海上の交通ルールと、黒色形象物/音響信号の使い方

海の上では、陸上と交通のルールが違っているのは当然ですが、目には見えないものの航路という名の道はあります。

海上で起きる事故は「決められたルールをちゃんと守っていなかった」ことが原因のことが多く、そのあたりの事情は交通事故と同じですね。

船舶の運航を職業としている人と違い、たまに釣り船に乗ったり、モーターボートやジェットスキー、ヨットで遊んだりする人は、小型船舶操縦士の試験で一度は習ったはずのルールをすっかり忘れて、知らず知らずのうちに危険な行為をしてたりします。

というわけで、海に出るときに知っておくべき最低限のルールをこちらでご紹介しておきましょう。

本船や頑丈な漁船とぶつかったら、華奢なFRP(強化プラスチック)製のプレジャーボートなど、ひとたまりもありません。自分の身は自分で守らないと……

●船同士が行き会う場合(反対方向から船が来るとき)

上図のように、逆方向から来た船同志がすれ違う場合、互いに右に避けます。

これは狭い水道(海が陸と陸にはさまれて狭くなっているところ)で行き会った場合も同じです。
こういう狭い水道では、行き会いがなくても、無理のない範囲で「右に寄って進む」のが基本です。

●互いの進路を横切りそうな場合(位置関係が変わらず、距離だけが接近するとき)

下の図のような関係ですね。

相手の見える方向がずっと変わらず互いに接近してくる状態だと、いずれ衝突する危険があるので、回避行動をとらなければなりません。

前を向いて自艇の右手に相手の船があれば(夜間では赤い左舷灯が見えるとき)、自分の船を右転させて相手を避けなければなりません(避航船)。

一方、自艇の左手に相手が見える場合(夜間では緑の右舷灯が見えるとき)、自艇は速度や進路は変えず、そのまま進みます(保持船)。

「避航船」と「保持船」という言葉を覚えておきましょう。どっちが優先されるか、を間違えないことが重要です。

相手が優先される場合、自分の方から回避行動をとります(右に避ける)。
逆に、権利のある船(保持船)は、そのままの進路を保つという責任があるのを忘れないように。

●船の優先順位

ここで、船舶には優先されるべき順序があるということを理解しておきましょう。

互いに航行している動力船(普通にエンジンで動いている船)同志であれば、大型の本船も小型のモーターボートも権利の上では対等なので、上記のルールに従いますが、相手が次のような場合には、スムーズに動ける動力船の方が回避行動をとらなければなりません(状況に応じて、右転でも左転でも可)。

1 運転不自由船
2 操縦性能制限船
3 漁労に従事している漁船
4 帆船

左端の番号も優先順位を示しています。

つまり、通常の動力船は1~4の船を避けなければならず、4の帆船は1~3の船を避けなければなりません。

運転不自由船: エンジン等の故障で動けない
(黒い球形の形象物を2個つるしている)

操縦性能制限船: 浚渫など作業中の船
(球形、ひし形、球形の形象物をつるしている)

漁労に従事している漁船: 網を引いたりしている漁船
(つづみ形の形象物をつるしている)
※ 釣りやトローリングしている漁船は、通常の動力船とみなされる。

帆船: 帆走しているヨット等
機走や機帆走しているヨットは、通常の動力船として扱われる)

※ 黒色形象物について

小型船舶の法定備品としてプレジャーボートで必要となる黒色形象物は球形のもの3個と円すい形1個ですが、他にも円筒形などがあります(ひし形とつづみ形は、円すい2個をつないで表現します)。
その意味は、下の表のとおりです。

●追い越す場合

前にいる船を追い越す場合、状況に応じて、左右どちらから追い越してもよいのですが、相手の船から十分な距離を保って追い越すことが必要です。

広い海面では距離をおいて自由に抜いていけばよいのですが、狭い水道などでは、音響信号(汽笛やフォグホーン)で「追い越す」ことを事前に相手に通知し、相手から了解をもらう必要があります。

※ 音響信号の使い方

音響信号で、短音とは約1秒鳴らし、長音とは4~6秒鳴らすことです(モールス信号のトン、ツーと同じように、それを組み合わせて意思を伝えます)。

音響信号には、一般に次の意味があります。
●短音1回(・): 自分の船が前を向いた状態で右に転じるとき
●短音2回(・・): 自分の船が前を向いた状態で左に転じるとき
●短音3回(・・・): 自分の船をバックさせるとき

相手の船に追い越しの意思を伝える場合、まず長音を二回続けてから、左右のどちらから追い抜くかを伝えます。 すなわち、

●右側から追い越す場合: 長音 長音 短音( --・ )
●左側から追い越す場合: 長音 長音 短音 短音( --・・)

追い越される船は、了解したという合図として 長音 短音 長音 短音( -・-・)を鳴らします。
追い越される船からの反応がないときは、追い越しできません

なお、急速に短音を5回以上鳴らすのは「意味がわからない」か「警告」の意味です。

音響信号は、霧がでて視界がきかないときにも使用されます。

航行中の動力船で対水速力がある場合: 2分を超えない長音1回
航行中の動力船で対水速力がない(動いていない)場合: 2分を超えない長音を2回
航行中の帆船、運転不自由船等の場合: 2分を超えない長音+短音2回

●港に出入りする場合の特別なルール

港への出入りでは、基本的に、出て行く船が優先されます。
港に入ろうとして出る船を見かけたら、港の外で待機します。

防波堤を回って出入港する場合、防波堤の先端を右まわりで入る場合は小さく(近づいて)まわり、左まわりの
場合は大きく(離して)まわります。

以上のことは、主に海上衝突予防法に基づいています。

航行する海域によって、さらに港則法(特定の港湾)や海上交通安全法(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の三海域にある11航路にのみ適用)に従う必要も出てきます。

航海灯や左右の舷灯などの灯火については、煩雑になるので、また別の機会に説明しましょう。