ヨーロッパをカヌーで旅する 18:マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第18回)



それとは別にウルリックというウェイターがいた。腹をすかせた歌い手たちが殺到するのを見込んで、その日だけ「特別に」雇われていた。彼は人見知りで、村の宿屋で働いた経験があるだけの若者だ。「ドナウエッシンゲンのポスト」といえば、職場としてはおしゃれで品格のあるところだとされている。彼はフランス語も勉強していて、ちょっと涙もろいので、ぼくは素っ気ないほど実用的な本を彼にやった。すると、ぼくがカヌーを漕いで川を下るときに自分をカヌーに乗せて家まで運んでいってくれないかと頼んできた! こういう単純で率直な依頼を受けたりしたら、こっちも本当に楽しくなってくる。ぼくらがずっと浅いところばかりを航行するのだとしたら、こんな連れがいても楽しいだろう。

ドナウ川の実際の水源については、ナイル川の水源の場合と同じく諸説ある。

ぼくは地元の人々から正確な情報を得ようと聞いてまわり、一日がかりで調べたが、徒労に終わった。ドナウエッシンゲン周辺の土地は多孔質の土壌で、無数の小さな流れ込みがあり、また、それよりは大きな小川もいくつかある。ぼくはその一つ、ブレゲ川に沿って二十マイルほど、セント・マーティンの近くまで行ってみた。それとは別に、ブリガッハ川も十マイルほど調べた。この川はネッカー川の源流から一マイルほどのセント・ジョージア近辺まで流れている。ネッカー川自体はライン川に至る。こうした小さな川はドナウエッシンゲンの近くで合流しているのだが、この町まで来ると、教会の近くの王族の庭園で透明な湧き水となってぼこぼこ湧き出している。ドナウの泉だ。ここで誕生したばかりの流れは、すでにカヌーには十分な川幅がある別の川へと流れ込んで、そこで初めてドナウ川という名称で呼ばれるのだった。

比較的に大きい二つの小川のどちらも、この名前で呼ばれることはないという。というのも、湧き水が絶えることはないものの、夏の乾期には渇水のためどちらの川も消滅することがあると知られているからだ。

ブレゲ川とそれに合流している別の川は、ブリガッハ川の近くで人工池に流れ込んでいる。この湖は周囲を森林に囲まれていて、きれいな島があり、白鳥や金色の魚もいる。隠そうとして隠しきれていない水車があった。この現実離れした池で、一群の彫像に囲まれた、円錐を逆さにしたような漏斗状のものから、水車でくみ上げられた水が流れ出ている。そして、その水流が他の流れ込みと合流して古代のギリシャやローマのイストロス川に、つまり現在のドナウ川になっているのだった。

とはいえ、源流部にはさまざまな流れ込みがあり、ここまで来て間違いをしたくはなかったので、ぼくはそれぞれの流れ込みについて、カヌーを浮かべられなくなる上流部まで遡って調べた。

ドナウ (Donau) は「ドーナウ (doanow)」と発音されている。ヒルベルトは「ドン (Dón )と、川を示すドゥナ (Düna)が結びついてドウナウ (Dünau)になった」と述べている。ケルト語でデューン (Dune) は川を、ドン (Don) は茶色を意味し、アウ (au) はドイツ語で「島」の意だ(英語の eyot のように川にある小島を指す)*1。

これらの川については、航海計画用の地図に書き込んだ。こうした言葉には古代ローマ帝国時代の名残りがあるような気もする。ブリガッハ川は北から流れていて、そこで軍事的に勇名をはせている要塞の町、「古いブライザハ」という名前は、古代ローマ時代の「モンス・ブリシアクス」を指しており、その一方、「ブレゲ川」は「ブリガンティ」と呼ばれることもあるが、これは「ブリガンティヌス・ラカス」で、現在の「ボーデン湖」(コンスタンツ湖)になる。ネッカー川は古くはネッカルと呼ばれ、黒い森は「ヘルキニアの森」となる。こうして調べた内容は、ありがたいことに現在では「ロンドン教育委員会」の読本にも採用されている。ぼくとしては、それを読む生徒たちに対しては、ぼくらがここで直面したように、課題の解決に喜びを見出してくれればと願っている。

読者もまたドナウ川の源流やその名前については混乱していることだろう。厄介なラテン語の迷路から離れ、さっさとカヌーに乗ることにしよう。

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脚注
*1: ドナウの語源については関係する地域・民族の神話や古言語が複雑に関係しているが、ローマ神話に出てくる河の神でラテン語のダーヌビウス (Danubius)に由来するとするのが一般的。
また、au は古いタイプのドイツ語ともいえる古ゲルマン語では、島ではなく(島があるような)川を指す ouwe に由来するとされている。



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