SHIMADAS(シマダス)と島をめぐる旅の本10冊のご紹介

海の冒険といえばヨットや帆船の航海ですが、そのヨットや帆船でどこへ行くかといえば、目的地は島(米国大陸だって超巨大な島には違いない!)――海には島がよく似合う。

無人島という言葉の響きには、どこか惹かれるものがあります。

今回は、そうした日本の島のガイドブックの決定版ともいうべき

『日本の島ガイド SHIMADAS』のご紹介です。

日本で島といえば佐渡島や伊豆大島、小笠原諸島などが思い浮かびますが、東京の高層ビル街や大阪の繁華街などにいると「島」という感じはまったくしません。が、地理の世界では、本州や北海道をはじめとする日本の国土自体が島という位置づけなんですね。

余談ですが、島と大陸の違いは、単に大きさだけなんでしょうか?
一般には、オーストラリアが一番小さな大陸で、グリーンランドが一番大きな島ということになっています。ですが、両者を区別する基準は明確には示されていません。

大陸だって、とんでもなく巨大な島といえないこともありません。

大陸といえば、ふつうは、ユーラシア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極の六つを指します。しかし、完全に他と切り離されている巨大な陸地はオーストラリアと南極だけで、南北アメリカ大陸は陸続きですし、ユーラシア大陸とアフリカ大陸もそうですよね。

島の基準は、あいまいといえばあいまいで、つい先日(2023年2月2日)も、内閣府は、これまで島だとしてきた日本の領海または排他的経済水域内の島のうち、4つの島について、満潮時に水面下になってしまうため島ではなく「低潮高地」だと修正しました。

波の浸食で削られて低くなったり、海底火山の噴火で海上に新しく突き出したりと、長いスパンで眺めれば変化しているので、島の数自体、算数のテストみたいに正解があるわけではなかったりするんですね。

ちなみに、海上保安庁は、周囲が0.1km以上あるものを岩礁ではなく島とし、橋のような細いもので本土とつながっていても島と認めています。

国土交通省の『日本の島嶼の構成』によれば、日本にあって人が住んでいる島の数は416、無人島は6,432となっています。

有人か無人かは、5年に1度の国勢調査で人が住んでいると判断されるか、自治体の住民基本台帳に人の登録がなされていれば有人島、それ以外が無人島とされるのだそうです。

漁期など一定の時期だけ人が住んでいたり、神社がまつられていて関係者が交代で住み込み、1年365日誰かが滞在している場合もあるので、なかなか判断もむずかしそうです。

そうした多種多様でつかみどころのない日本の島を「網羅」しているのが、ここで紹介する

『日本の島ガイド SHIMADAS』

(編集発行 財団法人日本離島センター、2019年10月)です。

まあ、とにかく分厚い本です(手元の1998年版で約1151ページ、2019年の新版は1743ページ。

びっしり島の情報が掲載されています。住民基本台帳で住民の居住が確認された島をはじめ、重要な無人島などをふくめて、総計で850の島々が掲載されています。

アホウドリの営巣地として知られている鳥島や、ヨットの航海記などでもおなじみの伊豆諸島の南にあるベヨネーズ列岩や孀婦(そうふ)岩などもちゃんと掲載されています。

島好きにはたまらない本です。

※ 新版は数年前に出たばかりですが、すでに絶版になっています。希少性もあってコレクターズアイテム化しているようで、最近は古本市場でも高額になっていたりします。図書館で閲覧するという手もありますね。

※ 財団法人 日本離島センターのウェブサイト
青字をクリックすると、同センターのサイトに移動します。

日本離島センターからは、季刊の『しま』という広報誌が発行されています。

SHIMADASの巻末には、島の参考書として文献リストが掲載されていますが、こちらに、その後に出たものを含めて、比較的最近の島旅の本10冊を紹介しておきましょう(発行年の新しいもの順)。

  • 『GO! ISLAND GUIDE ―島旅―【全国版】』
    朝日新聞社編 2022年7月
  • 『いつか旅してみたい美しい日本の島100』
    パイインターナショナル編 2022年2月
  • 『美しい日本へ 里山里海の旅 』
    K&Bパブリッシャーズ編集部 編 2021年12月
  • 『美しい日本へ 島の旅』
    K&Bパブリッシャーズ編集部 編 2021年10月
  • 『離島ひとり旅』
    大畠 順子著 辰巳出版 2018年7月
  • 『絶対に行きたい! 日本の島 』
    齋藤潤著 大和書房 2014年9月
  • 『日本の島旅』
    加藤 庸二著 PHP研究所 2014年4月
  • 『日本百名島の旅』
    加藤 庸二著 実業之日本社 2013年6月
  • 『原色 日本島図鑑 改訂第2版』
    加藤庸二著 新星出版社 2013年5月
  • 『離島めぐり15万キロ―島の博士423島を行く』
    本木修司著 古今書院 1991年2月

ヨットの冒険の本: ランサム・サーガの12冊 (2/2)

ヨットの冒険の本とくれば、どうしても外せないのが、『ツバメ号とアマゾン号』や『海に出るつもりじゃなかった』など、現在ではランサム・サーガと呼ばれている、英国の作家アーサー・ランサムが書いた一連の作品群ですね。

前回に引き続き、後半六作をご紹介します。

『海へ出るつもりじゃなかった』 神宮輝夫訳 (We Didn’t Mean to Go to Sea)

海外での長期駐在から帰国する海軍士官のお父さんを迎えに河口の町まで行ったウォーカー家の子供たちは、高校を卒業したばかりの青年ジムと知り合い、彼が管理している帆船ゴブリンに乗せてもらうことになります。

ところが、燃料を調達にいったジム青年が不在の間に、子供たちの乗った帆船は霧にまかれ、錨を失い、外海へと流れ出てしまいます。

まったく想定外の出来事が連続し、湾から出ないというお母さんとの約束を守れず、否応なく、子供たちしか乗っていない本物の帆船での外洋航海がはじまってしまうのです。

ジョンやスーザンは必死で引き返そうとします。が、悪天候で思うにまかせません。

シリーズ中で随一の、荒れた海での航海についての迫真の描写が続きます。正真正銘の海洋冒険が克明に描かれていきます。

ランサム・サーガの最高傑作として推す人が多いのもうなづけます。

その結果、子供たちがどうなったかについては、実際に読んでみてのお楽しみということにしましょう。

ここでは少し視点を変えて、マーク・トウェインになれなかった(ならなかった)アーサー・ランサムという話を少しだけ。

マーク・トウェインといえば、『トム・ソーヤーの冒険』で知られるアメリカ最大のベストセラー作家の一人です。

トム・ソーヤーの続編として書かれた(スピンオフ作品ともいうべき)『ハックルベリー・フィンの冒険』は、トムの友だちである浮浪児のハックと逃亡奴隷のジムがミシシッピ川を筏で下る逃避行を描いたものです。

トムの冒険は、あくまでも児童文学の範囲で展開されますが、ハックの冒険はその枠を飛びこえてアメリカの社会そのものを描いており、ヘミングウェイはこう評しています。

「現代アメリカ文学はすべて『ハックルベリー・フィン』と呼ばれる一冊の本からはじまる。」
“All modern American literature comes from one book by Mark Twain called ‘Huckleberry Finn’.”

ランサムの『海へ出るつもりじゃなかった』も、大人たちの目の届く範囲のごっこ遊びから、予期しなかった事情により、子供たちだけで外洋を航海せざるをえない状況に追いこまれてしまいます。

特に責任感の強い長男のジョンは、葛藤しつつも懸命な努力を続け、少年から青年へと成長を遂げようとしており、ごっこ遊びではない本物の冒険物語の誕生を予感させます。

が、ランサムは彼らを子供たちが本来いるべき世界に戻してしまいます。

おそらく「あえて」そうしたのでしょうが、ちょっと残念な気もします。

もっとも、そのおかげで、読者はランサム・サーガの後期の作品群を楽しむことができるわけです。

読みごたえのある充実した作品は、まだまだ続きます。

『ひみつの海』 神宮輝夫訳 (Secret Water)

前巻で大航海をやり遂げたウォーカー家の子供たちは、次の夏休み、海辺の陸地や汽水域が複雑に入り組んだ場所(ティティは秘密の多島海と命名)にある、浮き沈みする不思議な島の地図を作るという新しい課題に挑戦します。

お父さんが一緒の予定でしたが、急な呼び出しでいなくなり、完全に子供たちだけでミッションが進められます。

いままでお母さんの胸に抱かれてばかりだった末っ子のブリジットが、はじめて探検隊の一員として参加します。

お父さんから渡された白地図に、探検し測量して知ったことを記入して、少しずつ地図を完成させていくのですが、むろん、そう簡単に終わるわけがありません。

不思議な足跡を見つけたり、地元の子たちとのなわばりをめぐるいざこざもあり、さらにサーガでおなじみの海賊姉妹ナンシーとペギーもやってきたりして、息もつかせぬ展開が続きます。

架空の物語ですが、子供たちが作った地図にそっくりな地形が実際にあるそうです(ロンドンから北東の方向にある某自然保護区)。グーグルアースなどで場所を調べて特定するのも一興でしょうか。

アーサー・ランサムはサーガ全体を通して、舞台となる場所はしっかり下調べをしていることが多いので、日本のアニメである聖地めぐりは、なにも今に始まったことではなく、ランサム・サーガでは昔から行われていることでした。

『六人の探偵たち』 岩田欣三訳 (The Big Six)

イングランドの湖沼地方を舞台とした、シリーズ唯一の探偵団の活躍を描いた作品。

ドロシアとディックの姉弟が、休暇でまた湖沼地方にやってきたところ、係留されている船が次々に流されるという怪事件に遭遇します。

『オオバンクラブの無法者』を読んでいる人にはピンときますが、これは同書でオオバンの巣を守るためにトムがやむをえずやった行為を連想させます。

そのときはトムが騒音をまき散らす大型クルーザーに追いまわされることになったのですが、それが尾を引いているのか、クーツ・クラブの仲間(死と栄光号の三人)が犯人だと疑われ、どんどん追い詰められていきます。

そのことに憤慨したディックとドロシアの姉弟は、年長のトムや死と栄光号の三人とともに探偵団(つまり、これが六人の探偵たち)を結成し、真犯人捜しに乗り出します。

ここではディックの姉のドロシアが意外な才能を発揮して活躍します。

彼女はウォーカー家のティティと同じく夢想家で小説家志望なのですが、「まだ、探偵小説を書いたことがない」ので、自分たちの拠点をスコットランドヤードに見立てて、犯人捜しの指令塔として奮闘します。

ドロシアと犯人との真意を読み合う心理合戦もなかなか奥深く、探偵小説としても完全に成立しています。

とはいえ、登場人物の人間関係などを理解するために、この作品はまず『オオバンクラブの無法者』を読んでおいてから手にとる方がよいでしょうね。

『女海賊の島』 神宮輝夫訳 (Missee Lee)

この作品は、『ヤマネコ号の冒険』の続編というか、スピンオフの作品です。

つまり、子供たちが本当に体験したことというよりは、彼らが想像し作り上げた架空の冒険譚で、今回は世界一周の途中だったヤマネコ号で火災が発生し、沈没してしまいます。

で、彼らは救命ボートとして搭載されていたツバメ号とアマゾン号に分乗して脱出します。

漂流の末に到着したところは、ミス・リーという女海賊が支配する島だった、、、

というわけで、竜踊りなど中国と思われる異国情緒たっぷりの異文化体験をまじえながら、海賊の島での生活が繰り広げられていきます。

ここでもハラハラドキドキの連続で、彼らは海賊に首を切られそうになるところまで追いこまれてしまいます。

ミス・リーは海賊だった父親を継いだとはいえ、イギリスのケンブリッジ大学で教育を受け、ラテン語研究が大好きという異色の経歴の持ち主。

いかにもランサムらしく、「海賊=悪者」という単純な勧善懲悪の物語になっていないところが読みどころと言えるでしょうか。

『スカラブ号の夏休み』 神宮輝夫訳 (The Picts and the Martyrs)
アマゾン海賊の姉妹ナンシーとペギー、それに母親と叔父のフリント船長が不在のため彼女たちの家に招待されたドロシアとディック姉弟の夏休みの物語。

スカラブ号とは、ドロシアとディック待望の自分たちのヨットです。それを使ってアマゾン海賊と存分にセーリングを楽しむつもりでした。

ところが、アマゾン海賊にとっては天敵の大叔母さんがやってくることになり、ナンシーとペギーは監視されて「お行儀よく」せざるをえず、面倒をさけるため、ドロシアとディックは山中の掘っ立て小屋に隠れ住むことになってしまいます。

原題のPicts(ピクト人)は周囲から迫害されて隠れ住んでいた古代ピクト人のことで、ディックとドロシアを指し、Martyres(殉教者)は大叔母さんに監視されてピアノを練習したりと、せっかくの夏休みをお行儀よくすごさざるを得なくなったアマゾン姉妹のことです。

とはいえ、犬小屋と呼ばれる小屋の屋根を修理したり暖炉で火をおこして調理したりと、アウトドアを楽しんでもいるドロシアとディックですが、大叔母さんの目を盗んできたアマゾン海賊から帆走を習ったり、『ツバメ号の伝書バト』で登場したティモシーに協力して鉱石の分析をしたりと、忙しい生活を送ります。

鉱石の分析に必要な器具をとりにフリント船長の部屋に入ろうとしたディックは泥棒に間違われ、警察が出動する騒ぎに。

しかも、そのあとで、ランサム・サーガのトリックスターともいうべき大叔母さんが行方不明になって、警察と消防隊が山狩りを開始したものだから、ドロシアとディックは……

今回も予測もつかない展開の連続で、読者はハラハラしながらページをめくることになります。

『シロクマ号となぞの鳥』 神宮輝夫訳 (Great Northern?)

ウォーカー家の子供たち、アマゾン海賊の姉妹にドロシアとディックの姉弟、それにフリント船長というランサム・サーガの主要人物が勢ぞろいし、借り物のシロクマ号で英国北東部の北海にあるヘブリディーズ諸島などへのクルージングを楽しみます。

その航海の終盤に立ち寄った島の小さな湖で、ディックは大オオハムという珍しい鳥の巣を発見します。大オオハムは原題のGreat Northernのことですが、クエスチョンマークがついているのは、あまりにも珍しくて専門家でなければ断定できないからです。

たまたま近くの港に有名な専門家が寄港しているのを知ったディックは相談に行くのですが、その専門家がとんでもないやつで、地元のゲール人を巻きこんでの鳥の卵を守るための活躍が繰り広げられます。

※ 大オオハムは、正確にはハシグロアビ(Great Northern Loon / Great Northern Diver)というアビ科の水鳥で、カモやカイツブリに似ています。loonは、水に潜る鳥の総称です。

番外編『Coots in the North and other stories(北部のクーツクラブと他の物語)』

これはアーサー・ランサムの遺作(未完成の断片)に他の短編をあわせて編集されたもので、1988年に作家の構想メモなどとあわせて出版されました。

ランサム・サーガとの関連でいえば、クーツクラブの死と栄光号のジョー、ビル、ピートの三人がメインとなる物語になっています。

ウォーカー家の子供たちやアマゾン海賊、ドロシアとディックの姉弟は、お金持ちではないものの(どちらかといえば)裕福な家庭の子たちですが、死と栄光号の三人の家庭は庶民そのもので、学校が休みだからといって避暑にでかけるほどの余裕はありません。そこで、知恵を使ってなんとか北の湖へ行く方法はないかと知恵をしぼり……

残念ながら邦訳はありませんが、平易な英語で書かれているので、挑戦してみるのも悪くないかも。

※ 岩波少年文庫のランサム・サーガではすべて神宮輝夫訳で統一されていますが、リストに掲載した訳者はアーサー・ランサム全集発行時のものです。

ランサム・サーガの12冊の前半の紹介はこちら

最もリアルで臨場感にあふれ、海でのサバイバルのヒントに満ちている漂流記:『大西洋漂流76日間』(スティーヴン・キャラハン著)

海の冒険には嵐や難破、漂流がつきものです。
今回ご紹介するのは

スティーヴン・キャラハンの『大西洋漂流76日間』(長辻象平訳、ハヤカワ文庫)

1952年生まれのキャラハンは12歳でセーリングを始めました。その頃に、全長13・5フィート(約4メートル)のミニヨット、ティンカーベルで大西洋を78日かけて横断したロバート・マンリーの著書を読んで感動し、「二○世紀の後半においても、冒険生活がまだ可能であることを教え」られ、それ以来、小型艇での大西洋横断を夢見つづけていました。
 ただ夢見るだけではなく、実際に必要な技術を習得するための努力を続け、スローカムなどヨットの偉大な先達をはじめとする海の冒険の本を読み漁り、大型ヨットの建造を手伝ったり、外洋航海の経験を積んだりもしています。
 造船技師となってヨットの設計を教えたりしていた1981年、全長21フィート(約6・5メートル)の自設計の小型ヨット、ナポレオン・ソロで1800キロの試験航海を済ませると、バミューダ諸島までのレースに便乗する形で単独航海を行いました。28歳のときです。
ミニ・トランサット6.50という小型ヨットによるソロ(乗員1名のみ)の大西洋横断ヨットレースに出場する条件である「一○○○キロの単独航海の経験」という出場資格を得るためでした*。
* トランサットは大西洋横断 (Transatlantic)の意味で、レースのタイトルにある「ミニ」と「6.50」は「単独」であることと乗り組むヨットのサイズが「全長6メートル50センチまで」に制限されていることから。また、レースのスタート地点はイギリス(イングランド南西端にあり大西洋に突き出したコーンウォール)だった(後のレースではフランスに変更)。
単独航でバミューダに到着したことにより参加資格の条件をクリアすると、そこからは友人と二人でイギリスまで航海し、その段階で最初の大西洋横断を実現しています。
その年の秋にレースが開始されるのですが、海は荒れていて、スタート前の段階ですでに遭難者や死者が出ていたほどです。で、準備のためキャラハンが訪れた現地の雑貨屋の名物店主との会話。
「…もしお前さんがこのレースに勝ったら、なにがもらえるんだ? すごい賞金が手に入るのか?」
「よくはわからないが、プラスチック製のカップというところだろう」
「…お前さんは、そんな優勝カップのために海に出て、海神(ネプチューン)と鬼ごっこをして遊び、海の藻屑(もくず)と消えるのか。楽しい冗談を聞かせてくれるじゃないか」
(引用はすべて上記・長辻訳)
参加したのは26艇。最初の数日で5隻が嵐に翻弄されて損傷したり貨物船と衝突して沈没したりし、最終的にゴールのカリブ海に到着したのは全体の半数にすぎませんでした。
キャラハンも当初は先頭に近い位置につけていたのですが、海には嵐で貨物船から落ちたコンテナや多くの丸太が漂っていたようです。丸太によると思われる亀裂が船体に生じて浸水したため、キャラハンはいったんスペインに避難します。当然のことながら、そのためレースは失格となります。で、現地で船体を修理し、今度はレースではなく自分の楽しみのためにカリブ海をめざして四週間後に再出発したのでした。
レースのコースをほぼなぞる形で、ポルトガルのリスボン、マデイラ諸島、アフリカ大陸の西にあるカナリア諸島を経て、大西洋をカリブ海に向けて一週間ほど西進したとき、突然の轟音に飛び起きると、海水が一気に流れ込んできます。船が沈みかけているので救命イカダに乗り移り、長い漂流がはじまります。二月五日のことでした。
というところから、二ヶ月をこえる漂流中の苦難が克明につづられていきますが、ニューヨークタイムズのベストセラーリストに37週以上もランクインし続けたベストセラーだけに読み応えがあり、ノンフィクションの漂流記として内容も傑出しています。
漂流の実際の様子については本書をひもとく際のお楽しみとして、ここでは彼がイカダの上で行った自分の位置の計測方法がユニークなので、簡単にご紹介。

キャラハンの自分の位置の計測方法

漂流では、水(太陽熱による造水)や食べ物(魚)の確保、サメの襲撃、ゴムボート状の救命イカダの空気漏れなど、さまざまな課題やトラブルに見舞われますが、それがそれなりに落ち着いてくると、誰しも先行きが心配になります。
キャラハンが漂流していた海域(北緯二十度付近の北大西洋)では東から西向きに海流が流れ、貿易風も同じような方向に吹いており、その先には長く鎖状につらなったカリブ海の島々が存在しています。
北米大陸東南端のフロリダ半島から南米大陸の北東端にあるベネズエラまで、コロンブスでおなじみの、いわゆる西インド諸島(現在は個別に異なる名前がついている)――つまりキューバやプエルトリコなど大小様々な島々――がカリブ海にフタをするような形でアーチを描いてつらなっています。コロンブスが第一回の航海で発見したのも大陸ではなく、こうした島々でした。
なんとか沈まずに生きてさえいれば、いずれそこに行き着くわけです。現在の位置とイカダの移動する方向や速度がわかれば、そうした島々に到着するまでの期間の検討もつくわけです。
「アンティグア島の北あたりで、西インド諸島は西のほうへ曲がりはじめる。北緯一八度より北に流されているとすれば、バハマ諸島へ到着するまで、あと二○日から三○日もちこたえなければならないだろう。西インド諸島群のなかで、グアドループ島はもっとも東に位置する島のひとつである。わたしの目標は北緯一七度なのだ。
(前掲書)
(同書掲載の地図の一部)
ちょっとわかりにくいですね。位置関係はこんな感じです。
で、自分の現在地を知るには緯度と経度を知らなければなりません。
京都や札幌は碁盤の目のように整然と区画整理されていて、たとえば烏丸丸太町(からすままるたまち)といえば、烏丸通りと丸太町通りの交差するところという意味で、場所を簡単に特定できます。それと同じように、丸い地球の表面に、赤道と平行な面で地球を輪切りにする緯線(いせん)と、北極と南極をつらぬく地軸を含む縦の面で輪切りにした経線を引いたと想定すると、どの緯線と経線が交差しているかで、自分のいる場所がわかります。
ちなみに日本のへそを自称する兵庫県西脇市の位置は「北緯35度、東経135度」です。
緯度は、水平線からの北極星の高さ(角度)です。また、90度から太陽が真南にきたときの高さを引くと、それも緯度を示しています。
緯度を測定するのが六分儀ですが、そんなものはないので、彼は鉛筆三本を組み合わせて直角三角形をつくり、それで水平線からの北極星の高さを測ります。海図にはコンパスローズという磁針方位(磁石の指す北)と真方位(北極点と南極点を貫く地軸を延長した方向)を描いた円が必ず記入されているので、その目盛りを利用すればおおよその角度もわかるわけです。おおざっぱなもので誤差も大きいわけですが、定期的に測ることで、真西に流されているのか、北寄よりか南寄りかくらいはわかりますね。
(前掲書に記載された地図の一部)
経度は正確な時計と方位磁石さえあれば、太陽が真南に来る時刻を調べることで、経度0度(ロンドン・ケンブリッジを通る子午線)との時間差から簡単な計算で割り出せます。
地球は24時間で1回転(360度)しているので、1時間のずれは経度15度に相当します。時間も角度も60進法なので、分や秒の換算もやりやすいですね。
むろん、地球は完全な球ではないし(西洋梨のような下ぶくれ)、磁石の指す南が真方位の南とは限らない(地域によって偏差がある)のですが、おおよその位置関係は把握できます。
キャラハンは、これに加えて、イカダがどの方向にどれくらいの速度で流されているかも海草の流れる速さから検討をつけ、それらを組み合わせて位置を判断しています。
大航海時代の初期には正確な時計(クロノメータ)はまだ存在していなかったので、コロンブスも船の速度と方向を調べて一日にどれくらい進んだかを毎日記録していました。これを推測航法と呼びますが、そういう、手持ちの利用可能なあらゆる情報を駆使して、できるだけ正確な現在位置を出すことが航海術の基本中の基本です。
結果として、キャラハンが測定した漂流中の位置は、かなり正確でした。
(前掲の図を部分的に拡大。点線が漂流中に測定した位置、実線が救助後に補正した位置)

関連のある本のご紹介

日本の漂流記としては
『たった一人の生還 「たか号」漂流二十七日間の闘い』佐野三治著(山と渓谷社)
また、意図的に漂流を行った先駆的な試みとして
『実験漂流記』アラン・ボンバール著/近藤等訳(白水社)
この他に、漂流に関連する興味深い本は
『実験漂流記』アラン・ボンバール著(白水社)
これは古典ですね。
『太平洋漂流実験50日』斉藤実著(フォア文庫)
日本にもこういう人がいたという本
『たった一人の生還―「たか号」漂流二十七日間の戦い』佐野三治著(新潮文庫)
日本人のヨット漂流記。

ヨットの航海記の名著:『スプレー号世界周航記』ジョシュア・スローカム著/高橋泰邦訳

1977年、草思社(単行本)/

2003年、中公文庫BIBLIO

ジョシュア・スローカム(1844年~1909年)はカナダ東部、ノバスコシア生まれの船乗りで、1895年から1898年に足かけ三年かけて、世界で初めて一人乗りのヨットで地球を一周する航海をなしとげた。本書は1900年に出版され、ベストセラーとなった。

ジョシュアは子だくさんの農場に生まれ、靴職人として働いていたが、16歳で家を出た。沿岸航海の船で経験を積み、アイルランド行きの貨物船に乗り換えて大西洋を渡ってダブリンに到着すると、今度は中国行きの船に水夫として乗り組み、アジア経由でサンフランシスコまで航海した。この間、南米大陸最南端のホーン岬を二度まわる経験を積んでいる。

18歳で海技試験を受けて正式に二等航海士となり、一等航海士、船長へと階段を駆け上っていく。

22歳でサンフランシスコに定住し、米国市民となった。サケ漁や毛皮の取引に従事した後、また船乗りの生活に戻り、沿岸航海の船を経て、外洋交易に従事するバーク型帆船の船長となった。オーストラリアで妻とめぐりあって結婚し、家族を伴って船でアラスカへ向かい、サケ漁でとれたサケをサンフランシスコに運んだりした。二十代後半から四十代にかけての二十年間に、船長として八つの船を指揮した。日本にも寄港している。 続きを読む

『海のロマンス』(現代表記版)の紙本

システムトラブルでオンデマンド出版の紙本の刊行が当初の予定より遅くなりましたが、やっとできてきました。

単行本として一般的な四六判ですが、結構分厚いです。こんな感じ。


(右は岩波文庫版の『白鯨 上』)

 

電子書籍版は国内主要販売ストアで販売されていますが、オンデマンド出版の紙本はアマゾン Kindle、楽天ブックス/KOBO、東京三省堂書店で入手可能です。

『海のロマンス』のオンデマンド出版による紙本について(最新)

オンデマンド出版担当の企業からの報告によれば、アマゾンから「システムトラブルは解消した」という連絡があったそうで、紙本の発行もまもなくと思われます(現時点で、まだサイト上での電子書籍と紙本の連携はできていないようですが)。

出版社(上記オンデマンド出版担当企業とは別です、念のため)の方からは、将来的なトラブル対策を兼ねて、オンデマンド出版のチャンネルを増やす旨の連絡が来ています。

アマゾンに加えて、楽天ブックス/KOBO、実店舗の東京・三省堂書店でオンデマンド出版が可能となるよう手配したそうです(8月下旬には実現見込み)。どこで購入してもまったく同じです。

ちなみに電子書籍の方は従来から国内の主要販売サイトで入手可能になっています。

なお、電子書籍は税抜き価格で500円ですが、紙本の方はその7,8倍の4000円近くとかなり割高になります。標準的な電子書籍の表示で700ページ、四六版の紙本で550ページ程度と、普通の新書の2~3倍程度の分量があるのに加えて、カラーの図版がかなりあるためです。

判型を大きくして、モノクロにし、さらに活字を小さくして二段組みにでもすると、多少は安くなるようですが、そうなると、一定の年齢以上の方には字が小さすぎて読みにくい、、、など、なかなか一筋縄ではいきませんね。

ちなみに、高価な紙本の収益は安価な電子書籍より少ない(4000円近い価格でもほとんど利益が出ないとか(^_^;

『海のロマンス』(現代表記版)のオンデマンド出版 ― 続報、続々報

8月5日現在、どうも状況は改善されていないようです。

オンデマンド出版担当企業からの報告は下記のようになっています。

=========引用開始=========================
【重要】Amazon販売レポート不具合について

7月29日に報告しておりますAmazon販売レポートの不具合ですが、弊社が検証したところ、本日8月5日現在も当該修正は完了していない状況です。
Amazonには修正完了の見通しについて問い合わせていますが、現時点では明確な回答をいただいておりません。

=========引用終わり=========================

こちらとしては打つ手がない状況ですね。

オンデマンド出版は1部から印刷製本して出版されるため、どうしても割高になりますし、さらに『海のロマンス』は通常の単行本2冊分程度の分量があるため、かなり高額になってしまいます。
電子書籍は費用対効果が高いので、こちらでお楽しみください。


アマゾンでのオンデマンド出版(POD)関連のトラブルについて、Amazonから関係会社にシステム変更を原因とする不具合で、「7月末頃を目途に問題の修正が完了する見込み」と連絡があったようです。ご迷惑をおかけしますが、今しばらくお待ちください。


米窪太刀雄著『海のロマンス――練習帆船大成丸の世界周航記』(現代表記版)の電子書籍版は7月18日(海の日)に発売されました。

オンデマンド出版用の関係ファイルも提出済みで、紙本については本日7月28日発売の予定でした。

が、アマゾンのキンドルと連動したオンデマンド出版のシステムトラブルのため、現在「原因調査中」で、発売時期は未定となっています。

先月から少なくない書籍で販売実績があるにもかかわらず売り上げゼロやマイナスのデータが報告されるというトラブルが生じていたのですが、今月下旬になって、それが世界的に発生していると判明したようです。結構深刻な問題のようで、長引くかもしれません。

この件については、進展がありしだい改めてご報告いたします。

野田知佑のカヌーの本

帆船の本、ヨット航海記の本とくれば、次はカヌー/カヤックの本ですね。

この分野では、今年亡くなった野田知佑(のだともすけ)の著作が質量ともに群を抜いています。

彼のカヌー関係の本や雑誌の記事は、登山が中心だった日本のアウトドアシーンのイメージをがらりと変え、カヌーでの川下りや犬をつれて旅することが、今では違和感なく受け入れられるようになってきています。

というわけで、今回は彼の著作リストです。

  • 『カヌー犬・ガク』野田知佑著、小学館
  • 『カヌー式生活』野田知佑著、文藝春秋
  • 『ガリバーが行く』野田知佑著、新潮

  • 『カワムツの朝、テナガエビの夜――こぎおろしエッセイ』野田知佑著、小学館
  • 『笹舟のカヌー』野田知佑著、藤岡牧夫(イラスト)、小学館
  • 『ささ舟、四万十川を行く』野田知佑著、藤岡牧夫(イラスト)、岩崎書店

  • 『ささ舟カヌー 千曲川スケッチ』野田知佑文、藤岡牧夫(イラスト)、平凡社
  • 『さらば、ガク』野田知佑著、文藝春秋

  • 『さらば、日本の川よ――野田知佑のカヌーは座敷』野田知佑著、思想の科学社
  • 『しあわせな日々――カヌー犬・ガク写真集』野田知佑著、小学館
  • 『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する』野田知佑著、小学館
  • 『ともにさすらいてあり カヌー犬・ガクの生涯』野田知佑著、文藝春秋
  • 『ナイル川を下ってみないか』野田知佑著、ネイチュアエンタープライズ
  • 『なつかしい川、ふるさとの流れ』野田知佑著、新潮社
  • 『のんびり行こうぜ――こぎおろしエッセイ』野田知佑著、新潮社
  • 『ハーモニカとカヌー』野田知佑著、新潮社
  • 『ぼくの還る川』野田知佑著、新潮社
  • 『ユーコン川を筏で下る』野田知佑著、小学館
  • 『ユーコン漂流』野田知佑著、ネイチュアエンタープライズ

  • 『ゆらゆらとユーコン』野田知佑著、新潮社
  • 『雲を眺める旅――アラスカの川辺から』野田知佑著、本の雑誌社
  • 『魚眼漫遊大雑記』野田知佑著、新潮社
  • 『今日も友だちがやってきた』野田知佑著、小学館

  • 『小ブネ漕ぎしこの川』野田知佑著、新潮社
  • 『少年期』野田知佑著、文藝春秋
  • 『世界の川を旅する』野田知佑著、藤門弘共著、世界文化社
  • 『川からの眺め』野田知佑著、新潮社
  • 『川の学校』野田知佑著、三五館
  • 『川へふたたび――野田知佑カヌーエッセイ・ベスト』野田知佑著、小学館
  • 『川を下って都会の中へ』野田知佑著、新潮社
  • 『南の川まで』野田知佑著、新潮社
  • 『南へ――新・放浪記2』野田知佑著、文藝春秋
  • 『日本の川を旅する―カヌー単独行』野田知佑著、新潮社
  • 『北の川から』野田知佑著、新潮社
  • 『北極海へ――あめんぼ号マッケンジーを下る』野田知佑著、文藝春秋
  • 『本日順風――野に行く者の身の上相談集』野田知佑著、地球丸
  • 『旅へ――新・放浪記』野田知佑著、文藝春秋

どうでしょうか、この数。
雑誌連載が主ですが、水に限らず冒険やアウトドア系で、これだけ多作な作家は他にいませんね(それだけ、出せば売れるという評価が定着しているということでもあるのでしょう)。

『海のロマンス』(現代表記版)の刊行は7月18日(海の日)

米窪太刀雄著『海のロマンス―― 練習帆船大成丸の世界周航記』(現代表記版)は

7月18日(海の日)に刊行予定です。

 

システムの都合上、電子書籍版の刊行後、紙本(ペーパーバック)が利用可能となるまでに最大1~2週間かかる可能性があります。

※ 電子書籍に関しては国内のほとんどの主要電子書籍販売サイトで入手可能ですが、販売開始時期は多少前後します(こちらも1~2週間程度)。

あしからずご了承ください。

ヨットの航海記の4と遭難・漂流の記録(実験を含む)

ヨットの航海記の紹介も4回目。
小さなヨットの航海がまぎれもなく冒険だとみなされていた、ある意味で幸福な「個人による大航海時代」に出版された航海記です。

絶版になったものや電子書籍として復活してきたものなど、さまざまですが、本の一生も人の一生と同じで、思いがけない出会いや予想もできなかった展開になることもあります。

ヨットの航海記

・『太平洋へ行こう』徳間順一著、創英社/三省堂書店

・『続 太平洋へ行こう』徳間順一著、創英社/三省堂書店

・『アラウンド・アローン』白石康次郎著、文藝春秋

・『ヨット・キザッペの日本周航』奥原一美著、アルゴ企画

・『極楽とんぼ、大西洋を渡る』中島正晃著、舵社

・『タニア18歳、世界一周』タニア・アービィ著、新潮社

・『大航海』アミール・クリンク著、文藝春秋

・『ヨーロッパ運河ヨットの旅』田中憲一著、新潮社

・『たのむぞ!欧美号』舩木匡著、自費出版

・『二人だけのヨット旅行(上)(下)』神田真佐子著、舵社

・『コックピットのひとりごと』村上由香著、河出書房新社

番外編として、ヨットに関連する遭難や漂流の(実験を含む)記録

・『ヨットが呑まれた』朝日新聞社会部著、朝日新聞社

・『アカリ号の実験』八巻英輔著、二見書房

・『実験漂流記』アラン・ボンバール著、白水社

・『大西洋漂流76日間』スティーヴン・キャラハン著、早川書房

・『ザ・サバイバル』平島正夫著、リヨン社

・『たった一人の生還』佐野三治著、新潮社

で、そうならないためのシーマンシップに関連した本がこちら

・『アナポリス式シーマンシップ』ジョン・ロスマニエール著、鯨書房

・『海図の読み方』沓名義/坂戸直輝著、舵社


『ヨットマンの航海術』鈴木邦裕著、海文堂

・『クルーザー教室』関根久著、舵社

・『インナーセーリング』青木洋著、舵社

・『プレジャーボートのためのGPSナビゲーション』高槻和宏著、舵社

・『スピン・ナ・ヤーン』野本謙作著、舵社

・『プレジャーボーティン具のための気象ハンドブック』馬場邦彦著、舵社

・『海の信号旗』杉浦昭典著、舵社

・『海の交通ルール』鈴木三郎著、舵社