スナーク号の航海 (10) ジャック・ロンドン著

これはおそろしく厄介で、造船所ではなく海難救助業者の仕事だった。二十四時間に二度、満潮になる。夜だろうが昼だろうが満潮になるたびに、二隻の蒸気船のタグボートがスナーク号を引っ張った。スナーク号は水路と水路の間に沈み、船尾を下にして着底していた。この困った状況にある間に、ぼくらは地元の鋳造所に道具や鋳物を作らせて、エンジンからウインドラスまで動力を伝えた。例のウインドラスを使ったのは、このときが初めてだ。鋳物には割れ目があったため、バラバラになり、道具も壊れてしまって役に立たなくなった。ウインドラスが動かなくなり、その後で七十馬力のエンジンが故障した。このエンジンはニューヨークから運んできたのだ。土台になるエンジンベッドもそうだ。この台に傷が一か所あった。というか、たくさんの傷ができて、七十馬力のエンジンは土台から割れた。空中に跳ね上がり、接続部や締め具をすべて引きちぎって横倒しになってしまったのだ。それでも、スナーク号は水路の間に突き刺さったままで、二隻のタグボートはなんとか曳航しようと無駄な努力を続けていた。

「気にすることないわ」と、チャーミアンが言った。「船は一滴も水が漏れず頑丈だってことを考えましょうよ」
「そうだな」と、ぼくも答えた。「船首も美しいしな」
それで元気を取り戻すと、また作業に取りかかった。壊れたエンジンは、汚れた土台の上に固縛した。動力伝達装置の割れた鋳物や歯車は取り外し、保管しておいた──修理や新しい鋳物を作ることができるホノルルで、また取り出して使うつもりだった。はっきりとは覚えていないが、スナーク号の外側は一度白く塗っていた。日光の下ではっきり見えるようにするためだ。スナーク号の内部は塗装していなかった。逆に、グリースと、さんざん苦労させられたさまざまな技術者連中のタバコの唾が数インチも塗りこめられていた。気にしないようにしようと、ぼくらは言いあった。グリースや汚物は削り取ることができるし、いずれホノルルに着いたとき、本格的に修理し、塗装することもできるだろう。

奮闘努力した末に、スナーク号を難破状態から引きずりだし、オークランド市の埠頭に係留した。家から持ってきた衣類一式、本、毛布、各人の私物をすべて馬車で運びこんだ。それと一緒に、他のものもすべて船に持ちこんだりしたので、船上は大混乱だった──薪に石炭、水に水タンク、野菜、食糧、オイル、救命ボート、テンダー(足船)、友人たち、友人の友人たち、友人だと言い張る連中、乗組員の友人の友人の友人とでもいうほかない連中でごったがえした。おまけに、新聞記者やカメラマン、見知らぬ連中、変人、そうして極めつけは埠頭から流れてくる雲のような炭塵の煙。

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オークランド市の埠頭に係留

 

日曜の十一時に出帆する予定だった。すでに土曜の午後になっていた。埠頭には群衆が集まり、炭塵の煙も濃くなっていく。ぼくはポケットの一つに小切手帳と万年筆、日付スタンプ、吸い取り紙を入れ、別のポケットには一、二千ドル分の紙幣と金貨を入れていた。債権者が来てもすぐに対応できるし、こまごまとしたものの代金は現金で、大口は小切手で、というわけだ。あとは何カ月も作業を遅らせてくれた百十五もの会社の未払いの勘定書を持ってロスコウがやって来るのを待つだけだ。そうして──

それから、信じられない、ひどい話がまた起きてしまった。ロスコウが到着する前に別の男がやってきた。合衆国の保安官だ。スナーク号にはまだ未払債務が残っているという申し立ての通達を、埠頭にいる全員が読めるように、マストに貼りつけたのだ。スナーク号の管理人として小柄な老人を残し、保安官自身は行ってしまった。これで、スナーク号も、あの美しい船首も、ぼくにはどうしようもなくなった。この小柄な老人が今ではスナーク号の王であり主人なのだ。おまけに、ぼくはこの老人に管理料として毎日三ドルを支払うことになったらしい。ついでに言うと、スナーク号を訴えた男の名前も判明した。売主一同とある。債務は二百三十二ドル。この証書にはそれしか書いてない。売主一同だと! いやはや、売主一同だと!

とはいえ、売主一同とは誰のことだ? ぼくは小切手帳を調べて、二週間前に五百ドルの小切手をきっていた。別の小切手帳を見ると、スナーク号を建造している何カ月もの間に、ぼくは数千ドルも支払っていた。それなのに、なぜスナーク号を訴える代わりに、わずかな未収金を回収しようとしなかったのだろう? ぼくは両手をポケットに突っこみ、一方のポケットから小切手帳と日付スタンプとペンを取り出し、別のポケットからは金貨と紙幣を取り出した。このわずかな金の問題を解決する機会は何度もあったし、それに必要な金もあったのだ──なぜ、ぼくに支払うチャンスを与えてくれなかったのだろう? 説明はなかった。これがとんでもなくひどい話でなくてなんなんだ、というわけだ。

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