スナーク号の航海 (38) - ジャック・ロンドン著

その昔、島で放牧されていた牛を夜間に囲っておくために使われた石囲いの中で ビーフジャーキーとかためのポイで昼食をとった。半マイルほどクレーターの縁を迂回してから、火口の中へ降りていく。火口底は二千五百フィート(約七百五十メートル)下にあり、そこに向かう急な斜面に火山灰が降り積もっている。馬は足をすべらせそうになったり、ずり落ちそうになったりもしたが、足どりはしっかりしている。黒っぽい火山灰の表面が馬のひずめで踏み割られると、黄土色の酸性の粉塵がはげしく舞い上がって雲のようになった。運よく見つけた風穴の入り口まで、平坦なところをギャロップで駆けていく。火山灰の雲に包まれながらも降下は続いた。噴石丘のある一帯では灰が風に舞った。噴石丘はレンガ色をしているが、古いものはバラ色だったり、紫色がかった黒だったりした。荒れた海の大波のような無数の溶岩流をこえ、くねくね曲がった道を進んだ。が、いつのまにか頭上はるかに火口壁がそそりたっている。溶岩流はかちかちに固まっていたが、荒海の波のようにノコギリの歯状になっていて難儀した。どちらの側にもぎざぎさした壁や噴気孔があり、すばらしい景観を形成していた。ぼくらがたどっている踏み跡は昔できた底なしの穴に向かっていたが、一番新しい溶岩流がそれに沿って七マイルも続いていた。

クレーターの一番低い方の端にあるオラーパとコーリアの木が茂る小さな林でキャンプした。千五百フィート(約五百メートル)もの垂直に切り立った火口壁の根元で、クレーターの縁から少し離れたところだ。ここには馬が食べる牧草はあるが水がない。それで、まずぼくらは道をそれて溶岩流を一マイルほども横切り、水があるとわかっているクレーターの壁のくぼみのところまで行った。水たまりはカラだった。しかし、割れ目を五十フィート(約十五メートル)ほども登ると、ドラム缶八本分ほどの水たまりが見つかった。手桶でくみ出すと、この貴重な水は岩を伝って下の水たまりに滴り落ちた。そこに馬が集まってくるので、カウボーイたちはそれを追い返すので忙しかった。というのも、狭くて一度に一頭しか飲めないからだ。それから壁の根元ぞいにキャンプ地まで戻った。野生のヤギの群れが集まってきて騒々しい。テントを立て、ライフルをぶっぱなした。食事のメニューはビーフジャーキーとポイに子ヤギの焼き肉だ。火口の上空、ぼくらの真上に、ウキウキウに吹き流されてきた雲海が広がっている。この雲の海はたえず頂上にさしかかり、それを乗りこえて進もうとするのだが、月はずっと見えていたし、雲に隠されることはなかった。というのも、火口の上空にさしかかった雲は、火口からの熱で消えてしまうからだ。月あかりの下でのたき火に魅せられたのか、クレーターに住み着いている牛がのぞきこむ。下草にたまった露くらいしかなくて、水はほとんど飲んでいないはずなのだが、よく肥えていた。テントのおかげで、夜露をしのげる寝室が確保できた。疲れを知らないカウボーイたちが歌うフラの歌を聞きながら、ぼくらは眠りについた。連中にはたしかに勇敢な先祖たるマウイの血が脈々と流れている。

太陽の家をカメラで再現することはできない。撮影した写真が嘘をつくわけではないが、すべての真実を語っているわけでもない。コオラウ・ギャップと呼ばれる割れ目は網膜に映ったとおりに忠実に再現されているが、写真ではどうしても、あの圧倒的なスケール感が伝わってこない。高さ数百フィートに見えるこうした壁は数千フィートもあるのだ。そしてそこから侵入してくるクサビ状になった雲は、割れ目の幅いっぱいに一マイル半も広がっているし、この割れ目の向こうには本物の海があるのだ。噴石丘の表面や火山灰の外見は形が崩れて色もないように見えるが、実際は赤レンガ色、赤褐色、バラ色と色彩も変化に富んでいる。それに、言葉でもうまく表現できないし、ちょっとむなしい。火口壁は二千フィートもの高さがあると言葉で表現すれば、ちょうど二千フィートの高さということになるが、火口壁には単なる統計上の数字をこえた、圧倒的な量感があるのだ。太陽は九千三百万マイル離れたところにある。が、われわれのように死すべき存在にとって、実感としては隣の郡の方が太陽などより遠くにある気がする。こうした人間の脳の弱点は太陽に対してひどくなるし、太陽の家に対しても同様だ。ハレアカラ火山を何か代わりになるものを使って伝えることはできない、美や驚異という人の魂に向けてのメッセージを発しているのだ。コーリコリはカフルイから六時間のところにある。カフルイはホノルルから一晩船に乗れば行ける。ホノルルは読者諸君がいるサンフランシスコから六日のところにあるのだ。

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半マイルほど下方に見える火口底の墳石丘。小さいもので高さ四百フィート(約百二十メートル)、最大のものは九百フィート(約二百七十メートル)ある。

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運よく見つけた風穴の入り口まで、平坦なところをギャロップで駆けていく

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