ヨーロッパをカヌーで旅する 42:マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第42回)


カヌーの運搬を頼んだ荷馬車の御者はちょっと変わった客、つまり英国旗を掲げたボートを運んでいることが自慢のようだった。それで、友人と出会うたびに、説明を繰り返している。細かいことはわからないが、かなり話を誇張して伝えているようだ。聴く相手もたいてい大喜びしていた。とはいえ、ツークの町を出たところで、この立派な御者先生に運賃の十三フランを払い、もうこの辺でいいですよと言うと、こんな中途半端な場所でよいのかと、ひどく面食らったようだった。出発の準備や何かで朝から動きまわって休憩もとっていなかったので、ぼくとしては一刻も早くカヌーを水面に浮かべて、のんびり休みたかったのだ。とはいえ、「イギリスから来て荷馬車で運ばれているボート」を見たいという町の人々の好奇心から逃れることはできなかった。見えないようにカヌーを石積みの土手の背後に移したのだが、町の人たちは土手の上によじ登り、立ったままこっちを眺めている。ぼくはそっけない顔をして何も言わずに座っていた。連中も同じように腰を下ろし、辛抱強く待っている。そこで作戦を変更し、カヌーを上下さかさまにして修理するふりをした。底板の継ぎ目にそって赤いパテを塗ってみせる。連中は、その作業が終わるまで、じっと見ている。仕方がないので、同じことを隣の継ぎ目でも繰り返しながら、これを全部やらなきゃならないんですよと説明する。さすがに、そこまでは付き合いきれないと、こっちの意図を察した何人かは腰を上げたが、前列のその空いた場所は、すぐに他の人で埋められた。こんなことを繰り返すのは相手にも失礼な気がしたし、ぼくの方も冷静になってきたので、カヌーを湖に浮かべて荷物を載せ、水上から見物人たちに「アデュー」と別れを告げた1

原注 1: この別れの言葉は、他のフランス語と同じく、ドイツやスイスでもよく用いられている。

パドルに水を感じると、また新しい活力がわいてきた。やわらかく、しなやかな流れと水面の穏やかなうねり──埃(ほこり)まみれの陸の旅の後では、こうしたことがまた新鮮な喜びを感じさせてくれる。こういう文字通り流れるような川旅を体験してしまうと、陸上の旅にはもう戻れないような気もしてくる。

ツーク湖は小さな湖で、山があるのは片側だけだ。そこから見事な丘陵が広がっている。リギ山や百を超える峰々が重なり合ったり、峰と峰の間に独峰が高くそびえたりしている。あまりにも風光明媚すぎて、下手な説明なんか、かえって邪魔なくらいだ。それに、この景色は旅行者にはよく知られてもいる。いろんな店のウインドウに、ここの風景を描いた絵が飾ってあるし、実際に現地に行って自分の眼でながめたことのない人であれば、そうした絵だけでも十分に楽しめるだろう。冠雪した山々を一望したときの感動は、とうてい言葉では伝えることはできない。

Zugersee

ツーク湖 [Lake of Zug, Author= Matthias Alder]

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