小型船舶の灯火の使い方と見分け方

海の上では、陸上と交通のルールが違っているのは当然ですが、目には見えないものの航路という名の道はあります。

海に出るときに知っておくべき最低限のルールの後半。今回は灯火です。

夜間航海するときに灯火は必須ですが、帆走中のヨットが夜にマストの全周灯をつけていたり(オーバーナイトのレースでは実際に多い)、間違って覚えている人も多いようです。

衝突しそうになったときに、どちらが避けるべきか判断する基準にも大きく影響しますから、条件別に整理しておきましょう。きちんと整理しておけば、それほど複雑なシステムではありません。

灯火の種類

舷灯: 船の右舷(緑)か左舷(赤)を示す灯火。
両色灯: 左右の舷灯を1個にまとめた灯火器(小型船で使われる)。
三色灯: 左右の舷灯と船尾灯を1つにまとめ、光の色を120度ごとに分けた灯火器(ヨットで使われる)

※両色灯やマスト灯と呼ばれるものは(後の120度の白灯がない/見えないようになっている)

船尾灯: 後方からのみ(120度)見えるようになっている灯火(白)。
全周灯: 360度の方向から見える灯火(白)
(ヨットのマストトップなどに設置)
マスト灯: 全周灯(白)に似ているが、船尾方向からは見えない。
(マストの前面に設置)

※マスト灯と船尾灯をあわせて、ちょうど360度になる。

灯火が一般的に意味すること

1 夜間に自艇の進行方向に別な船の赤灯が見えたら、自分の船が避航船になる。
2 1の例で、緑と赤の灯火が並び、しかも白灯が見えたら、
正面から向き合っている!
3 緑と赤の舷灯が見えず白灯だけが見えたら、
前方を同じ方向に進んでいる船がいる。
※ 例外: 帆船やろかい舟(後述)

では、小型船舶の灯火の設置について、具体的に見ていきましょう。

まず、動力船か、それ以外か、に大別されます。

動力船(モーターボートなど)の灯火

長さ20m未満
両色灯+マスト灯+船尾灯
前から見ると 両色灯とマスト灯が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火+マスト灯(白)
後ろから見ると 船尾灯(白)

長さ12m未満
両色灯+全周灯(白)
前から見ると 両色灯と全周灯(白)が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火+全周灯(白)
後ろから見ると 全周灯(白)

長さ7m未満
全周灯(白)
前から見ると 全周灯(白)が見える。
横から見ると、全周灯(白)が見える。
後ろから見ると 全周灯(白)が見える。

帆船やろかい舟(ヨットや手こぎの釣り船など)の灯火

長さ20m未満の帆船
帆走時: マストトップに三色灯(または両色灯+船尾灯)
機走/機帆走時: 動力船とみなされるので、白色全周灯をつける。
(※ 船尾灯は消す=大型船と間違われないように)。
前から見ると 両色灯が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火
後ろから見ると 船尾灯(白)

長さ7m未満の帆船とろかい舟
白色の携帯電灯(携帯可能な小型の全周灯)
前、横、後ろのどこから見ても、白灯1個が見える。

大型船などの灯火

夜間航行中、接近している船舶があり、しかも白灯が2つ見えた場合、50m以上の大型船か、漁労中の船舶の可能性があります。

また、3つ見えた場合、操縦性能制限船か、船が連なった引き船の可能性があります。

大型船のブリッジから小さなプレジャーボートは見えにくく、回避行動もとりにくい(急に方向転換できない)ので、いずれの場合も危険を察知した小型船の方で自衛のために早め早めに回避行動をとるのがおすすめ。

自艇に権利がある有利な状況でも、ぶつかったらプレジャーボートの方が負けますからね。

こういう場合、「逃げるが勝ち」「君子危うきに近寄らず」で、楽しく遊びましょう。

海上の交通ルールと、黒色形象物/音響信号の使い方

海の上では、陸上と交通のルールが違っているのは当然ですが、目には見えないものの航路という名の道はあります。

海上で起きる事故は「決められたルールをちゃんと守っていなかった」ことが原因のことが多く、そのあたりの事情は交通事故と同じですね。

船舶の運航を職業としている人と違い、たまに釣り船に乗ったり、モーターボートやジェットスキー、ヨットで遊んだりする人は、小型船舶操縦士の試験で一度は習ったはずのルールをすっかり忘れて、知らず知らずのうちに危険な行為をしてたりします。

というわけで、海に出るときに知っておくべき最低限のルールをこちらでご紹介しておきましょう。

本船や頑丈な漁船とぶつかったら、華奢なFRP(強化プラスチック)製のプレジャーボートなど、ひとたまりもありません。自分の身は自分で守らないと……

●船同士が行き会う場合(反対方向から船が来るとき)

上図のように、逆方向から来た船同志がすれ違う場合、互いに右に避けます。

これは狭い水道(海が陸と陸にはさまれて狭くなっているところ)で行き会った場合も同じです。
こういう狭い水道では、行き会いがなくても、無理のない範囲で「右に寄って進む」のが基本です。

●互いの進路を横切りそうな場合(位置関係が変わらず、距離だけが接近するとき)

下の図のような関係ですね。

相手の見える方向がずっと変わらず互いに接近してくる状態だと、いずれ衝突する危険があるので、回避行動をとらなければなりません。

前を向いて自艇の右手に相手の船があれば(夜間では赤い左舷灯が見えるとき)、自分の船を右転させて相手を避けなければなりません(避航船)。

一方、自艇の左手に相手が見える場合(夜間では緑の右舷灯が見えるとき)、自艇は速度や進路は変えず、そのまま進みます(保持船)。

「避航船」と「保持船」という言葉を覚えておきましょう。どっちが優先されるか、を間違えないことが重要です。

相手が優先される場合、自分の方から回避行動をとります(右に避ける)。
逆に、権利のある船(保持船)は、そのままの進路を保つという責任があるのを忘れないように。

●船の優先順位

ここで、船舶には優先されるべき順序があるということを理解しておきましょう。

互いに航行している動力船(普通にエンジンで動いている船)同志であれば、大型の本船も小型のモーターボートも権利の上では対等なので、上記のルールに従いますが、相手が次のような場合には、スムーズに動ける動力船の方が回避行動をとらなければなりません(状況に応じて、右転でも左転でも可)。

1 運転不自由船
2 操縦性能制限船
3 漁労に従事している漁船
4 帆船

左端の番号も優先順位を示しています。

つまり、通常の動力船は1~4の船を避けなければならず、4の帆船は1~3の船を避けなければなりません。

運転不自由船: エンジン等の故障で動けない
(黒い球形の形象物を2個つるしている)

操縦性能制限船: 浚渫など作業中の船
(球形、ひし形、球形の形象物をつるしている)

漁労に従事している漁船: 網を引いたりしている漁船
(つづみ形の形象物をつるしている)
※ 釣りやトローリングしている漁船は、通常の動力船とみなされる。

帆船: 帆走しているヨット等
機走や機帆走しているヨットは、通常の動力船として扱われる)

※ 黒色形象物について

小型船舶の法定備品としてプレジャーボートで必要となる黒色形象物は球形のもの3個と円すい形1個ですが、他にも円筒形などがあります(ひし形とつづみ形は、円すい2個をつないで表現します)。
その意味は、下の表のとおりです。

●追い越す場合

前にいる船を追い越す場合、状況に応じて、左右どちらから追い越してもよいのですが、相手の船から十分な距離を保って追い越すことが必要です。

広い海面では距離をおいて自由に抜いていけばよいのですが、狭い水道などでは、音響信号(汽笛やフォグホーン)で「追い越す」ことを事前に相手に通知し、相手から了解をもらう必要があります。

※ 音響信号の使い方

音響信号で、短音とは約1秒鳴らし、長音とは4~6秒鳴らすことです(モールス信号のトン、ツーと同じように、それを組み合わせて意思を伝えます)。

音響信号には、一般に次の意味があります。
●短音1回(・): 自分の船が前を向いた状態で右に転じるとき
●短音2回(・・): 自分の船が前を向いた状態で左に転じるとき
●短音3回(・・・): 自分の船をバックさせるとき

相手の船に追い越しの意思を伝える場合、まず長音を二回続けてから、左右のどちらから追い抜くかを伝えます。 すなわち、

●右側から追い越す場合: 長音 長音 短音( --・ )
●左側から追い越す場合: 長音 長音 短音 短音( --・・)

追い越される船は、了解したという合図として 長音 短音 長音 短音( -・-・)を鳴らします。
追い越される船からの反応がないときは、追い越しできません

なお、急速に短音を5回以上鳴らすのは「意味がわからない」か「警告」の意味です。

音響信号は、霧がでて視界がきかないときにも使用されます。

航行中の動力船で対水速力がある場合: 2分を超えない長音1回
航行中の動力船で対水速力がない(動いていない)場合: 2分を超えない長音を2回
航行中の帆船、運転不自由船等の場合: 2分を超えない長音+短音2回

●港に出入りする場合の特別なルール

港への出入りでは、基本的に、出て行く船が優先されます。
港に入ろうとして出る船を見かけたら、港の外で待機します。

防波堤を回って出入港する場合、防波堤の先端を右まわりで入る場合は小さく(近づいて)まわり、左まわりの
場合は大きく(離して)まわります。

以上のことは、主に海上衝突予防法に基づいています。

航行する海域によって、さらに港則法(特定の港湾)や海上交通安全法(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の三海域にある11航路にのみ適用)に従う必要も出てきます。

航海灯や左右の舷灯などの灯火については、煩雑になるので、また別の機会に説明しましょう。

ヨットの冒険の本: ランサム・サーガの12冊 (2/2)

ヨットの冒険の本とくれば、どうしても外せないのが、『ツバメ号とアマゾン号』や『海に出るつもりじゃなかった』など、現在ではランサム・サーガと呼ばれている、英国の作家アーサー・ランサムが書いた一連の作品群ですね。

前回に引き続き、後半六作をご紹介します。

『海へ出るつもりじゃなかった』 神宮輝夫訳 (We Didn’t Mean to Go to Sea)

海外での長期駐在から帰国する海軍士官のお父さんを迎えに河口の町まで行ったウォーカー家の子供たちは、高校を卒業したばかりの青年ジムと知り合い、彼が管理している帆船ゴブリンに乗せてもらうことになります。

ところが、燃料を調達にいったジム青年が不在の間に、子供たちの乗った帆船は霧にまかれ、錨を失い、外海へと流れ出てしまいます。

まったく想定外の出来事が連続し、湾から出ないというお母さんとの約束を守れず、否応なく、子供たちしか乗っていない本物の帆船での外洋航海がはじまってしまうのです。

ジョンやスーザンは必死で引き返そうとします。が、悪天候で思うにまかせません。

シリーズ中で随一の、荒れた海での航海についての迫真の描写が続きます。正真正銘の海洋冒険が克明に描かれていきます。

ランサム・サーガの最高傑作として推す人が多いのもうなづけます。

その結果、子供たちがどうなったかについては、実際に読んでみてのお楽しみということにしましょう。

ここでは少し視点を変えて、マーク・トウェインになれなかった(ならなかった)アーサー・ランサムという話を少しだけ。

マーク・トウェインといえば、『トム・ソーヤーの冒険』で知られるアメリカ最大のベストセラー作家の一人です。

トム・ソーヤーの続編として書かれた(スピンオフ作品ともいうべき)『ハックルベリー・フィンの冒険』は、トムの友だちである浮浪児のハックと逃亡奴隷のジムがミシシッピ川を筏で下る逃避行を描いたものです。

トムの冒険は、あくまでも児童文学の範囲で展開されますが、ハックの冒険はその枠を飛びこえてアメリカの社会そのものを描いており、ヘミングウェイはこう評しています。

「現代アメリカ文学はすべて『ハックルベリー・フィン』と呼ばれる一冊の本からはじまる。」
“All modern American literature comes from one book by Mark Twain called ‘Huckleberry Finn’.”

ランサムの『海へ出るつもりじゃなかった』も、大人たちの目の届く範囲のごっこ遊びから、予期しなかった事情により、子供たちだけで外洋を航海せざるをえない状況に追いこまれてしまいます。

特に責任感の強い長男のジョンは、葛藤しつつも懸命な努力を続け、少年から青年へと成長を遂げようとしており、ごっこ遊びではない本物の冒険物語の誕生を予感させます。

が、ランサムは彼らを子供たちが本来いるべき世界に戻してしまいます。

おそらく「あえて」そうしたのでしょうが、ちょっと残念な気もします。

もっとも、そのおかげで、読者はランサム・サーガの後期の作品群を楽しむことができるわけです。

読みごたえのある充実した作品は、まだまだ続きます。

『ひみつの海』 神宮輝夫訳 (Secret Water)

前巻で大航海をやり遂げたウォーカー家の子供たちは、次の夏休み、海辺の陸地や汽水域が複雑に入り組んだ場所(ティティは秘密の多島海と命名)にある、浮き沈みする不思議な島の地図を作るという新しい課題に挑戦します。

お父さんが一緒の予定でしたが、急な呼び出しでいなくなり、完全に子供たちだけでミッションが進められます。

いままでお母さんの胸に抱かれてばかりだった末っ子のブリジットが、はじめて探検隊の一員として参加します。

お父さんから渡された白地図に、探検し測量して知ったことを記入して、少しずつ地図を完成させていくのですが、むろん、そう簡単に終わるわけがありません。

不思議な足跡を見つけたり、地元の子たちとのなわばりをめぐるいざこざもあり、さらにサーガでおなじみの海賊姉妹ナンシーとペギーもやってきたりして、息もつかせぬ展開が続きます。

架空の物語ですが、子供たちが作った地図にそっくりな地形が実際にあるそうです(ロンドンから北東の方向にある某自然保護区)。グーグルアースなどで場所を調べて特定するのも一興でしょうか。

アーサー・ランサムはサーガ全体を通して、舞台となる場所はしっかり下調べをしていることが多いので、日本のアニメである聖地めぐりは、なにも今に始まったことではなく、ランサム・サーガでは昔から行われていることでした。

『六人の探偵たち』 岩田欣三訳 (The Big Six)

イングランドの湖沼地方を舞台とした、シリーズ唯一の探偵団の活躍を描いた作品。

ドロシアとディックの姉弟が、休暇でまた湖沼地方にやってきたところ、係留されている船が次々に流されるという怪事件に遭遇します。

『オオバンクラブの無法者』を読んでいる人にはピンときますが、これは同書でオオバンの巣を守るためにトムがやむをえずやった行為を連想させます。

そのときはトムが騒音をまき散らす大型クルーザーに追いまわされることになったのですが、それが尾を引いているのか、クーツ・クラブの仲間(死と栄光号の三人)が犯人だと疑われ、どんどん追い詰められていきます。

そのことに憤慨したディックとドロシアの姉弟は、年長のトムや死と栄光号の三人とともに探偵団(つまり、これが六人の探偵たち)を結成し、真犯人捜しに乗り出します。

ここではディックの姉のドロシアが意外な才能を発揮して活躍します。

彼女はウォーカー家のティティと同じく夢想家で小説家志望なのですが、「まだ、探偵小説を書いたことがない」ので、自分たちの拠点をスコットランドヤードに見立てて、犯人捜しの指令塔として奮闘します。

ドロシアと犯人との真意を読み合う心理合戦もなかなか奥深く、探偵小説としても完全に成立しています。

とはいえ、登場人物の人間関係などを理解するために、この作品はまず『オオバンクラブの無法者』を読んでおいてから手にとる方がよいでしょうね。

『女海賊の島』 神宮輝夫訳 (Missee Lee)

この作品は、『ヤマネコ号の冒険』の続編というか、スピンオフの作品です。

つまり、子供たちが本当に体験したことというよりは、彼らが想像し作り上げた架空の冒険譚で、今回は世界一周の途中だったヤマネコ号で火災が発生し、沈没してしまいます。

で、彼らは救命ボートとして搭載されていたツバメ号とアマゾン号に分乗して脱出します。

漂流の末に到着したところは、ミス・リーという女海賊が支配する島だった、、、

というわけで、竜踊りなど中国と思われる異国情緒たっぷりの異文化体験をまじえながら、海賊の島での生活が繰り広げられていきます。

ここでもハラハラドキドキの連続で、彼らは海賊に首を切られそうになるところまで追いこまれてしまいます。

ミス・リーは海賊だった父親を継いだとはいえ、イギリスのケンブリッジ大学で教育を受け、ラテン語研究が大好きという異色の経歴の持ち主。

いかにもランサムらしく、「海賊=悪者」という単純な勧善懲悪の物語になっていないところが読みどころと言えるでしょうか。

『スカラブ号の夏休み』 神宮輝夫訳 (The Picts and the Martyrs)
アマゾン海賊の姉妹ナンシーとペギー、それに母親と叔父のフリント船長が不在のため彼女たちの家に招待されたドロシアとディック姉弟の夏休みの物語。

スカラブ号とは、ドロシアとディック待望の自分たちのヨットです。それを使ってアマゾン海賊と存分にセーリングを楽しむつもりでした。

ところが、アマゾン海賊にとっては天敵の大叔母さんがやってくることになり、ナンシーとペギーは監視されて「お行儀よく」せざるをえず、面倒をさけるため、ドロシアとディックは山中の掘っ立て小屋に隠れ住むことになってしまいます。

原題のPicts(ピクト人)は周囲から迫害されて隠れ住んでいた古代ピクト人のことで、ディックとドロシアを指し、Martyres(殉教者)は大叔母さんに監視されてピアノを練習したりと、せっかくの夏休みをお行儀よくすごさざるを得なくなったアマゾン姉妹のことです。

とはいえ、犬小屋と呼ばれる小屋の屋根を修理したり暖炉で火をおこして調理したりと、アウトドアを楽しんでもいるドロシアとディックですが、大叔母さんの目を盗んできたアマゾン海賊から帆走を習ったり、『ツバメ号の伝書バト』で登場したティモシーに協力して鉱石の分析をしたりと、忙しい生活を送ります。

鉱石の分析に必要な器具をとりにフリント船長の部屋に入ろうとしたディックは泥棒に間違われ、警察が出動する騒ぎに。

しかも、そのあとで、ランサム・サーガのトリックスターともいうべき大叔母さんが行方不明になって、警察と消防隊が山狩りを開始したものだから、ドロシアとディックは……

今回も予測もつかない展開の連続で、読者はハラハラしながらページをめくることになります。

『シロクマ号となぞの鳥』 神宮輝夫訳 (Great Northern?)

ウォーカー家の子供たち、アマゾン海賊の姉妹にドロシアとディックの姉弟、それにフリント船長というランサム・サーガの主要人物が勢ぞろいし、借り物のシロクマ号で英国北東部の北海にあるヘブリディーズ諸島などへのクルージングを楽しみます。

その航海の終盤に立ち寄った島の小さな湖で、ディックは大オオハムという珍しい鳥の巣を発見します。大オオハムは原題のGreat Northernのことですが、クエスチョンマークがついているのは、あまりにも珍しくて専門家でなければ断定できないからです。

たまたま近くの港に有名な専門家が寄港しているのを知ったディックは相談に行くのですが、その専門家がとんでもないやつで、地元のゲール人を巻きこんでの鳥の卵を守るための活躍が繰り広げられます。

※ 大オオハムは、正確にはハシグロアビ(Great Northern Loon / Great Northern Diver)というアビ科の水鳥で、カモやカイツブリに似ています。loonは、水に潜る鳥の総称です。

番外編『Coots in the North and other stories(北部のクーツクラブと他の物語)』

これはアーサー・ランサムの遺作(未完成の断片)に他の短編をあわせて編集されたもので、1988年に作家の構想メモなどとあわせて出版されました。

ランサム・サーガとの関連でいえば、クーツクラブの死と栄光号のジョー、ビル、ピートの三人がメインとなる物語になっています。

ウォーカー家の子供たちやアマゾン海賊、ドロシアとディックの姉弟は、お金持ちではないものの(どちらかといえば)裕福な家庭の子たちですが、死と栄光号の三人の家庭は庶民そのもので、学校が休みだからといって避暑にでかけるほどの余裕はありません。そこで、知恵を使ってなんとか北の湖へ行く方法はないかと知恵をしぼり……

残念ながら邦訳はありませんが、平易な英語で書かれているので、挑戦してみるのも悪くないかも。

※ 岩波少年文庫のランサム・サーガではすべて神宮輝夫訳で統一されていますが、リストに掲載した訳者はアーサー・ランサム全集発行時のものです。

ランサム・サーガの12冊の前半の紹介はこちら

ヨットの冒険の本:アーサー・ランサムのランサム・サーガ12作 (1/2)

ヨットの冒険の本とくれば、どうしても外せないのが、『ツバメ号とアマゾン号』や『海に出るつもりじゃなかった』など、現在ではランサム・サーガと呼ばれている、英国の作家アーサー・ランサムが書いた一連の作品群ですね。

アーサー・ランサムはジャーナリストとしてロシアや中国ですごした後、帰国後の四十代に、偶然に知りあった一家との交流を機に、このシリーズの小説を書き始めています。

ヨットが重要な役割を果たす小説には有名無名を問わずさまざまなものがありますが、実際に帆船やヨットに乗った経験のある人からすると「?」と首をかしげたくなるものもたくさんあります。

ランサム自身はベテランのヨット乗りでもあるので、このサーガにはそういったことはなく、帆走シーンの描写や展開にも無理がありません。

ランサム・サーガをジャンル分けすれば児童文学になるのでしょうが、大人でも十分に楽しめます。

では、具体的に見ていきましょう。

『ツバメ号とアマゾン号』 岩田欣三/神宮輝夫訳(Swallows and Amazons)

夏休みの避暑をかねて、英国の湖水地方ですごすウォーカー家の子供達の、大海原にみたてた湖でのヨットを駆使した冒険を描くシリーズ第一作。

末っ子のロジャが帆船になりきってタッキングしながら坂道を登ってくる冒頭から印象的なシーンが続き、帆船や海の匂い、冒険の雰囲気に満ちています。

小型のヨット、ツバメ号での航海、子供達だけでの無人島の探検とキャンプ、アマゾン号に乗る謎の海賊姉妹との遭遇と対決、闇夜の航海、世界をめぐってきたフリント船長とその宝探し、キャンプ地に吹き荒れる嵐など、読み始めると、わくわく、どきどき、はらはらがとまらない展開が続きます。

責任感の強い長男のジョン、しっかりものの長女スーザン、空想癖のあるAB船員のティティや無邪気なロジャ、女海賊のナンシーとペギーの姉妹など、子供達の性格もきちんと設定され描き分けられています。

無人島に渡る許可を求めた手紙に対する海軍士官の父親の返事
「オボレロノロマハノロマデナケレバオボレナイ」(溺れろ、ノロマは。ノロマでなければ溺れない)
これが、この作品だけではなく、シリーズ全体の基調になっている印象です。

『ツバメの谷』 神宮輝夫訳 (Swallowdale)

ウォーカー家の子供達は翌年の夏休みも冒険の海(湖)にやってきますが、なんとツバメ号が帆走中、突風にあおられて難破してしまいます。

ツバメ号は修理しなければ乗れないし、おまけに、楽しみにしていたアマゾン号の姉妹との再会も、大おばさんという強敵が滞在していて、なかなか実現しません。

そういう状況で、ウォーカー家の子供達はあきらめることなく、今度はツバメの谷を舞台に、海ではなく陸の荒野で冒険を繰り広げます。

監視の目があるからといっておなしくしているはずのないアマゾン号の海賊との刺激的なやりとりや、フリント船長とのツバメ号の修理の様子、ティティが名づけたカンチェンジュンガ(エベレスト、K2につぐ世界三位の高峰)への登山など、冒険のタネはつきません。

そうして、最後には、修理されたツバメ号と監視役がいなくなって自由になったアマゾン号との帆走による競争が……

『ヤマネコ号の冒険』 岩田欣三訳 (Peter Duck)

シリーズ第三作は、ちょっと毛色の変わった内容になっています。

どういうことかというと、ツバメ号やアマゾン号のような小型のヨットではなく、子供達がフリント船長などと一緒に本物の帆船に乗りこみ、ピーター・ダックという老水夫の記憶をたどって海のかなたの島に宝を探しに行く、というお話なのです。

当然のことながら、本物の海賊との追いつ追われつの競争や闘いも繰り広げられます。

スティーヴンソンの『宝島』を彷彿とさせる内容で、児童文学としてはちょっと――いう迫真のシーンもあり、正真正銘の海洋冒険譚になっているのです。

それもそのはず、これは湖でヨット遊びができない時期に、ウォーカー家の子供達とアマゾン号の海賊姉妹が楽しんだ架空の「お話」で、小さな湖や社会という制約のない世界での物語なのです。

前二作を読んだ人は、ピーター・ダックという老水夫が登場したところで、ピンとくるかもしれません。そう、ピーター・ダックは空想好きのティティの想像上の人物だからです。でも、ティティの将来の作家としての力量は本物――と思わせてくれる出来ばえです。

宝島が好きな人は、この作品もきっと楽しめるでしょう。

『長い冬休み』 神宮輝夫訳 (Winter Holiday)

この第四作で、新しい登場人物が仲間に加わります。ドロシアとディックの姉弟(きょうだい)です。

都会っ子で、星に詳しく自称天文学者の弟と、ティティと同様に空想癖があり物語を書いている姉が、ツバメ号とアマゾン号の探検家と船乗りの六人に加わるわけです。

彼らが出会うきっかけとなったのがカンテラ(携帯用ランプ)の光を使った通信で、そこからモールス信号や手旗信号へと連絡手段が広がり、都会っ子の二人はロープのもやい結びやマキに火をつける方法など、いろいろなアウトドアの技術も学んでいきます。

冬なのでヨットでの帆走はできませんが、スケートをしたり、ソリに帆をつけて走らせたりと、楽しいことはたくさんあります。

そうして、究極の目的となったのが、凍結した湖でその北極をめざす冒険です。ところが、吹雪が姉弟を襲い……ここでもはらはらドキドキの波乱や冒険に満ちた世界が展開していきます。

『オオバンクラブの無法者』 岩田欣三訳 (Coot Club)

第四作の『長い冬休み』に登場したドロシアとディックが春休みに遭遇した、広い海や湖とはひと味違う、川や運河におけるヨットの航海と無法者とのトラブルをめぐる冒険の物語です。

舞台はこれまでの英国中部の西にある湖水地方から離れた、イングランド東部のノーフォーク・ブローズという湖沼地方。自然豊かな土地で、川や運河が縦横に走っています。

ちなみに、英国にかぎらず欧州では、船で航行可能な大河が多く、それらをつなぐ小さな川や運河が道路網のように張り巡らされているため、自分で船を操りながら各地をめぐるスタイルの旅も盛んに行われています。ロックと呼ばれる水門を利用して山を越える(!)ことも可能です。

この湖沼地方にはオオバンという、全身が黒くて額とくちばしだけが白い鳥の生息地があり、それを見守っている少年トムと、それに脅威をもたらすモーターボートとのトラブルにドロシアとディックも巻きこまれ、追いつ追われつのスリリングな物語が繰り広げられます。

ランサム・サーガ十二作のうちで、小説として最もスキのない、完成度の高い作品です。

※ オオバンは、日本でも、川や池で見ることができます(地域によって一年中いる留鳥だったり、冬にだけ飛来する渡り鳥だったりします)。
※ この作品だけ、ランサム全集(オオバンクラブの無法者)と岩波少年文庫(オオバンクラブ物語)で邦訳のタイトルが異なっています。

『ツバメ号の伝書バト』 神宮輝夫訳 (Pigeon Post)

ウォーカー家の子供達ジョン、スーザン、ティティ、ロジャとアマゾン号の海賊姉妹ナンシーとペギー、都会っ子のドロシアとディックの姉弟がキャンプをしながら金探しをする物語。

フリント船長こと、ナンシーとペギー姉妹のジムおじさんが海外での金鉱探しに失敗して帰国することを知った子供達は、おじさんを元気づけようと鉱山師になり探鉱することに。

ゴールドラッシュという言葉が示すように、金は人の心をとりこにする怪しい魅力を持っている――というわけで、この金探しでは、ライバルとなるつぶれソフトの男の影など、緊張感のある大人との関係がクローズアップされます。

これは、前作のオオバンクラブの無法者から続く流れですね。

金探しの他にも、水脈うらないや、本のタイトルにある伝書鳩を利用した通信など、興味ぶかい話が数多く盛り込これていますが、最大のハイライトは鉱山での落盤事故です。

なんと、子供達がそれに巻きこまれてしまい、シリーズ最大の危機を迎えます。

※ 岩波少年文庫のランサム・サーガではすべて神宮輝夫訳で統一されていますが、リストに掲載した訳者はアーサー・ランサム全集発行時のものです。

長くなりましたので、ランサム・サーガの残り六作は、また次回に。

 

ヨット乗りが航海に持参すべき25の必需品

ヨットや帆船、ボートやカヌーに乗る場合、船の装備品とは別に、万一に備えて自分で用意していた方がよいものがあります。

“25 things every sailor needs” (船乗り必携の25の品物)
からご紹介しましょう。

これはランス・ゲトラーというアメリカでヨットの回航を生業の一つにしているヨット乗りが自分の体験に基づいてまとめたリストで、アマゾンの電子書籍として入手できます。
※ 書籍といっても、パンフレットを少し詳しくしたような小冊子で、英語も平易なので、興味のある方は手にとってお読みください。

想定される航海に必要な装備や飲食物は船に搭載してあることが前提です。

依頼を受けてヨットやボートを指定された別の国や港まで回航する際に必ず持ち込む「私物」のリストです。著者は全部で5キロ以内でバックパック1個におさまると述べています(下の写真)。


(source: photo from “25 things every sailor needs”)

むろん、自分の環境に合わせて適当にアレンジすべきですよ。
そのリストを具体的に見ていきましょう。
著者ランス・ゲトラーの意見を参考に、海洋冒険文庫として補足してあります。

1. ナイフ
常時携帯し片手で扱える折りたたみ式のナイフ。
いざという時、ロープを切るには刃の一部がノコギリ状になっているものがよい。
マルチツールとは別。単機能の専用ツールの方が使い勝手はよい。

2. 偏光メガネ
海上は紫外線が強いので第一義は目の保護。サングラスでもよいが、
海上のものを明確に見極めるには偏光メガネがベター。
予算の許す範囲で高品質のものが、長い目で見れば安上がり。

3. 光量切り替え可能なヘッドライト
照明器具としては、懐中電灯より両手の使えるヘッドライトがおすすめ。
夜間用に赤色があればなおよい。
従来の電球よりはLEDのライトで、予備の電池も。

4. マルチツール
定番のアウトドア必需品で、常に1個は持っていたい。
できれば、ナイフ式ではなく、先端が細いプライヤータイプがおすすめ。
ヨットでよく使われるシャックルキーの代用としても便利。

5. 救急セット
船には救急箱が装備されているはずなので、それとは別に、自分専用として。
小型のハサミや防水のバンドエイド、切り傷ややけどの外用薬等。
市販の小型キットをベースに、必要に応じて足したり引いたりすればよいでしょう。

6. ダクトテープ
いわゆるガムテープのような粘着テープ。
一巻きはいらないので、少量を巻いて持っていると、補修などでなにかと重宝。
最近はホームセンターなどにも強力な銀色のテープが売られてます。

7. スマホ
海図や潮汐表などアプリも豊富。
陸が見える沿岸航海では無線機の代わりにもなるし、何をするにも必需品。
充電器やコードも忘れずに。

8. ジップロックの袋
スマホや財布を含めて、濡らしては困るあらゆるものを入れておくのに必須。
この用途では大は小を兼ねますよ。
衣服用にはまた別の防水バッグを(後述)。

9. 結束バンド
インシュロックともいい、ホームセンターや百均にも普通に売られています。
用途は多く、大小各種をそろえておくと何かと重宝。
少し値段は高くなるものの、何度も繰り返し使用できるものもあります。

10. 雑索(細くて短いひも)
長さ別に色分けした3種類のひも(0.6m、1.2m、1.8m)を4本ずつ。
「長いひもを一巻き」よりは、実際の用途を思い浮かべて長さを決めておく。
一般に2mより長いひもが必要になることはあまりない(そもそも、ヨットにはロープが積んである)。

11. 水筒
落としても割れず、転がっても音も静かなプラスチックの水筒。
金属製は重く、気温によっては外側が結露する。
小型の船は揺れも大きいので、フタだけ飛んでいかないタイプがよい。

12. 日焼け止めとリップクリーム
SPF(日焼け防止指数)35以上。
海上では太陽光線はばかにできない。1日に2回塗る。泳いだら、その都度塗る。
紫外線で唇の皮がむけることもよくあるので、リップクリームも必須。

13. 軽食
短時間のつもりでもセーリングは意外に長くなることが多い。
エネルギー補給用にバーやビーフジャーキーなど傷まないもの。
いわゆるカロリーメイトのような栄養補給用の保存食品。

14. プラスチック製の洗濯バサミ
衣服やタオルを干すためのプラスチック製の洗濯ばさみ。
海水では金属はサビるのが早く、布地に染みがつきやすい。
洗濯ばさみは他にもいろんな用途で活躍。

15. 裁縫セットとハサミ
普通の布用の針と糸プラス帆の補修用の丈夫な針と糸。
カッター、小さな布用巻き尺も。
意外に必要になることがあるので、小さな袋に常時入れておく。

16. ネクスケア・スキン・クラック・ケア
液体の「塗る絆創膏」。指先の傷などにハケで塗って保護膜を作る。
アウトドアでは知る人ぞ知る製品。
日本では(液体ではない)ネクスケア保護テープとして売られていることが多い。

17. 蚊除け
セーリングに適した場所には、なぜか蚊が多い。
いろいろなタイプのものをお好みで。

18. 雨具
時期や場所によって重装備のものから簡易なものまで、
必要に応じて使い分け。
濡れてもすぐ乾く下着や着替えも必要。

19. 電子ブックリーダーまたは iPad
こちらは人によっては意見がわかれるでしょうか。
タブレットにゲームや電子書籍を入れておけば、
荷物にはならず暇つぶしにはなります。

20. 防水バッグ
下着など濡らしたくない物をいれておく、
密閉可能な大きめの袋。
バッグインバッグで、小分けして入れておくと取り出しやすい。

21. ライター
タバコを吸わない人でも、火をおこす必要がある場合もある。
1個持っておいても邪魔にはならない。

22. 腕時計
スマホで時間がわかるので腕時計はしない人も増えているとか。
とはいえ、スマホは濡れたらアウトなので海上では防水の腕時計は必需品。
夜間でも時間がわかるものがよい。

23. 靴
予備の濡れてもいい靴。非常用。
古くてもよいので使い古しのスニーカーなど。
はだしやサンダルで海岸の岩場は歩けない。

24. ウェットティッシュ
海で泳いだ後やシャワーがない環境で、身体を拭くため。
塩気をとり、さっぱりする。

25. 緊急時の連絡先リスト
自分の連絡先、最寄りの海上保安庁の支署と健康保険証や身分証明書のコピーなど。

いかがでしょうか。

海洋冒険文庫としては、これに落水防止のハーネスとテザー(ロープ)を追加したいですね。

左がテザー。ハーネスは中央(上半身用)と右端(腰回り)。
マストに上るときは上半身用のハーネス、バウでの作業やレースでは登山用の腰回りにつけるハーネスと使い分けたりします。ハーネスはどちらか片方でよい。

自分の状況にあわせて、上手に取捨選択し、航海をお楽しみください。

最もリアルで臨場感にあふれ、海でのサバイバルのヒントに満ちている漂流記:『大西洋漂流76日間』(スティーヴン・キャラハン著)

海の冒険には嵐や難破、漂流がつきものです。
今回ご紹介するのは

スティーヴン・キャラハンの『大西洋漂流76日間』(長辻象平訳、ハヤカワ文庫)

1952年生まれのキャラハンは12歳でセーリングを始めました。その頃に、全長13・5フィート(約4メートル)のミニヨット、ティンカーベルで大西洋を78日かけて横断したロバート・マンリーの著書を読んで感動し、「二○世紀の後半においても、冒険生活がまだ可能であることを教え」られ、それ以来、小型艇での大西洋横断を夢見つづけていました。
 ただ夢見るだけではなく、実際に必要な技術を習得するための努力を続け、スローカムなどヨットの偉大な先達をはじめとする海の冒険の本を読み漁り、大型ヨットの建造を手伝ったり、外洋航海の経験を積んだりもしています。
 造船技師となってヨットの設計を教えたりしていた1981年、全長21フィート(約6・5メートル)の自設計の小型ヨット、ナポレオン・ソロで1800キロの試験航海を済ませると、バミューダ諸島までのレースに便乗する形で単独航海を行いました。28歳のときです。
ミニ・トランサット6.50という小型ヨットによるソロ(乗員1名のみ)の大西洋横断ヨットレースに出場する条件である「一○○○キロの単独航海の経験」という出場資格を得るためでした*。
* トランサットは大西洋横断 (Transatlantic)の意味で、レースのタイトルにある「ミニ」と「6.50」は「単独」であることと乗り組むヨットのサイズが「全長6メートル50センチまで」に制限されていることから。また、レースのスタート地点はイギリス(イングランド南西端にあり大西洋に突き出したコーンウォール)だった(後のレースではフランスに変更)。
単独航でバミューダに到着したことにより参加資格の条件をクリアすると、そこからは友人と二人でイギリスまで航海し、その段階で最初の大西洋横断を実現しています。
その年の秋にレースが開始されるのですが、海は荒れていて、スタート前の段階ですでに遭難者や死者が出ていたほどです。で、準備のためキャラハンが訪れた現地の雑貨屋の名物店主との会話。
「…もしお前さんがこのレースに勝ったら、なにがもらえるんだ? すごい賞金が手に入るのか?」
「よくはわからないが、プラスチック製のカップというところだろう」
「…お前さんは、そんな優勝カップのために海に出て、海神(ネプチューン)と鬼ごっこをして遊び、海の藻屑(もくず)と消えるのか。楽しい冗談を聞かせてくれるじゃないか」
(引用はすべて上記・長辻訳)
参加したのは26艇。最初の数日で5隻が嵐に翻弄されて損傷したり貨物船と衝突して沈没したりし、最終的にゴールのカリブ海に到着したのは全体の半数にすぎませんでした。
キャラハンも当初は先頭に近い位置につけていたのですが、海には嵐で貨物船から落ちたコンテナや多くの丸太が漂っていたようです。丸太によると思われる亀裂が船体に生じて浸水したため、キャラハンはいったんスペインに避難します。当然のことながら、そのためレースは失格となります。で、現地で船体を修理し、今度はレースではなく自分の楽しみのためにカリブ海をめざして四週間後に再出発したのでした。
レースのコースをほぼなぞる形で、ポルトガルのリスボン、マデイラ諸島、アフリカ大陸の西にあるカナリア諸島を経て、大西洋をカリブ海に向けて一週間ほど西進したとき、突然の轟音に飛び起きると、海水が一気に流れ込んできます。船が沈みかけているので救命イカダに乗り移り、長い漂流がはじまります。二月五日のことでした。
というところから、二ヶ月をこえる漂流中の苦難が克明につづられていきますが、ニューヨークタイムズのベストセラーリストに37週以上もランクインし続けたベストセラーだけに読み応えがあり、ノンフィクションの漂流記として内容も傑出しています。
漂流の実際の様子については本書をひもとく際のお楽しみとして、ここでは彼がイカダの上で行った自分の位置の計測方法がユニークなので、簡単にご紹介。

キャラハンの自分の位置の計測方法

漂流では、水(太陽熱による造水)や食べ物(魚)の確保、サメの襲撃、ゴムボート状の救命イカダの空気漏れなど、さまざまな課題やトラブルに見舞われますが、それがそれなりに落ち着いてくると、誰しも先行きが心配になります。
キャラハンが漂流していた海域(北緯二十度付近の北大西洋)では東から西向きに海流が流れ、貿易風も同じような方向に吹いており、その先には長く鎖状につらなったカリブ海の島々が存在しています。
北米大陸東南端のフロリダ半島から南米大陸の北東端にあるベネズエラまで、コロンブスでおなじみの、いわゆる西インド諸島(現在は個別に異なる名前がついている)――つまりキューバやプエルトリコなど大小様々な島々――がカリブ海にフタをするような形でアーチを描いてつらなっています。コロンブスが第一回の航海で発見したのも大陸ではなく、こうした島々でした。
なんとか沈まずに生きてさえいれば、いずれそこに行き着くわけです。現在の位置とイカダの移動する方向や速度がわかれば、そうした島々に到着するまでの期間の検討もつくわけです。
「アンティグア島の北あたりで、西インド諸島は西のほうへ曲がりはじめる。北緯一八度より北に流されているとすれば、バハマ諸島へ到着するまで、あと二○日から三○日もちこたえなければならないだろう。西インド諸島群のなかで、グアドループ島はもっとも東に位置する島のひとつである。わたしの目標は北緯一七度なのだ。
(前掲書)
(同書掲載の地図の一部)
ちょっとわかりにくいですね。位置関係はこんな感じです。
で、自分の現在地を知るには緯度と経度を知らなければなりません。
京都や札幌は碁盤の目のように整然と区画整理されていて、たとえば烏丸丸太町(からすままるたまち)といえば、烏丸通りと丸太町通りの交差するところという意味で、場所を簡単に特定できます。それと同じように、丸い地球の表面に、赤道と平行な面で地球を輪切りにする緯線(いせん)と、北極と南極をつらぬく地軸を含む縦の面で輪切りにした経線を引いたと想定すると、どの緯線と経線が交差しているかで、自分のいる場所がわかります。
ちなみに日本のへそを自称する兵庫県西脇市の位置は「北緯35度、東経135度」です。
緯度は、水平線からの北極星の高さ(角度)です。また、90度から太陽が真南にきたときの高さを引くと、それも緯度を示しています。
緯度を測定するのが六分儀ですが、そんなものはないので、彼は鉛筆三本を組み合わせて直角三角形をつくり、それで水平線からの北極星の高さを測ります。海図にはコンパスローズという磁針方位(磁石の指す北)と真方位(北極点と南極点を貫く地軸を延長した方向)を描いた円が必ず記入されているので、その目盛りを利用すればおおよその角度もわかるわけです。おおざっぱなもので誤差も大きいわけですが、定期的に測ることで、真西に流されているのか、北寄よりか南寄りかくらいはわかりますね。
(前掲書に記載された地図の一部)
経度は正確な時計と方位磁石さえあれば、太陽が真南に来る時刻を調べることで、経度0度(ロンドン・ケンブリッジを通る子午線)との時間差から簡単な計算で割り出せます。
地球は24時間で1回転(360度)しているので、1時間のずれは経度15度に相当します。時間も角度も60進法なので、分や秒の換算もやりやすいですね。
むろん、地球は完全な球ではないし(西洋梨のような下ぶくれ)、磁石の指す南が真方位の南とは限らない(地域によって偏差がある)のですが、おおよその位置関係は把握できます。
キャラハンは、これに加えて、イカダがどの方向にどれくらいの速度で流されているかも海草の流れる速さから検討をつけ、それらを組み合わせて位置を判断しています。
大航海時代の初期には正確な時計(クロノメータ)はまだ存在していなかったので、コロンブスも船の速度と方向を調べて一日にどれくらい進んだかを毎日記録していました。これを推測航法と呼びますが、そういう、手持ちの利用可能なあらゆる情報を駆使して、できるだけ正確な現在位置を出すことが航海術の基本中の基本です。
結果として、キャラハンが測定した漂流中の位置は、かなり正確でした。
(前掲の図を部分的に拡大。点線が漂流中に測定した位置、実線が救助後に補正した位置)

関連のある本のご紹介

日本の漂流記としては
『たった一人の生還 「たか号」漂流二十七日間の闘い』佐野三治著(山と渓谷社)
また、意図的に漂流を行った先駆的な試みとして
『実験漂流記』アラン・ボンバール著/近藤等訳(白水社)
この他に、漂流に関連する興味深い本は
『実験漂流記』アラン・ボンバール著(白水社)
これは古典ですね。
『太平洋漂流実験50日』斉藤実著(フォア文庫)
日本にもこういう人がいたという本
『たった一人の生還―「たか号」漂流二十七日間の戦い』佐野三治著(新潮文庫)
日本人のヨット漂流記。

帆船やヨットで必須のロープワーク10選 (2/2)

帆船やヨットは大小様々なロープにあふれています。
代表的な結び方をマスターしておきましょう。

同じ用途で何種類も結び方があります。また、同じ名前なのに、微妙に違っている場合もあります。

うろおぼえの知識の数を増やすより、応用のきく少数の結び方をしっかりマスターするほうがはるかに大切です。

今回は、後半の5つの結び方です。

ロープの途中に枝輪をつける:プルージックノット(Prusik knot)

プルージックノットは輪にしたロープを使います。用途に応じて、太さや長さを決めてください。左はマストに上るときの命綱のバックアップ用(3m)。

テントの張り綱に調理器具や洗濯物を吊すときにも使えて便利です。

輪を作るには、ここでは一重のテグス結びを使っています(テグス結びについては、このページの最後にリンクがあります)。

ステンレス管を結びつける対象(ロープやマストなど)とします。

次の図のように、下側(手前)のロープをマスト等に巻いてに輪の中に入れます。

こんな感じ。

これをもう1回。

2回入れたところ。消防関係では2回のことが多いですが、登山では3回が一般的かな。

自分の体重を支えなければならない場合は3回、品物を吊すだけなら2回でよいでしょう。

 

これで下側(手前)を引いて締めると、完成。

図の左右(上下)に引こうとする力(荷重)がかかっても結び目はずり落ちません。結び目を緩めると、移動できます。

ロープの途中に輪をつける方法としてはバタフライノットなどもありますが、輪の位置を変えにくいので、キャンプなどでも、こちらの方が利用価値は高いですね。

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ヨットの航海記の名著:『スプレー号世界周航記』ジョシュア・スローカム著/高橋泰邦訳

1977年、草思社(単行本)/

2003年、中公文庫BIBLIO

ジョシュア・スローカム(1844年~1909年)はカナダ東部、ノバスコシア生まれの船乗りで、1895年から1898年に足かけ三年かけて、世界で初めて一人乗りのヨットで地球を一周する航海をなしとげた。本書は1900年に出版され、ベストセラーとなった。

ジョシュアは子だくさんの農場に生まれ、靴職人として働いていたが、16歳で家を出た。沿岸航海の船で経験を積み、アイルランド行きの貨物船に乗り換えて大西洋を渡ってダブリンに到着すると、今度は中国行きの船に水夫として乗り組み、アジア経由でサンフランシスコまで航海した。この間、南米大陸最南端のホーン岬を二度まわる経験を積んでいる。

18歳で海技試験を受けて正式に二等航海士となり、一等航海士、船長へと階段を駆け上っていく。

22歳でサンフランシスコに定住し、米国市民となった。サケ漁や毛皮の取引に従事した後、また船乗りの生活に戻り、沿岸航海の船を経て、外洋交易に従事するバーク型帆船の船長となった。オーストラリアで妻とめぐりあって結婚し、家族を伴って船でアラスカへ向かい、サケ漁でとれたサケをサンフランシスコに運んだりした。二十代後半から四十代にかけての二十年間に、船長として八つの船を指揮した。日本にも寄港している。 続きを読む

『海のロマンス』(現代表記版)の紙本

システムトラブルでオンデマンド出版の紙本の刊行が当初の予定より遅くなりましたが、やっとできてきました。

単行本として一般的な四六判ですが、結構分厚いです。こんな感じ。


(右は岩波文庫版の『白鯨 上』)

 

電子書籍版は国内主要販売ストアで販売されていますが、オンデマンド出版の紙本はアマゾン Kindle、楽天ブックス/KOBO、東京三省堂書店で入手可能です。

帆船やヨットで必須のロープワーク10選 (1/2)

帆船やヨットは大小さまざまなロープにあふれています。
代表的な結び方をマスターしておきましょう。
同じ用途で何種類も結び方があります。また、同じ名前なのに、微妙に違っている場合もあります。
うろおぼえの知識の数を増やすより、応用のきく少数の結び方をしっかりマスターするほうがはるかに大切です。
ここでは、ヨットなどのプレジャーボートや海で役に立つ結び方8つと、キャンプなどでも重宝する結び方2つ、計10個を紹介します。

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