ヨーロッパをカヌーで旅する 12: マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第12回)


天気はまたすぐによくなって楽しくなった。というか、カヌーって狩猟もできるんだって感じになってきた。というのも、いかにもここは俺の縄張りだぞといいたげな野生のカモが浮かんでいたし、浅瀬を歩いていたサギは、ぼくらが近づくと、こわいこわいという風に遠ざかっていったりしたからだ。それで、相棒は銃を構えた。ぼくは猟犬になったつもりで、川の反対側からこっそり忍び寄り、パドルで獲物を指すという遊びをやったりした。

この遊びに、ちょっと夢中になりすぎてしまった。相棒の伯爵は岸に上がり、土手で腹ばいになった。ぼくらを小馬鹿にしている鳥の方へと前進していく。彼の射撃の腕は一流で、ウインブルドンの大会でも実証済みなのだが、いかんせん短銃でサギを撃つのは簡単ではなかった。

影が長く伸びてくると、この単調な川も美しく見えてきた。夕方、人気のないプールで水浴びをし、泳ぎ疲れるとまじりけのない黄色の砂場で横になって休んだ。ハーナウで宿泊することにした。

翌日のマイン川の川下りについては、とにかく楽しかったことだけは覚えているが、最後に大きな城に着いたことを除いて、ほとんど記憶がない。城のある場所で、一隻の船が停泊していた。明らかにイギリスのものだった。その船についてあれこれ探っていると、一人の男が皇太子の船だと教えてくれた。しかも、「いまバルコニーから君たちをご覧になっているよ」と言うのだ。ここはルンペンハイムにあるケンブリッジ公爵夫人の城で、フェリーを下車した四頭立ての馬車が、皇太子夫妻をこの川辺の城へとお連れしたところなのだった。そこからフランクフルトまでは、西の強風が吹いたので、必死でパドルを漕いだ。ルシーという宿で濡れた服を乾かした。ヨーロッパで最高級のホテルの一つだ。

翌日、フランクフルトのボート乗りたちは、イギリスからやってきたぼくらのカヌーが川を軽々と進んでいく様子に驚いていた。風を受けて川を飛ぶようにさかのぼったり、「地面が濡れているだけ」の浅瀬では、パドルを漕いで向きを自在に変えた。二人とも楽しいからカヌーに乗っているのだったし、カヌーに乗ってしまえば体重は関係ない。もっとも、ぼくらの乗っているカヌーには、二人一緒に乗って快適に漕げるだけのスペースはなかった4

原注4
ロイヤル・カヌー・クラブには、何隻か「二人用」カヌーがある。各艇に二人の漕ぎ手が乗るので、非常に速い。最近ではクラブは毎年のように、各艇に四人を乗せ、ダブルパドル*1を使ったレースも行っている。オークやヒマラヤスギやパイン材で作ったカヌー以外にも、皮や帆布、ブリキ、紙、天然ゴム製のカヌーも所有している。

 

脚注
*1:ダブルパドル - 両端に水をかく平たいブレードがついているパドル。ダブルブレードパドルとも呼ぶ。
カナディアンカヌーのようにデッキがないカヌーでは、片側のみのシングルブレードパドルを使うのが一般的で、その場合、一本のパドルを持ち替えて両舷を交互に漕ぐ。

日曜日、例のやんごとなき高貴な方々がフランクフルトにある英国国教会の教会に来場された。他の聴衆と同じように歩いて礼拝堂から出てこられたが、静かで上品なやり方で、派手な行進なんかするより親しみが持てた。

厳粛な場では、シンプルに徹することが真の威厳につながる。

その翌日、とにかく行動的で陽気な相棒は、ぼくと別れて帰国することになっていた。ウインブルドンではその腕前で年間最優秀賞を獲得していたのだが、彼はウインブルドンでの二週間の射撃練習だけでは満足していなかった。沼地や草地での狩猟の予定が詰まっていて、それとは別に仕事でも故国にいる必要があったためだ。相棒はライン川をケルンまで漕ぎ下った。途中で何度か、全速力で進んでいる蒸気船にロープのフックを引っかけてカヌーを引っ張らせるという離れ業を演じて見せたりもした5

原注5
アバディーン伯爵は、後年、ある帆船に乗っていて溺死した。卿の兄弟の故ジェームズ・ゴードン氏はプロのカヌーイストで、ロブ・ロイ・カヌーに乗って英国海峡を横断した最初の人である。現在の伯爵もロイヤル・カヌークラブの会員であり、物故されたがフランスの王位継承者だった方もこのクラブに所属し、四隻のカヌーを所有されていた。協会の会長は英国皇太子である。

一方、ぼくは自分のカヌーを鉄道でフライバーグまで運んだ。そこから、まったく新しい航海を始めるのだ。というのも、ここまでは知っている川だったが、ここから先は、ロブ・ロイ・カヌーでは未知の水域を漕ぐことになる。

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