スナーク号の航海(7) ジャック・ロンドン著

第2章

信じられない、ひどい話

「金は惜しまない」と、ぼくはロスコウに言った。「スナーク号のすべてを最高のものにしようぜ。見てくれなんて、どうだっていい。ぼくとしては、仕上げは無垢の松材で十分だ。金は建造費に使う。スナーク号をどんな船にも負けないくらい頑丈にするんだ。そのためにどれくらい金がかかるかなんて、気にしなくていい。お前は船を頑丈にすることだけを考えてくれ。支払う金はぼくは原稿を書いて稼ぐから」

そして、実際にそうしたのだ……できる限りの努力はした。というのも、スナーク号はぼくの稼ぎを上まわる速さで金を食っていくのだ。実際問題として、稼ぎの不足分を補うため、しょっちゅう金を借りなければならなかった。一千ドル借金したと思ったら、それが二千ドルになり、五千ドルになるという具合だ。ぼくは毎日ずっと仕事をし、稼ぎはこれにつぎ込んだ。日曜も働いたし、休みなんかとらなかった。だが、その価値はあった。スナーク号のことを考えるたびに、それに価すると思えるからだ。

心やさしい読者には、スナーク号は頑健だと知っていてもらいたい。水船長は四十五フィートで、キール脇の舷側厚板は三インチ、他の厚板は二インチ半、甲板材は二インチ厚で、どの板にも継いだところはない。自分でピュージェット・サウンド産を特注したので、よくわかっている。さらに、スナーク号には四つの水密区画がある。つまり、船は水を漏らさない三つのバルクヘッド(隔壁)で分けられているということだ。だから、スナーク号に穴があいて浸水したとしても、その区画に海水が浸水するだけで、残り三つの区画でなんとか船は浮いていられるし、その間に修理もできるだろう。この隔壁にはほかにもいいところがある。最後尾の区画には六個のタンクがあり、一千ガロン(3785リットル)のガソリンを入れておくことができる。小型船に大量のガソリンを積んで大海原を進むのは非常に危険なのだが、漏れない六個のタンク自体も船の他の部分とは隔離し密閉された場所に置かれるので、現実問題として危険は非常に小さくなるだろう。

スナーク号は帆船だ。帆走第一で建造されている。とはいえ、補機として七十馬力の強力なエンジンを搭載している。これはすぐれた強力なエンジンだ。いやというほどよく知っている。ニューヨーク市からはるばる運んでくるための金を自分で払ったのだから。おまけに、エンジンの上の甲板にはウインドラスがある。これも最高だ。重さは数百ポンドもあり場所ふさぎなのだが、七十馬力のエンジンを搭載しているのに、アンカーを人力で揚げるなんてありえない、というわけで、ウインドラスを取り付けたのだ。ギアやサンフランシスコの鋳造所特製の鋳物を使ってエンジンのパワーをこいつに伝達するようになっている。

スナーク号は楽しみのために建造したのだが、快適にする装備にも金は惜しんでいない。たとえば浴室だ。狭くて小さいのは事実だが、陸で風呂に入る際の利便性はすべて備えている。器具やポンプ、レバー、海水弁などの配置もすっきりとしている。建造中、ぼくは床についてからもこの浴室のことを考えていたものだ。浴室の隣は救命ボートと上陸用のテンダーで、これは甲板に載せておく。空いたスペースは、ぼくらの運動用だ。体を鍛えておけば生命保険もいらないってわけだ。とはいえ、スナーク号のようにどんなに頑丈な男でも、よくできた救命ボートを持つのが賢明だ。コストは百五十ドルという話だったのに、請求書の支払をしようとすると、三百九十五ドルになっていた。これで救命ボートがどんなにいいものかわかるだろ。

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