現代語訳『海のロマンス』82:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の(82回)

厳格な選挙法案

南アフリカ連邦がわざわざ「プレトリアを連邦政府の首都となし、ケープタウンに連邦立法部を設置する」という法(アクト)を宣言して、事実上、連邦の首都として機能しているケープタウンを継子(ままこ)扱いにし、ただ単に立法府のみにとどめたについては、為政家(いせいか)や経世家(けいせいか)といった、いわゆる政治家が新しい国を併合して一体化させて統治する際の政治や複雑な国政運営に向けて、いかに甚大(じんだい)な苦心と配慮が必要とされるかをおのずから語っているのみならず、波乱と曲折に富んだ、政治の世界における紆余曲折(うよきょくせつ)を究(きわ)めようというときに、言外に、その興味深い帰結が示されている。

いかに地勢上の均衡をはかるためとはいえ、連邦の首都を遠く南北トランスヴァールのプレトリアに定めたことは、国会(ナショナル・コンベンション)において優勢なるボーア側の委員が多数選出されたことや、雄弁博識にして威厳があり、経験豊かなメリマン(英)を捨てて、あえてボーア側勢力の中心人物たるボタ将軍を二度までも連邦の首相に任命したことなどを考えると、インドでの統治につくづくてこずって、威圧するのではなく信服させようと方針変更した英国が、いかに南アフリカ連邦のオランダ系国民を手なづけようと努力したかをうかがい知ることができる。

南アフリカ共和国における
ケープタウン(最大の都市)とプレトリア(首都)の位置関係

しかし、気の毒にも、この政策はまったくの失敗に終わり、極端な平等主義はかえって英国系を抑制しオランダ系を優遇する結果になっている。下院において三十七の議席を有する英人の統一党(ユニオニスト)に対し、オランダ人の国民党(ナショナリスト)は六十七という過半数を占めている。その他に十三の独立党(インデペンデント)、四の労働党(レイバー)があるけれど、要するに現状維持の守旧派にすぎない。

下院においてこのありさまだから、他は押して知るべしだ。英政府は遅まきながら微笑戦術で「白い歯」を出しすぎたのを後悔していることであろう。この点では「およそ人を遇するには位をもってし、位を極めているときは残す。これに対しては恩をもってし、恩が極まると慢心する」と喝破(かっぱ)した諸葛亮(しょかつりょう)*の方がはるかに賢いようである。

* 諸葛亮(しょかつりょう): 後漢(ごかん)末期から三国時代に活躍した中国の武将。三国志の英傑として知られている諸葛孔明(しょかつこうめい、西暦一八一年~二三四年)のこと。
 ちなみに人気マンガ/アニメの『キングダム』は、それより四百年ほど前の秦の始皇帝にまつわる話である(日本では縄文時代の終わりから弥生時代に移るころ)。

ところで、このオランダ系の勢力圏内にある下院議員の選挙法は、科学的に制定されたとでもいうか、すこぶる厳格なものである。

当初、一九〇九年に南アフリカ連邦の組織構成に関する諸種の法(アクト)を制定するための仮議会なるものが招集されたが、このとき多数を占めたのは無論、オランダ系の政党であった。この仮議会において、一九一〇年に初めて開会する連邦下院の議席は百二十一とすべきこと、またそれ以降は人口の増加に従って徐々に増大させて最大百五十に達することが宣言された。このときの最初の議会における百二十一の内訳はケイプ・コロニーが五十一、ナタールが十七、トランスヴァール三十六、オレンジ自由国十七という割合であった。

次いで連邦の総選挙区を構成するため、各植民地からジャッジと称される四人の委員が任命された。この段階で、委員会はクォータと呼ばれる一定単位の選挙人団(当選に必要な人数を示す基準となる数)について、一九〇四年の人口調査(センサス)の結果として、ヨーロッパ系成人男子の総人口(連邦の全州)を連邦議会の議席数で割り、2891.2なる数が得られた。すなわち、

地区 有権者数
ケイプ・コロニー 167,546
ナタール 31,784
トランスヴァール 106,403
オレンジ自由国 44,014
349,837

対象となる有権者数349,837 を議席数121で割ると2,891.2 という結果が得られる。この制定法では、このクォータおよび計算法が同様に各州の議会の議席数を定める際にも適用される。たとえば、ケイプ・コロニーに対して 「X(エックス)÷ 61」というクォータが得られた委員会は、当該州をこのクォータに応じた選挙人数を持つよう多数の選挙区に分割する方法を採用した。

よって、一九一〇年の第一議会に当たって選出されるべき議席は、ケイプ・コロニーは 167,646÷2891.2=57で、議席数は六増となる。ナタールは十七に対して十二、自由国は十七に対して十四で、いずれも既定の数には満たず、トランスヴァールは三十六に対して三十六で、すでに上限に達している。しかして、一九一一年の人口調査(センサス)の報告によれば、トランスヴァールの人口膨張は123.554の加速度を示していて、まさに次回議会では若干の議席増がありうる勢いを示している。*

* ここで説明されている南アフリカの選挙制度は一種の比例代表制である。
クォータとは、当選に必要な基準となる(有権者の)数を指す。
選挙で比例代表制を採用している国々においても、議席の配分など細部の規則については、それぞれ手法が異なっている場合が多い(例:ドント式、ドループ式など)。
日本でも衆参両院で比例代表制が採用されているが、衆議院は小選挙区制と拘束名簿式比例代表制を併用し、参議院の比例区は非拘束式比例代表制となっている。

このように、五年ごとの人口調査の結果、2891.2なるクォータを超過するか、またはその倍数を超過する人口膨張を示した州は、それに応じて追加した議席数を得ることになっている。しかして、この議席数が既定の百五十に達するまでか、または今後十年にわたる期限内においては、下院は解散を命じられる場合をのぞき改造されないことになっている。

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