浮いていると思われる。
Estimate can remain afloat two hours.
全長32フィートのキャビンつきクルーザー、船体は白、デッキハウスは青。
Thirty two foot cabin cruiser, white hull, blue deck house.
以上。
Over.

といったことを伝えます。

また、国際VHF無線機には、非常用ボタン(赤色で Distressなどと書いてある)がついていることもあります。
このボタンを押すと、救助要請が自動的に発信され、海保や周囲にいる他の船舶の無線機でアラームが鳴って知らせるようになっています。
船が沈没する危険があるなど、命の危険があるときは、ちゅうちょなく押しましょう。

※ ボタンにふれただけで誤作動しないように、3秒ほど長押しすると発信されるようになっています。
誤って押してしまった場合は、遭難信号の発信を停止させ(手順は無線機によって異なります)、さらに呼び出しを行ったチャンネルで、次のように取り消しておきましょう。

各局、各局、各局。こちらはドンブラコ号。12時40分の遭難通報を取り消します。
英語: All stations, All stations, All stations. This is Donburako. Cancel my distress alert of 12 40 JST.

※ JSTは日本標準時 (Japan Standard Time),
UTC: 協定世界時(= グリニッジ標準時)

何らかの救助が必要だが、船が沈むとか人命にかかわる危険がそれほど差し迫っていない場合には、メーデーの代わりにパン、パン Pan-Pan を使います(それ以外の手順は同じです)。

パン・パン、パン・パン、パン・パン。こちらはドンブラコ号。
英語: Pan-Pan, Pan-Pan, Pan-Pan. This is Donbrako.

状況、必要とする支援内容、乗員数、艇の説明などを説明して応答を待ちます。

 

小型船舶の灯火の使い方と見分け方

海の上では、陸上と交通のルールが違っているのは当然ですが、目には見えないものの航路という名の道はあります。

海に出るときに知っておくべき最低限のルールの後半。今回は灯火です。

夜間航海するときに灯火は必須ですが、帆走中のヨットが夜にマストの全周灯をつけていたり(オーバーナイトのレースでは実際に多い)、間違って覚えている人も多いようです。

衝突しそうになったときに、どちらが避けるべきか判断する基準にも大きく影響しますから、条件別に整理しておきましょう。きちんと整理しておけば、それほど複雑なシステムではありません。

灯火の種類

舷灯: 船の右舷(緑)か左舷(赤)を示す灯火。
両色灯: 左右の舷灯を1個にまとめた灯火器(小型船で使われる)。
三色灯: 左右の舷灯と船尾灯を1つにまとめ、光の色を120度ごとに分けた灯火器(ヨットで使われる)

※両色灯やマスト灯と呼ばれるものは(後の120度の白灯がない/見えないようになっている)

船尾灯: 後方からのみ(120度)見えるようになっている灯火(白)。
全周灯: 360度の方向から見える灯火(白)
(ヨットのマストトップなどに設置)
マスト灯: 全周灯(白)に似ているが、船尾方向からは見えない。
(マストの前面に設置)

※マスト灯と船尾灯をあわせて、ちょうど360度になる。

灯火が一般的に意味すること

1 夜間に自艇の進行方向に別な船の赤灯が見えたら、自分の船が避航船になる。
2 1の例で、緑と赤の灯火が並び、しかも白灯が見えたら、
正面から向き合っている!
3 緑と赤の舷灯が見えず白灯だけが見えたら、
前方を同じ方向に進んでいる船がいる。
※ 例外: 帆船やろかい舟(後述)

では、小型船舶の灯火の設置について、具体的に見ていきましょう。

まず、動力船か、それ以外か、に大別されます。

動力船(モーターボートなど)の灯火

長さ20m未満
両色灯+マスト灯+船尾灯
前から見ると 両色灯とマスト灯が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火+マスト灯(白)
後ろから見ると 船尾灯(白)

長さ12m未満
両色灯+全周灯(白)
前から見ると 両色灯と全周灯(白)が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火+全周灯(白)
後ろから見ると 全周灯(白)

長さ7m未満
全周灯(白)
前から見ると 全周灯(白)が見える。
横から見ると、全周灯(白)が見える。
後ろから見ると 全周灯(白)が見える。

帆船やろかい舟(ヨットや手こぎの釣り船など)の灯火

長さ20m未満の帆船
帆走時: マストトップに三色灯(または両色灯+船尾灯)
機走/機帆走時: 動力船とみなされるので、白色全周灯をつける。
(※ 船尾灯は消す=大型船と間違われないように)。
前から見ると 両色灯が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火
後ろから見ると 船尾灯(白)

長さ7m未満の帆船とろかい舟
白色の携帯電灯(携帯可能な小型の全周灯)
前、横、後ろのどこから見ても、白灯1個が見える。

大型船などの灯火

夜間航行中、接近している船舶があり、しかも白灯が2つ見えた場合、50m以上の大型船か、漁労中の船舶の可能性があります。

また、3つ見えた場合、操縦性能制限船か、船が連なった引き船の可能性があります。

大型船のブリッジから小さなプレジャーボートは見えにくく、回避行動もとりにくい(急に方向転換できない)ので、いずれの場合も危険を察知した小型船の方で自衛のために早め早めに回避行動をとるのがおすすめ。

自艇に権利がある有利な状況でも、ぶつかったらプレジャーボートの方が負けますからね。

こういう場合、「逃げるが勝ち」「君子危うきに近寄らず」で、楽しく遊びましょう。

海上の交通ルールと、黒色形象物/音響信号の使い方

海の上では、陸上と交通のルールが違っているのは当然ですが、目には見えないものの航路という名の道はあります。

海上で起きる事故は「決められたルールをちゃんと守っていなかった」ことが原因のことが多く、そのあたりの事情は交通事故と同じですね。

船舶の運航を職業としている人と違い、たまに釣り船に乗ったり、モーターボートやジェットスキー、ヨットで遊んだりする人は、小型船舶操縦士の試験で一度は習ったはずのルールをすっかり忘れて、知らず知らずのうちに危険な行為をしてたりします。

というわけで、海に出るときに知っておくべき最低限のルールをこちらでご紹介しておきましょう。

本船や頑丈な漁船とぶつかったら、華奢なFRP(強化プラスチック)製のプレジャーボートなど、ひとたまりもありません。自分の身は自分で守らないと……

●船同士が行き会う場合(反対方向から船が来るとき)

上図のように、逆方向から来た船同志がすれ違う場合、互いに右に避けます。

これは狭い水道(海が陸と陸にはさまれて狭くなっているところ)で行き会った場合も同じです。
こういう狭い水道では、行き会いがなくても、無理のない範囲で「右に寄って進む」のが基本です。

●互いの進路を横切りそうな場合(位置関係が変わらず、距離だけが接近するとき)

下の図のような関係ですね。

相手の見える方向がずっと変わらず互いに接近してくる状態だと、いずれ衝突する危険があるので、回避行動をとらなければなりません。

前を向いて自艇の右手に相手の船があれば(夜間では赤い左舷灯が見えるとき)、自分の船を右転させて相手を避けなければなりません(避航船)。

一方、自艇の左手に相手が見える場合(夜間では緑の右舷灯が見えるとき)、自艇は速度や進路は変えず、そのまま進みます(保持船)。

「避航船」と「保持船」という言葉を覚えておきましょう。どっちが優先されるか、を間違えないことが重要です。

相手が優先される場合、自分の方から回避行動をとります(右に避ける)。
逆に、権利のある船(保持船)は、そのままの進路を保つという責任があるのを忘れないように。

●船の優先順位

ここで、船舶には優先されるべき順序があるということを理解しておきましょう。

互いに航行している動力船(普通にエンジンで動いている船)同志であれば、大型の本船も小型のモーターボートも権利の上では対等なので、上記のルールに従いますが、相手が次のような場合には、スムーズに動ける動力船の方が回避行動をとらなければなりません(状況に応じて、右転でも左転でも可)。

1 運転不自由船
2 操縦性能制限船
3 漁労に従事している漁船
4 帆船

左端の番号も優先順位を示しています。

つまり、通常の動力船は1~4の船を避けなければならず、4の帆船は1~3の船を避けなければなりません。

運転不自由船: エンジン等の故障で動けない
(黒い球形の形象物を2個つるしている)

操縦性能制限船: 浚渫など作業中の船
(球形、ひし形、球形の形象物をつるしている)

漁労に従事している漁船: 網を引いたりしている漁船
(つづみ形の形象物をつるしている)
※ 釣りやトローリングしている漁船は、通常の動力船とみなされる。

帆船: 帆走しているヨット等
機走や機帆走しているヨットは、通常の動力船として扱われる)

※ 黒色形象物について

小型船舶の法定備品としてプレジャーボートで必要となる黒色形象物は球形のもの3個と円すい形1個ですが、他にも円筒形などがあります(ひし形とつづみ形は、円すい2個をつないで表現します)。
その意味は、下の表のとおりです。

●追い越す場合

前にいる船を追い越す場合、状況に応じて、左右どちらから追い越してもよいのですが、相手の船から十分な距離を保って追い越すことが必要です。

広い海面では距離をおいて自由に抜いていけばよいのですが、狭い水道などでは、音響信号(汽笛やフォグホーン)で「追い越す」ことを事前に相手に通知し、相手から了解をもらう必要があります。

※ 音響信号の使い方

音響信号で、短音とは約1秒鳴らし、長音とは4~6秒鳴らすことです(モールス信号のトン、ツーと同じように、それを組み合わせて意思を伝えます)。

音響信号には、一般に次の意味があります。
●短音1回(・): 自分の船が前を向いた状態で右に転じるとき
●短音2回(・・): 自分の船が前を向いた状態で左に転じるとき
●短音3回(・・・): 自分の船をバックさせるとき

相手の船に追い越しの意思を伝える場合、まず長音を二回続けてから、左右のどちらから追い抜くかを伝えます。 すなわち、

●右側から追い越す場合: 長音 長音 短音( --・ )
●左側から追い越す場合: 長音 長音 短音 短音( --・・)

追い越される船は、了解したという合図として 長音 短音 長音 短音( -・-・)を鳴らします。
追い越される船からの反応がないときは、追い越しできません

なお、急速に短音を5回以上鳴らすのは「意味がわからない」か「警告」の意味です。

音響信号は、霧がでて視界がきかないときにも使用されます。

航行中の動力船で対水速力がある場合: 2分を超えない長音1回
航行中の動力船で対水速力がない(動いていない)場合: 2分を超えない長音を2回
航行中の帆船、運転不自由船等の場合: 2分を超えない長音+短音2回

●港に出入りする場合の特別なルール

港への出入りでは、基本的に、出て行く船が優先されます。
港に入ろうとして出る船を見かけたら、港の外で待機します。

防波堤を回って出入港する場合、防波堤の先端を右まわりで入る場合は小さく(近づいて)まわり、左まわりの
場合は大きく(離して)まわります。

以上のことは、主に海上衝突予防法に基づいています。

航行する海域によって、さらに港則法(特定の港湾)や海上交通安全法(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の三海域にある11航路にのみ適用)に従う必要も出てきます。

航海灯や左右の舷灯などの灯火については、煩雑になるので、また別の機会に説明しましょう。

ヨット乗りが航海に持参すべき25の必需品

ヨットや帆船、ボートやカヌーに乗る場合、船の装備品とは別に、万一に備えて自分で用意していた方がよいものがあります。

“25 things every sailor needs” (船乗り必携の25の品物)
からご紹介しましょう。

これはランス・ゲトラーというアメリカでヨットの回航を生業の一つにしているヨット乗りが自分の体験に基づいてまとめたリストで、アマゾンの電子書籍として入手できます。
※ 書籍といっても、パンフレットを少し詳しくしたような小冊子で、英語も平易なので、興味のある方は手にとってお読みください。

想定される航海に必要な装備や飲食物は船に搭載してあることが前提です。

依頼を受けてヨットやボートを指定された別の国や港まで回航する際に必ず持ち込む「私物」のリストです。著者は全部で5キロ以内でバックパック1個におさまると述べています(下の写真)。


(source: photo from “25 things every sailor needs”)

むろん、自分の環境に合わせて適当にアレンジすべきですよ。
そのリストを具体的に見ていきましょう。
著者ランス・ゲトラーの意見を参考に、海洋冒険文庫として補足してあります。

1. ナイフ
常時携帯し片手で扱える折りたたみ式のナイフ。
いざという時、ロープを切るには刃の一部がノコギリ状になっているものがよい。
マルチツールとは別。単機能の専用ツールの方が使い勝手はよい。

2. 偏光メガネ
海上は紫外線が強いので第一義は目の保護。サングラスでもよいが、
海上のものを明確に見極めるには偏光メガネがベター。
予算の許す範囲で高品質のものが、長い目で見れば安上がり。

3. 光量切り替え可能なヘッドライト
照明器具としては、懐中電灯より両手の使えるヘッドライトがおすすめ。
夜間用に赤色があればなおよい。
従来の電球よりはLEDのライトで、予備の電池も。

4. マルチツール
定番のアウトドア必需品で、常に1個は持っていたい。
できれば、ナイフ式ではなく、先端が細いプライヤータイプがおすすめ。
ヨットでよく使われるシャックルキーの代用としても便利。

5. 救急セット
船には救急箱が装備されているはずなので、それとは別に、自分専用として。
小型のハサミや防水のバンドエイド、切り傷ややけどの外用薬等。
市販の小型キットをベースに、必要に応じて足したり引いたりすればよいでしょう。

6. ダクトテープ
いわゆるガムテープのような粘着テープ。
一巻きはいらないので、少量を巻いて持っていると、補修などでなにかと重宝。
最近はホームセンターなどにも強力な銀色のテープが売られてます。

7. スマホ
海図や潮汐表などアプリも豊富。
陸が見える沿岸航海では無線機の代わりにもなるし、何をするにも必需品。
充電器やコードも忘れずに。

8. ジップロックの袋
スマホや財布を含めて、濡らしては困るあらゆるものを入れておくのに必須。
この用途では大は小を兼ねますよ。
衣服用にはまた別の防水バッグを(後述)。

9. 結束バンド
インシュロックともいい、ホームセンターや百均にも普通に売られています。
用途は多く、大小各種をそろえておくと何かと重宝。
少し値段は高くなるものの、何度も繰り返し使用できるものもあります。

10. 雑索(細くて短いひも)
長さ別に色分けした3種類のひも(0.6m、1.2m、1.8m)を4本ずつ。
「長いひもを一巻き」よりは、実際の用途を思い浮かべて長さを決めておく。
一般に2mより長いひもが必要になることはあまりない(そもそも、ヨットにはロープが積んである)。

11. 水筒
落としても割れず、転がっても音も静かなプラスチックの水筒。
金属製は重く、気温によっては外側が結露する。
小型の船は揺れも大きいので、フタだけ飛んでいかないタイプがよい。

12. 日焼け止めとリップクリーム
SPF(日焼け防止指数)35以上。
海上では太陽光線はばかにできない。1日に2回塗る。泳いだら、その都度塗る。
紫外線で唇の皮がむけることもよくあるので、リップクリームも必須。

13. 軽食
短時間のつもりでもセーリングは意外に長くなることが多い。
エネルギー補給用にバーやビーフジャーキーなど傷まないもの。
いわゆるカロリーメイトのような栄養補給用の保存食品。

14. プラスチック製の洗濯バサミ
衣服やタオルを干すためのプラスチック製の洗濯ばさみ。
海水では金属はサビるのが早く、布地に染みがつきやすい。
洗濯ばさみは他にもいろんな用途で活躍。

15. 裁縫セットとハサミ
普通の布用の針と糸プラス帆の補修用の丈夫な針と糸。
カッター、小さな布用巻き尺も。
意外に必要になることがあるので、小さな袋に常時入れておく。

16. ネクスケア・スキン・クラック・ケア
液体の「塗る絆創膏」。指先の傷などにハケで塗って保護膜を作る。
アウトドアでは知る人ぞ知る製品。
日本では(液体ではない)ネクスケア保護テープとして売られていることが多い。

17. 蚊除け
セーリングに適した場所には、なぜか蚊が多い。
いろいろなタイプのものをお好みで。

18. 雨具
時期や場所によって重装備のものから簡易なものまで、
必要に応じて使い分け。
濡れてもすぐ乾く下着や着替えも必要。

19. 電子ブックリーダーまたは iPad
こちらは人によっては意見がわかれるでしょうか。
タブレットにゲームや電子書籍を入れておけば、
荷物にはならず暇つぶしにはなります。

20. 防水バッグ
下着など濡らしたくない物をいれておく、
密閉可能な大きめの袋。
バッグインバッグで、小分けして入れておくと取り出しやすい。

21. ライター
タバコを吸わない人でも、火をおこす必要がある場合もある。
1個持っておいても邪魔にはならない。

22. 腕時計
スマホで時間がわかるので腕時計はしない人も増えているとか。
とはいえ、スマホは濡れたらアウトなので海上では防水の腕時計は必需品。
夜間でも時間がわかるものがよい。

23. 靴
予備の濡れてもいい靴。非常用。
古くてもよいので使い古しのスニーカーなど。
はだしやサンダルで海岸の岩場は歩けない。

24. ウェットティッシュ
海で泳いだ後やシャワーがない環境で、身体を拭くため。
塩気をとり、さっぱりする。

25. 緊急時の連絡先リスト
自分の連絡先、最寄りの海上保安庁の支署と健康保険証や身分証明書のコピーなど。

いかがでしょうか。

海洋冒険文庫としては、これに落水防止のハーネスとテザー(ロープ)を追加したいですね。

左がテザー。ハーネスは中央(上半身用)と右端(腰回り)。
マストに上るときは上半身用のハーネス、バウでの作業やレースでは登山用の腰回りにつけるハーネスと使い分けたりします。ハーネスはどちらか片方でよい。

自分の状況にあわせて、上手に取捨選択し、航海をお楽しみください。

帆船やヨットで必須のロープワーク10選 (2/2)

帆船やヨットは大小様々なロープにあふれています。
代表的な結び方をマスターしておきましょう。

同じ用途で何種類も結び方があります。また、同じ名前なのに、微妙に違っている場合もあります。

うろおぼえの知識の数を増やすより、応用のきく少数の結び方をしっかりマスターするほうがはるかに大切です。

今回は、後半の5つの結び方です。

ロープの途中に枝輪をつける:プルージックノット(Prusik knot)

プルージックノットは輪にしたロープを使います。用途に応じて、太さや長さを決めてください。左はマストに上るときの命綱のバックアップ用(3m)。

テントの張り綱に調理器具や洗濯物を吊すときにも使えて便利です。

輪を作るには、ここでは一重のテグス結びを使っています(テグス結びについては、このページの最後にリンクがあります)。

ステンレス管を結びつける対象(ロープやマストなど)とします。

次の図のように、下側(手前)のロープをマスト等に巻いてに輪の中に入れます。

こんな感じ。

これをもう1回。

2回入れたところ。消防関係では2回のことが多いですが、登山では3回が一般的かな。

自分の体重を支えなければならない場合は3回、品物を吊すだけなら2回でよいでしょう。

 

これで下側(手前)を引いて締めると、完成。

図の左右(上下)に引こうとする力(荷重)がかかっても結び目はずり落ちません。結び目を緩めると、移動できます。

ロープの途中に輪をつける方法としてはバタフライノットなどもありますが、輪の位置を変えにくいので、キャンプなどでも、こちらの方が利用価値は高いですね。

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帆船やヨットで必須のロープワーク10選 (1/2)

帆船やヨットは大小さまざまなロープにあふれています。
代表的な結び方をマスターしておきましょう。
同じ用途で何種類も結び方があります。また、同じ名前なのに、微妙に違っている場合もあります。
うろおぼえの知識の数を増やすより、応用のきく少数の結び方をしっかりマスターするほうがはるかに大切です。
ここでは、ヨットなどのプレジャーボートや海で役に立つ結び方8つと、キャンプなどでも重宝する結び方2つ、計10個を紹介します。

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天測航法12─位置の線航法(2)

位置の線航法(2)

前項で説明したように、
天体(ここでは太陽)が真上に見える場所の緯度経度と船がある位置の緯度経度(推定値)がわかれば、船が円周上に存在する円が描ける。

計算した天体の高度と実際に測定した高度の差で、円をもっと大きくすべきか小さくすべきかがわかる。

天体位置決定用図に作図して位置を出す。

という手順で作業が進められる。

では、具体的にみていこう。

1. 天体の高度を測定し、時間を記録する
観測高度に必要な改正を行って真高度 at を求める。
(改正については、子午線高度緯度法の項を参照)

2. 現在の船の推定位置を出す
前回の船の位置から進行方向と経過した時間を考慮して現在の船の位置(緯度と経度)を推定する。推定位置は多少ずれていても問題ない。

3. 天体が真上にある場所Xの緯度(赤緯d)と経度(赤経R.A.)を求める
赤緯は天測暦から赤経はグリニッジ標準時(GMT、または世界時UT)との差から時角(h)として求める。
(子午線高度緯度法の項と経度の項を参照)。

4. 推定位置(2項)と天体の位置(3項)の緯度経度から、AXの方位(計算方位角Z)と計算高度Acを求める

ac:計算高度、ℓ: 推定緯度、d: 赤緯、h:時角とすると

(1) 高度acの計算式

sin ac = sinℓ・sin d + cos ℓ・cos d・cos h

(2) 方位角の計算式

cos Z = (sin d – sin ℓ・sin ac) / (cos ℓ・cos ac)

こういう数式が出てくると面倒に見えるが、天測専用の電卓や関数電卓があればすぐに結果はでる。エクセルなどのスプレッドシートに計算式を入れておいて数値を入力すれば自動的に計算されるようにしておいてもよい。

とはいえ、天測計算表にはすでにそうした計算を行った結果が記載されているので、それを使えば、単純な手計算でも出せる。

いわゆる米村表で「高度方位角計算表」として計算されている。こんな感じ……使い方も欄外に記載されている。

出典:書誌第601号『天測計算表』 海上保安庁

天測計算表を使った計算高度と方位の求め方

(1) 計算高度

地方時角 h に対してA1、赤緯 d に対してA2、推定緯度 ℓ に対してA3の値を計算表から探し出し、A4を求める。

A1+A2+A3=A4

A4 の値から計算表の A4 で該当する欄から A5 を求める。
ℓ と d が同符号のときは ℓ - d異符号のときは ℓ + d をA6とする。下の計算式でA7を求める。

A5 + A6 = A7

計算表で A7 に該当する値が計算高度 ac になる。

(2) 計算方位角

A1 を求めるとき、その列の右に Z1  の値が記載されている。
A2 の値はそのまま Z2 の値になる。
A7 の値を求めるとき、右横に Z3 の値が記載されている。

Z1 + Z2 - Z3 = Z4

表でZ4に該当する値が方位角Zになる。

5. 作図

(1) 天体位置決定用図で、コンパスローズの中心を船の推定位置として、計算方位角の線を引く。
図の線②

(2) 計算高度 at と真高度 ao の差(修正差 I )を求め(単純な引き算)、修正差 I 分だけ、船の推定位置を方位角の線に沿って外側(真高度が計算高度より小さい場合)または内側(真高度が大きい場合)に移動させ、方位角に垂直な線を引く。
これが位置の線になる(細い赤線①)。船はこの位置の線上のどこかにいる。

修正差Iの距離は、緯度によっても異なるので、位置決定用図の右側に印刷されている漸長緯度差の尺度からディバイダで測る(オレンジ)。

6. 数時間後に同じ手順で観測を行って、さらに位置の線を引く。
この二本の線の交点が船の位置(船位)になる。

注意: 最初の位置の線を時間の経過分だけずらす必要がある(転位)。これは速度と進行方向で距離をだして、その分だけ平行移動させるか、最初の推定位置をその分だけずらして作図し直してもよい。

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天測航法11─位置の線航法 (1)

位置の線については、平面で考えるとわかりやすい。
海上にいて、ある小さな島の山の頂上が磁針方位で60度の方向に見えたとする。
海図のコンパスローズで60度に定規をあてて、その島まで平行移動させ、山頂を通る線(方位線)を引けば、自分の現在地は、その線上のどこかにあるはずだ。

次に別の目標物を調べて、同じようにそれを通る線を引く。二本の方位線の交わる点が自分の位置を示している。これが前回取り上げた、地文航法のクロスベアリング法である。
ichinosen_6-1

この目標物を天体に移したのが天測航法/天文航法の位置の線航法と呼ばれるものである。

ある日ある時間に地球上のある地点から天体(太陽、月、惑星、星)を見上げたとき、その角度が70度だったとする。
地球上でその時間にその天体が高さ70度に見える場所は無数に存在するが、そうした点を結んでいくと、大きな円になる。
ichinosen_6-2

つまり、この円周(赤線)上のどこかにいることになる。

天体を目標物にした場合、この円周が位置の線になるのだが、実際の作図ではずっと狭い範囲を取り扱うので、円周も直線として扱う。

次に別の天体を調べて、その高さに見える場所を点で結べば同じように円が描ける。この二つの円の交点が自分の位置を示している。
ichinosen_6-3

直線と違って、交点は2つできるが、この2つの場所は、たとえば太平洋とユーラシア大陸とか、インド洋と大西洋とか、極端に離れているので、自分のいる場所がどっちかはすぐにわかる。

同時に二つの天体の高度を知るのがむずかしいときは、同じ天体を時間をおいて二度測定しても同じ結果が得られる

星がよく見える夜は水平線が見えにくいし、水平線がよくわかるときは、まだ空に明るさが残っているので星が見えにくく、星は星座として全体でとらえるとわかりやすいが、六分儀のレンズの中では本当にその星かわかりにくかったりと、現実には星の高度を測るのはなかなか厄介なので、一般には太陽を使うことが多い。

太陽の場合、可能であれば、朝、昼、夕方の三回観測する。それぞれ、モーニングサイトヌーンサイトイブニングサイトと呼ぶ。

まず日の出から少し時間が経った頃(たとえば午前八時)に太陽高度を測定し、必要な改正を行って真高度を求める。改正については子午線高度緯度法で述べた方法と同じだ。

その上で、天測計算表から方位角を見つければ、位置の線が一本引ける(具体的な手順は後述)。

さらに、正午か夕方にも測定して同じように位置の線を引く。

最初の線については、時間の差がある分だけ(船の速度×方向で距離を計算して)位置をずらす必要はあるものの、この二本の線の交点が観測者のいる場所になる。

正午の場合は子午線高度緯度法で説明したように、位置の線を使わなくても、それだけで位置を確定できるためバックアップとしても有効だし、両者を比較することで精度の向上にもつながる。

では、もう少し具体的にみていこう。
天体はほぼ規則正しく運行しているので、ある年の○月○日の○時○分に地球上のどの地点の真上にあるかは、あらかじめわかっている(天文暦に記載されている)。

天体をSとする。
観測する自分の位置を推定する(前日の位置から進行方向と速度で推定すれば、だいたいの検討がつく)。この推定位置をAとする。この位置は正確でなくても問題はない。
ichinosen_6-4

観測地点と天体がその時間に真上に来ている場所をXとすると、観測者から見て天体のある方位(A-X)と角度(∠SAX)が計算できる。

自分の推定位置Aと天体が真上にある位置Xを直線で結ぶ(これが円の半径になる)。

そのとき観測した高度と計算で出した高度を比べて、
同じであれば、推定した位置Aが実際の位置になる。

観測値の方が大きければ、推定位置より内側Bになる。
観測値の方が小さければ、推定位置より外側B’になる。

その角度の差を距離に換算して推定位置から内側または外側に移動した点(BまたはB’)を通り、半径A-Xに垂直な線を引く。これが位置の線になる。

大きな円のごく一部になるので、円周は半径に対して垂直な直線とみなすことができる。

これをもう一回、別の天体か、同じ天体であれば時間をずらして行い、最初の線は船が移動した距離だけ平行させる。

この二本の位置の線の交わった点が観測者がいる実際の位置になる。

この作業は海図ではなく、「天測位置決定用図」と呼ばれるものを使って行う。

この上の写真は『天文航法』(長谷川健二著)に付属しているものだが、海図販売所で専用の冊子が販売されている。

(この項は次回に続きます)

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