ヨーロッパをカヌーで旅する 81:マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第81回)
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軍が常駐している地区には約五百棟の住宅があった。頑丈な造りで、広々としていて、明るかった。すべてがレンガ造りで屋根はスレートだ。手入れもきちんとされている。建物はそれぞれ長さが約七十フィート(二十一メートル)、幅二十フィート(六メートル)の平屋である。この野営地にはすでに百五十万ポンドが費やされている。この住宅地の奥には兵士向けの庭がある。これはイギリスの野営地でも近年に取り入れられている特徴だ。この場所には数千人の兵士しかいないので、そのうち興味深いものはすべて見てしまった。レストランでは、二十人ほどの将校が連れだって朝食に集まってきているのを目撃した。が、とにかく声が大きく、粗雑で品がなく、言葉づかいも乱暴なことに驚かされた。ものすごい騒音で、それが途切れることがない。フランスの食事で、これほどひどいものには出会ったことがない。朝食を食べる間のわずか半時間ほどだが、これほど大声で怒鳴りちさずにはいられないのは、何か特別な理由があるのだろうと考えざるをえないほどだった。

軍隊の飲食施設についてフランス軍では何度も試されているものの、フランスのクラブなどと同じで、全体としてうまくいってはいない。とはいえ、長く住んでいるのであれば話は別だが、ちょっと立ち寄っただけの旅行者が自分の狭い体験で大きな国全体の国民性を早急に決めつけるのは賢明とはいえまい。通りすがりにちらっと見た知らない人の鼻が長いからといって、その人がどういう性格かまでわかるわけがないし、そこまで突っこんで論じるには、もっとよく知りあっていなければなるまい1

原注1: 最近フランスで出版された本では、イギリスの法曹界について、英国の法廷弁護士(バリスター)は名刺に自分が滞在している「宿屋」の名を書いているとか、テンプル・ボランティアーズの人々はある上級法廷弁護士から見事な指導を受けているが、その上級法廷弁護士殿はニス塗りのカバーがついた傘をたくみに扱い、それが日光をあびて剣のようにきらりと光るとか──自分も法廷弁護士だが、およそ一般には当てはまらないことが実情として書かれていた!

フランスのこの県(マルヌ県)にあるもう一つの興味深い町はランスだ(つづりはReimsだが発音はRensに近い)。ぼくはここの壮麗な大聖堂を訪ねてみた。すばらしかった。この大聖堂はヨーロッパでも最高のものの一つで、非常に古く、非常に大きくて豪華で、フランスの歴代国王の戴冠式が挙行されてきたところでもある*2。それに加えて、整然としていて、おどろくほど清潔だ。外壁には聖堂を取り囲むように石像が彫られているが、その大半は美術作品としての質は低い。少し離れて眺めると、ごてごてと装飾過剰な印象も与える。

*2: 1991年、ユネスコ世界遺産に登録された。

フランス・イラストレイテッドという雑誌は各号が四ペンスで発行されている。マルヌ県の地図、有名な場所や出来事の木版画、主要都市の略史が掲載され、巻末には地域の統計データの概要が記載されている。こういうガイドブックがイギリスでも刊行されて、とくに旅行者が田舎の町でも必要な分を買えるようになれば非常に重宝するだろう。マルヌ県に隣接する県の一つについて、この刊行物の記事によれば、人口約五十万の地域で年間に約百人が自殺していると書かれている。これは確かにびっくりする数字だ。たとえば、マンチェスターで一年に百人の男女が自殺しているというのがニュースにでもなったとき、ぼくらとしてはどうすべきなのだろうか?

とはいっても、そこには深入りせず、旅行者の普通の話に戻そう。というのも、ぼくとしてはカヌーを載せた貨車が到着するのを今か今かと待っているところなのだ。カヌーと離れ離れになったのは今度の航海で初めてなので、いつも目にしていた黄色のオーク材やピンクがかった茶色のヒマラヤスギの甲板を持つカヌーと再会するのが待ち遠しくて仕方がない。

で、翌朝、ぼくのカヌーはランスの隣のエペルネにあった。二シリング六ペンスの運賃で、無事に到着した。すべて無事だと安心したものの、やがて、残念なことに船体に傷がついていることが判明した。その状態では水漏れしてしまう。炎天下に駅のホームで、たっぷり三時間かけてカヌーを修理し、継ぎ目にはグリースを塗りこんだ。こうした手間はかかったものの、カヌーをなんとかマルヌ川に浮かべることができた。が、いたるところから水が漏れ出てくる。

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