小型船舶の灯火の使い方と見分け方

海の上では、陸上と交通のルールが違っているのは当然ですが、目には見えないものの航路という名の道はあります。

海に出るときに知っておくべき最低限のルールの後半。今回は灯火です。

夜間航海するときに灯火は必須ですが、帆走中のヨットが夜にマストの全周灯をつけていたり(オーバーナイトのレースでは実際に多い)、間違って覚えている人も多いようです。

衝突しそうになったときに、どちらが避けるべきか判断する基準にも大きく影響しますから、条件別に整理しておきましょう。きちんと整理しておけば、それほど複雑なシステムではありません。

灯火の種類

舷灯: 船の右舷(緑)か左舷(赤)を示す灯火。
両色灯: 左右の舷灯を1個にまとめた灯火器(小型船で使われる)。
三色灯: 左右の舷灯と船尾灯を1つにまとめ、光の色を120度ごとに分けた灯火器(ヨットで使われる)

※両色灯やマスト灯と呼ばれるものは(後の120度の白灯がない/見えないようになっている)

船尾灯: 後方からのみ(120度)見えるようになっている灯火(白)。
全周灯: 360度の方向から見える灯火(白)
(ヨットのマストトップなどに設置)
マスト灯: 全周灯(白)に似ているが、船尾方向からは見えない。
(マストの前面に設置)

※マスト灯と船尾灯をあわせて、ちょうど360度になる。

灯火が一般的に意味すること

1 夜間に自艇の進行方向に別な船の赤灯が見えたら、自分の船が避航船になる。
2 1の例で、緑と赤の灯火が並び、しかも白灯が見えたら、
正面から向き合っている!
3 緑と赤の舷灯が見えず白灯だけが見えたら、
前方を同じ方向に進んでいる船がいる。
※ 例外: 帆船やろかい舟(後述)

では、小型船舶の灯火の設置について、具体的に見ていきましょう。

まず、動力船か、それ以外か、に大別されます。

動力船(モーターボートなど)の灯火

長さ20m未満
両色灯+マスト灯+船尾灯
前から見ると 両色灯とマスト灯が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火+マスト灯(白)
後ろから見ると 船尾灯(白)

長さ12m未満
両色灯+全周灯(白)
前から見ると 両色灯と全周灯(白)が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火+全周灯(白)
後ろから見ると 全周灯(白)

長さ7m未満
全周灯(白)
前から見ると 全周灯(白)が見える。
横から見ると、全周灯(白)が見える。
後ろから見ると 全周灯(白)が見える。

帆船やろかい舟(ヨットや手こぎの釣り船など)の灯火

長さ20m未満の帆船
帆走時: マストトップに三色灯(または両色灯+船尾灯)
機走/機帆走時: 動力船とみなされるので、白色全周灯をつける。
(※ 船尾灯は消す=大型船と間違われないように)。
前から見ると 両色灯が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火
後ろから見ると 船尾灯(白)

長さ7m未満の帆船とろかい舟
白色の携帯電灯(携帯可能な小型の全周灯)
前、横、後ろのどこから見ても、白灯1個が見える。

大型船などの灯火

夜間航行中、接近している船舶があり、しかも白灯が2つ見えた場合、50m以上の大型船か、漁労中の船舶の可能性があります。

また、3つ見えた場合、操縦性能制限船か、船が連なった引き船の可能性があります。

大型船のブリッジから小さなプレジャーボートは見えにくく、回避行動もとりにくい(急に方向転換できない)ので、いずれの場合も危険を察知した小型船の方で自衛のために早め早めに回避行動をとるのがおすすめ。

自艇に権利がある有利な状況でも、ぶつかったらプレジャーボートの方が負けますからね。

こういう場合、「逃げるが勝ち」「君子危うきに近寄らず」で、楽しく遊びましょう。

海上の交通ルールと、黒色形象物/音響信号の使い方

海の上では、陸上と交通のルールが違っているのは当然ですが、目には見えないものの航路という名の道はあります。

海上で起きる事故は「決められたルールをちゃんと守っていなかった」ことが原因のことが多く、そのあたりの事情は交通事故と同じですね。

船舶の運航を職業としている人と違い、たまに釣り船に乗ったり、モーターボートやジェットスキー、ヨットで遊んだりする人は、小型船舶操縦士の試験で一度は習ったはずのルールをすっかり忘れて、知らず知らずのうちに危険な行為をしてたりします。

というわけで、海に出るときに知っておくべき最低限のルールをこちらでご紹介しておきましょう。

本船や頑丈な漁船とぶつかったら、華奢なFRP(強化プラスチック)製のプレジャーボートなど、ひとたまりもありません。自分の身は自分で守らないと……

●船同士が行き会う場合(反対方向から船が来るとき)

上図のように、逆方向から来た船同志がすれ違う場合、互いに右に避けます。

これは狭い水道(海が陸と陸にはさまれて狭くなっているところ)で行き会った場合も同じです。
こういう狭い水道では、行き会いがなくても、無理のない範囲で「右に寄って進む」のが基本です。

●互いの進路を横切りそうな場合(位置関係が変わらず、距離だけが接近するとき)

下の図のような関係ですね。

相手の見える方向がずっと変わらず互いに接近してくる状態だと、いずれ衝突する危険があるので、回避行動をとらなければなりません。

前を向いて自艇の右手に相手の船があれば(夜間では赤い左舷灯が見えるとき)、自分の船を右転させて相手を避けなければなりません(避航船)。

一方、自艇の左手に相手が見える場合(夜間では緑の右舷灯が見えるとき)、自艇は速度や進路は変えず、そのまま進みます(保持船)。

「避航船」と「保持船」という言葉を覚えておきましょう。どっちが優先されるか、を間違えないことが重要です。

相手が優先される場合、自分の方から回避行動をとります(右に避ける)。
逆に、権利のある船(保持船)は、そのままの進路を保つという責任があるのを忘れないように。

●船の優先順位

ここで、船舶には優先されるべき順序があるということを理解しておきましょう。

互いに航行している動力船(普通にエンジンで動いている船)同志であれば、大型の本船も小型のモーターボートも権利の上では対等なので、上記のルールに従いますが、相手が次のような場合には、スムーズに動ける動力船の方が回避行動をとらなければなりません(状況に応じて、右転でも左転でも可)。

1 運転不自由船
2 操縦性能制限船
3 漁労に従事している漁船
4 帆船

左端の番号も優先順位を示しています。

つまり、通常の動力船は1~4の船を避けなければならず、4の帆船は1~3の船を避けなければなりません。

運転不自由船: エンジン等の故障で動けない
(黒い球形の形象物を2個つるしている)

操縦性能制限船: 浚渫など作業中の船
(球形、ひし形、球形の形象物をつるしている)

漁労に従事している漁船: 網を引いたりしている漁船
(つづみ形の形象物をつるしている)
※ 釣りやトローリングしている漁船は、通常の動力船とみなされる。

帆船: 帆走しているヨット等
機走や機帆走しているヨットは、通常の動力船として扱われる)

※ 黒色形象物について

小型船舶の法定備品としてプレジャーボートで必要となる黒色形象物は球形のもの3個と円すい形1個ですが、他にも円筒形などがあります(ひし形とつづみ形は、円すい2個をつないで表現します)。
その意味は、下の表のとおりです。

●追い越す場合

前にいる船を追い越す場合、状況に応じて、左右どちらから追い越してもよいのですが、相手の船から十分な距離を保って追い越すことが必要です。

広い海面では距離をおいて自由に抜いていけばよいのですが、狭い水道などでは、音響信号(汽笛やフォグホーン)で「追い越す」ことを事前に相手に通知し、相手から了解をもらう必要があります。

※ 音響信号の使い方

音響信号で、短音とは約1秒鳴らし、長音とは4~6秒鳴らすことです(モールス信号のトン、ツーと同じように、それを組み合わせて意思を伝えます)。

音響信号には、一般に次の意味があります。
●短音1回(・): 自分の船が前を向いた状態で右に転じるとき
●短音2回(・・): 自分の船が前を向いた状態で左に転じるとき
●短音3回(・・・): 自分の船をバックさせるとき

相手の船に追い越しの意思を伝える場合、まず長音を二回続けてから、左右のどちらから追い抜くかを伝えます。 すなわち、

●右側から追い越す場合: 長音 長音 短音( --・ )
●左側から追い越す場合: 長音 長音 短音 短音( --・・)

追い越される船は、了解したという合図として 長音 短音 長音 短音( -・-・)を鳴らします。
追い越される船からの反応がないときは、追い越しできません

なお、急速に短音を5回以上鳴らすのは「意味がわからない」か「警告」の意味です。

音響信号は、霧がでて視界がきかないときにも使用されます。

航行中の動力船で対水速力がある場合: 2分を超えない長音1回
航行中の動力船で対水速力がない(動いていない)場合: 2分を超えない長音を2回
航行中の帆船、運転不自由船等の場合: 2分を超えない長音+短音2回

●港に出入りする場合の特別なルール

港への出入りでは、基本的に、出て行く船が優先されます。
港に入ろうとして出る船を見かけたら、港の外で待機します。

防波堤を回って出入港する場合、防波堤の先端を右まわりで入る場合は小さく(近づいて)まわり、左まわりの
場合は大きく(離して)まわります。

以上のことは、主に海上衝突予防法に基づいています。

航行する海域によって、さらに港則法(特定の港湾)や海上交通安全法(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の三海域にある11航路にのみ適用)に従う必要も出てきます。

航海灯や左右の舷灯などの灯火については、煩雑になるので、また別の機会に説明しましょう。

ヨットの冒険の本: ランサム・サーガの12冊 (2/2)

ヨットの冒険の本とくれば、どうしても外せないのが、『ツバメ号とアマゾン号』や『海に出るつもりじゃなかった』など、現在ではランサム・サーガと呼ばれている、英国の作家アーサー・ランサムが書いた一連の作品群ですね。

前回に引き続き、後半六作をご紹介します。

『海へ出るつもりじゃなかった』 神宮輝夫訳 (We Didn’t Mean to Go to Sea)

海外での長期駐在から帰国する海軍士官のお父さんを迎えに河口の町まで行ったウォーカー家の子供たちは、高校を卒業したばかりの青年ジムと知り合い、彼が管理している帆船ゴブリンに乗せてもらうことになります。

ところが、燃料を調達にいったジム青年が不在の間に、子供たちの乗った帆船は霧にまかれ、錨を失い、外海へと流れ出てしまいます。

まったく想定外の出来事が連続し、湾から出ないというお母さんとの約束を守れず、否応なく、子供たちしか乗っていない本物の帆船での外洋航海がはじまってしまうのです。

ジョンやスーザンは必死で引き返そうとします。が、悪天候で思うにまかせません。

シリーズ中で随一の、荒れた海での航海についての迫真の描写が続きます。正真正銘の海洋冒険が克明に描かれていきます。

ランサム・サーガの最高傑作として推す人が多いのもうなづけます。

その結果、子供たちがどうなったかについては、実際に読んでみてのお楽しみということにしましょう。

ここでは少し視点を変えて、マーク・トウェインになれなかった(ならなかった)アーサー・ランサムという話を少しだけ。

マーク・トウェインといえば、『トム・ソーヤーの冒険』で知られるアメリカ最大のベストセラー作家の一人です。

トム・ソーヤーの続編として書かれた(スピンオフ作品ともいうべき)『ハックルベリー・フィンの冒険』は、トムの友だちである浮浪児のハックと逃亡奴隷のジムがミシシッピ川を筏で下る逃避行を描いたものです。

トムの冒険は、あくまでも児童文学の範囲で展開されますが、ハックの冒険はその枠を飛びこえてアメリカの社会そのものを描いており、ヘミングウェイはこう評しています。

「現代アメリカ文学はすべて『ハックルベリー・フィン』と呼ばれる一冊の本からはじまる。」
“All modern American literature comes from one book by Mark Twain called ‘Huckleberry Finn’.”

ランサムの『海へ出るつもりじゃなかった』も、大人たちの目の届く範囲のごっこ遊びから、予期しなかった事情により、子供たちだけで外洋を航海せざるをえない状況に追いこまれてしまいます。

特に責任感の強い長男のジョンは、葛藤しつつも懸命な努力を続け、少年から青年へと成長を遂げようとしており、ごっこ遊びではない本物の冒険物語の誕生を予感させます。

が、ランサムは彼らを子供たちが本来いるべき世界に戻してしまいます。

おそらく「あえて」そうしたのでしょうが、ちょっと残念な気もします。

もっとも、そのおかげで、読者はランサム・サーガの後期の作品群を楽しむことができるわけです。

読みごたえのある充実した作品は、まだまだ続きます。

『ひみつの海』 神宮輝夫訳 (Secret Water)

前巻で大航海をやり遂げたウォーカー家の子供たちは、次の夏休み、海辺の陸地や汽水域が複雑に入り組んだ場所(ティティは秘密の多島海と命名)にある、浮き沈みする不思議な島の地図を作るという新しい課題に挑戦します。

お父さんが一緒の予定でしたが、急な呼び出しでいなくなり、完全に子供たちだけでミッションが進められます。

いままでお母さんの胸に抱かれてばかりだった末っ子のブリジットが、はじめて探検隊の一員として参加します。

お父さんから渡された白地図に、探検し測量して知ったことを記入して、少しずつ地図を完成させていくのですが、むろん、そう簡単に終わるわけがありません。

不思議な足跡を見つけたり、地元の子たちとのなわばりをめぐるいざこざもあり、さらにサーガでおなじみの海賊姉妹ナンシーとペギーもやってきたりして、息もつかせぬ展開が続きます。

架空の物語ですが、子供たちが作った地図にそっくりな地形が実際にあるそうです(ロンドンから北東の方向にある某自然保護区)。グーグルアースなどで場所を調べて特定するのも一興でしょうか。

アーサー・ランサムはサーガ全体を通して、舞台となる場所はしっかり下調べをしていることが多いので、日本のアニメである聖地めぐりは、なにも今に始まったことではなく、ランサム・サーガでは昔から行われていることでした。

『六人の探偵たち』 岩田欣三訳 (The Big Six)

イングランドの湖沼地方を舞台とした、シリーズ唯一の探偵団の活躍を描いた作品。

ドロシアとディックの姉弟が、休暇でまた湖沼地方にやってきたところ、係留されている船が次々に流されるという怪事件に遭遇します。

『オオバンクラブの無法者』を読んでいる人にはピンときますが、これは同書でオオバンの巣を守るためにトムがやむをえずやった行為を連想させます。

そのときはトムが騒音をまき散らす大型クルーザーに追いまわされることになったのですが、それが尾を引いているのか、クーツ・クラブの仲間(死と栄光号の三人)が犯人だと疑われ、どんどん追い詰められていきます。

そのことに憤慨したディックとドロシアの姉弟は、年長のトムや死と栄光号の三人とともに探偵団(つまり、これが六人の探偵たち)を結成し、真犯人捜しに乗り出します。

ここではディックの姉のドロシアが意外な才能を発揮して活躍します。

彼女はウォーカー家のティティと同じく夢想家で小説家志望なのですが、「まだ、探偵小説を書いたことがない」ので、自分たちの拠点をスコットランドヤードに見立てて、犯人捜しの指令塔として奮闘します。

ドロシアと犯人との真意を読み合う心理合戦もなかなか奥深く、探偵小説としても完全に成立しています。

とはいえ、登場人物の人間関係などを理解するために、この作品はまず『オオバンクラブの無法者』を読んでおいてから手にとる方がよいでしょうね。

『女海賊の島』 神宮輝夫訳 (Missee Lee)

この作品は、『ヤマネコ号の冒険』の続編というか、スピンオフの作品です。

つまり、子供たちが本当に体験したことというよりは、彼らが想像し作り上げた架空の冒険譚で、今回は世界一周の途中だったヤマネコ号で火災が発生し、沈没してしまいます。

で、彼らは救命ボートとして搭載されていたツバメ号とアマゾン号に分乗して脱出します。

漂流の末に到着したところは、ミス・リーという女海賊が支配する島だった、、、

というわけで、竜踊りなど中国と思われる異国情緒たっぷりの異文化体験をまじえながら、海賊の島での生活が繰り広げられていきます。

ここでもハラハラドキドキの連続で、彼らは海賊に首を切られそうになるところまで追いこまれてしまいます。

ミス・リーは海賊だった父親を継いだとはいえ、イギリスのケンブリッジ大学で教育を受け、ラテン語研究が大好きという異色の経歴の持ち主。

いかにもランサムらしく、「海賊=悪者」という単純な勧善懲悪の物語になっていないところが読みどころと言えるでしょうか。

『スカラブ号の夏休み』 神宮輝夫訳 (The Picts and the Martyrs)
アマゾン海賊の姉妹ナンシーとペギー、それに母親と叔父のフリント船長が不在のため彼女たちの家に招待されたドロシアとディック姉弟の夏休みの物語。

スカラブ号とは、ドロシアとディック待望の自分たちのヨットです。それを使ってアマゾン海賊と存分にセーリングを楽しむつもりでした。

ところが、アマゾン海賊にとっては天敵の大叔母さんがやってくることになり、ナンシーとペギーは監視されて「お行儀よく」せざるをえず、面倒をさけるため、ドロシアとディックは山中の掘っ立て小屋に隠れ住むことになってしまいます。

原題のPicts(ピクト人)は周囲から迫害されて隠れ住んでいた古代ピクト人のことで、ディックとドロシアを指し、Martyres(殉教者)は大叔母さんに監視されてピアノを練習したりと、せっかくの夏休みをお行儀よくすごさざるを得なくなったアマゾン姉妹のことです。

とはいえ、犬小屋と呼ばれる小屋の屋根を修理したり暖炉で火をおこして調理したりと、アウトドアを楽しんでもいるドロシアとディックですが、大叔母さんの目を盗んできたアマゾン海賊から帆走を習ったり、『ツバメ号の伝書バト』で登場したティモシーに協力して鉱石の分析をしたりと、忙しい生活を送ります。

鉱石の分析に必要な器具をとりにフリント船長の部屋に入ろうとしたディックは泥棒に間違われ、警察が出動する騒ぎに。

しかも、そのあとで、ランサム・サーガのトリックスターともいうべき大叔母さんが行方不明になって、警察と消防隊が山狩りを開始したものだから、ドロシアとディックは……

今回も予測もつかない展開の連続で、読者はハラハラしながらページをめくることになります。

『シロクマ号となぞの鳥』 神宮輝夫訳 (Great Northern?)

ウォーカー家の子供たち、アマゾン海賊の姉妹にドロシアとディックの姉弟、それにフリント船長というランサム・サーガの主要人物が勢ぞろいし、借り物のシロクマ号で英国北東部の北海にあるヘブリディーズ諸島などへのクルージングを楽しみます。

その航海の終盤に立ち寄った島の小さな湖で、ディックは大オオハムという珍しい鳥の巣を発見します。大オオハムは原題のGreat Northernのことですが、クエスチョンマークがついているのは、あまりにも珍しくて専門家でなければ断定できないからです。

たまたま近くの港に有名な専門家が寄港しているのを知ったディックは相談に行くのですが、その専門家がとんでもないやつで、地元のゲール人を巻きこんでの鳥の卵を守るための活躍が繰り広げられます。

※ 大オオハムは、正確にはハシグロアビ(Great Northern Loon / Great Northern Diver)というアビ科の水鳥で、カモやカイツブリに似ています。loonは、水に潜る鳥の総称です。

番外編『Coots in the North and other stories(北部のクーツクラブと他の物語)』

これはアーサー・ランサムの遺作(未完成の断片)に他の短編をあわせて編集されたもので、1988年に作家の構想メモなどとあわせて出版されました。

ランサム・サーガとの関連でいえば、クーツクラブの死と栄光号のジョー、ビル、ピートの三人がメインとなる物語になっています。

ウォーカー家の子供たちやアマゾン海賊、ドロシアとディックの姉弟は、お金持ちではないものの(どちらかといえば)裕福な家庭の子たちですが、死と栄光号の三人の家庭は庶民そのもので、学校が休みだからといって避暑にでかけるほどの余裕はありません。そこで、知恵を使ってなんとか北の湖へ行く方法はないかと知恵をしぼり……

残念ながら邦訳はありませんが、平易な英語で書かれているので、挑戦してみるのも悪くないかも。

※ 岩波少年文庫のランサム・サーガではすべて神宮輝夫訳で統一されていますが、リストに掲載した訳者はアーサー・ランサム全集発行時のものです。

ランサム・サーガの12冊の前半の紹介はこちら