『六分儀と天文航法入門』が出版されました

『六分儀と天文航法入門』
デジタルの時代だからこそ
アナログがおもしろい!

海洋冒険文庫 編著
ISBN 978-4-908086-18-2

アマゾン・キンドルで先行発売しましたが、オンデマンドによる紙の本もまもなくご利用いただけます。

海洋冒険文庫で好評連載された『世界一わかりやすい天測術』をさらに全面的によみやすくしたものです。

国によって異なる海上標識(浮標)を正確に理解しておきましょう

日本やイギリスでは車は左側通行ですが、アメリカは逆ですよね。

海外でレンタカーを借りる際に最も注意すべき点です。右折、左折、合流すべてが国内とは反対になるので、気が抜けません。事故にならないまでも、「うっかり」「つい」で肝を冷やした方がいらっしゃるかもしれません。

それと同じように、港の近くまで来たら船舶が頼りにする海上標識も、国によって真逆になることがあります。

各国でちがっていたら危険なので統一しようという動きは百年以上も前から行われていて、かなり整理されてはいます(IALA海上浮標式)が、21世紀になった現在でも、A方式とB方式が併存しています。

具体的に見ていきましょう。
一番身近で重要なのは、右舷と左舷の航海灯の色(これは世界共通)ですね。

日本では船舶の右舷にある航海灯が緑色で、左舷の航海灯が赤色です。
少し年配の方は、小型船舶操縦士の試験で、「赤玉ポートワイン」(左舷は赤)といった言葉で覚えた人がいらっしゃるかもしれません。

※ スターボード (Starboard) = 右舷、ポート(Port) = 左舷(ヨットレースの権利関係でも使います)
※ 小型船舶では左右に1個ずつというより、船首部に両色灯1個(電球1個で、外枠が緑と赤に色分けされている)が多いでしょうか。

海上標識の右舷標識(赤色)は「これよりを通れ」(ここが航路の右端)、
左舷標識(緑色)は「これよりを通れ」(ここが航路の左端)の意味です。

※ 右か左かは、どちらを向いているかで異なってきますね。
水源(日本では瀬戸内海など一部をのぞいて、沖縄・与那国島)に向かって右か左かです。
まあ、一般に、出入りする目的地の港を水源とみなしておけば間違いはありません。
※ 直感的にわかる覚え方として、磁石のS極とN極を連想する方法もあります。
港に入るときは、港の灯台の赤と船の灯台側の航海灯が緑になるようにし(磁石のSとNで引きつけ合うように)、港を出るときは同じ側を同じ色(赤と赤、緑と緑)にして反発しあう(SとS、NとN)ようにして出て行く。

この緑と赤の関係がなぜ重要かというと、船同士が「横切り」や「行き合う」関係になったとき、どちらが優先されるか/どちらが避けるべきか(特に、灯火の色で判断するしかない夜間)や、航路内、港への出入りでの船の進路に影響するからです。

基本として、国内では、下の図のように、

・航路内では(前を向いた状態で)右側通行
・港に近づいたら(前を向いた状態で)右舷に赤、左舷に緑(白)の浮標(灯台)を見るように進む
・港の入口付近では「出る船が優先」で、右舷に見えるものに寄せ、左舷に見えるもの(別の船等)から離れる(右へは小まわり、左へは大まわり)

国内(B方式)では、この原則を守っていれば大きなトラブルにはなりにくいですが、これがA方式とB方式で異なる(緑と赤が反対になる)国に行く場合、きちんと頭を整理しておかないと混乱しますよね。

A方式の国 左舷標識(赤)
右舷標識(緑)
ヨーロッパ、アフリカ、中東、インド、東南アジア、オーストラリア
B方式の国 左舷標識(緑)
右舷標識(赤)
日本、韓国、フィリピン、米国を含む北米、中南米

※ ちなみに、最も近い隣国・韓国は、海上標識は日本と同じB方式を採用していますが、陸上交通では車は右側通行で逆になっています。

船舶の横切りや行き合い関係でどちらが優先されるかについては、小型船舶の交通ルールとしてまとめていますので、必要に応じてご参照ください。

海上の交通ルールと、黒色形象物/音響信号の使い方

『太平洋諸島ガイド』『ワールド・クルージング・ルート』のご紹介

前回、日本の島について、SHIMADAS を中心に紹介しましたが、今回はその海外版です。

といっても、海外の島についての日本語の本はほとんどが有名な観光地のガイドブックで、SHIMADASのような島ガイドはほとんどありませんね。マニアックな世界なので、出しても売れる見込みがない?

そのなかで唯一といえる存在なのが『太平洋諸島ガイド』(牟田清著、古今書院、1991年)。
すでに絶版になっているため、これに加えて、ヨットや帆船で外洋航海をめざす人必携の、その名もずばり『ワールド・クルージング・ルート “World Cruising Routes”』(ジミー・コーネル著、インターナショナル・マリン社)についてもあわせて紹介します。

まず、『太平洋諸島ガイド』

「南の島の昔と今」という副題がついていて、見開きには案内されている太平洋の島々(北半球のハワイから西の島々)が紹介されています。

著者は小笠原諸島に赴任した経験のある元高校教師で、ヨット乗りでもありダイバーでもあり、自分が実際に訪ねた島を中心に、文化や風俗などがこまかく紹介されています。
目次から順に拾っていくと、
小笠原諸島、
グアム島、
カロリン諸島(ラモトレク環礁、サタワル島、ヤップ島、ウルシー環礁、トラック環礁、サタワン環礁、ルクノオール環礁、ポーンペイ島、コスラエ島)
ハワイ諸島(ハワイ島)
ライン諸島(パルミラ環礁、ファニング環礁、クリスマス島)
フェニックス諸島(カントン環礁)
ギルバート諸島(タラワ環礁、ブタリタリ環礁、マキン島)
マーシャル諸島(マジェロ環礁、ジャルート環礁)
となっています。

環礁が多いですが、環礁というのは、名前のとおり、輪状になった珊瑚礁で、内側(礁湖)に入ると、浅いものの非常に穏やかな水面になっていることが多く、「南の島で錨泊」というイメージにぴったりの地形です。

とはいえ、目立つ目標物が少ないため、礁湖への出入りには最善の注意を払わないと座礁ということにもなりかねませんが、、、

こうした南の島をめぐる旅がエッセイ風の読み物としてまとめてあります。

一方、ジミー・コーネルの『ワールド・クルージング・ルート』は、実際の航海を想定し、海域別に周辺地域の特徴やルート、使用すべき海図やパイロットチャート、実際に航海で設定すべきウェイポイントなど、豊富で圧倒的な量のデータが一冊にまとめられています。500ページ超の分厚くて重い本です。


大きさの比較

英語ですが、文学的に凝った表現ではなく、必要な事項を図や表を使い、簡潔な言葉で示してあるので、高校程度の英語力でも読めるレベルでしょう。

ここで紹介している本は1995年の第3版ですが、2022年にも新版が出ている定番のロングセラーです。

図の使い方でいうと、たとえば、こんな感じ。

この図は、季節ごと(3ヵ月単位)に、その時期の風の傾向を示しています(このページは4月~6月)。
赤い矢印はその時期に優勢な風向を示し、赤く塗られたエリアは特定の傾向がない(気象学的には variables = 変向風、つまりそのときどきで風向が変化する)ことを、グレーのエリアは、いわゆる赤道付近の無風帯を示しています。

これを見れば、春から初夏にかけて日本から北米大陸へ向かうには、ハワイ(図の中央、N.E. TRADEという赤い文字の少し右上)よりずっと北の、西風が優勢なエリアを航海し、逆にアメリカから日本に向かうには、まず大陸に沿って南下し、後方からの貿易風(北東風)を受ける形で進んだほうが楽なことが、一目瞭然でわかります。

ヨットは風が頼りなので、風向は重要な意味を持ちます。

それは強力なエンジンを持つ本船や航空機でも同じですね。

たとえば、日本付近の上空では強い偏西風が吹いています。

飛行機で東京・羽田から西の福岡へ向かう場合は向かい風になるので約2時間かかりますが、逆に福岡から東京へ向かう場合は1時間半程度ですみます(2023年2月現在のJALとANAの例)。距離は同じなのに所要時間が30分ほど違ってくるわけです。

ヨットで世界一周する場合も、西まわりと東まわりでは難易度や所要日数に大きな差がでます。

風をさえぎる陸がなく、吠える40度、荒れ狂う50度といわれる海の難所の南米大陸最南端のホーン岬やアフリカ大陸南端の喜望峰の周辺では、風と同じ方向に進むのと、風に逆らって進むのでは、天と地ほどの違いがある、らしい――実際には体験していないので、あくまで伝聞によるものですが……

このワールド・クルージング・ルートでは、大西洋(北大西洋、赤道付近、南大西洋)や太平洋(北太平洋、極東、赤道付近、南太平洋)、インド洋、紅海、地中海といった海域別に、まず風と海流について説明し、それから具体的なルートと使用すべき海図、航路図誌、ウェイポイントなどが示されています。

極東を見てみましょう。

著者のジミー・コーネルは英国のヨット乗りなので、香港を中心にコースが描かれていますね。
香港から日本へは長崎と大阪の2コースが採用されています。
(赤い手書きの線と×は、長崎と鹿児島の誤記を筆者が訂正したもの)

次に、こちらは日本(大阪)から北米大陸へ向かうコースの図。

一番北寄りのPN71はアラスカへ向かうものですが、下向きに弓なりになっているのは地図の図法の違いによるもので、航空機や船舶で用いられる大圏航法の図法では上向きの弧になります。
大圏航路/大圏コースは、たとえば、こんな感じ。赤い線が最短距離の大圏コース、下の緑はジェットストリーム。


ChaosNil, Public domain, via Wikimedia Commons

日本からカリフォルニアに向かうPN73のルートでは、下のような表と説明が記載されています(PN = 太平洋、北半球)。

上から順に
最適な時期: 7月~8月
熱帯性低気圧(台風のような嵐が発生する時期): 5月~12月
海図番号: BAは英国、USは米国の海図番号
パイロットチャート: 船舶用の海況・気象の詳細な情報を記載した冊子。
クルージングのガイドブック: Charlies’s Charts of the US Pacicfic Coast
ウェイポイント: 出発点、中間点、ランドフォールの目印になる場所、目的地の緯度経度、距離

ジミー・コーネルには『ワールド・クルージング・サーベイ』(舵社)という実際の体験談を含めたクルージング情報についての著書もあり、こちらは日本語で読むことができましたが、すでに絶版になっているようです。

SHIMADAS(シマダス)と島をめぐる旅の本10冊のご紹介

海の冒険といえばヨットや帆船の航海ですが、そのヨットや帆船でどこへ行くかといえば、目的地は島(米国大陸だって超巨大な島には違いない!)――海には島がよく似合う。

無人島という言葉の響きには、どこか惹かれるものがあります。

今回は、そうした日本の島のガイドブックの決定版ともいうべき

『日本の島ガイド SHIMADAS』のご紹介です。

日本で島といえば佐渡島や伊豆大島、小笠原諸島などが思い浮かびますが、東京の高層ビル街や大阪の繁華街などにいると「島」という感じはまったくしません。が、地理の世界では、本州や北海道をはじめとする日本の国土自体が島という位置づけなんですね。

余談ですが、島と大陸の違いは、単に大きさだけなんでしょうか?
一般には、オーストラリアが一番小さな大陸で、グリーンランドが一番大きな島ということになっています。ですが、両者を区別する基準は明確には示されていません。

大陸だって、とんでもなく巨大な島といえないこともありません。

大陸といえば、ふつうは、ユーラシア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極の六つを指します。しかし、完全に他と切り離されている巨大な陸地はオーストラリアと南極だけで、南北アメリカ大陸は陸続きですし、ユーラシア大陸とアフリカ大陸もそうですよね。

島の基準は、あいまいといえばあいまいで、つい先日(2023年2月2日)も、内閣府は、これまで島だとしてきた日本の領海または排他的経済水域内の島のうち、4つの島について、満潮時に水面下になってしまうため島ではなく「低潮高地」だと修正しました。

波の浸食で削られて低くなったり、海底火山の噴火で海上に新しく突き出したりと、長いスパンで眺めれば変化しているので、島の数自体、算数のテストみたいに正解があるわけではなかったりするんですね。

ちなみに、海上保安庁は、周囲が0.1km以上あるものを岩礁ではなく島とし、橋のような細いもので本土とつながっていても島と認めています。

国土交通省の『日本の島嶼の構成』によれば、日本にあって人が住んでいる島の数は416、無人島は6,432となっています。

有人か無人かは、5年に1度の国勢調査で人が住んでいると判断されるか、自治体の住民基本台帳に人の登録がなされていれば有人島、それ以外が無人島とされるのだそうです。

漁期など一定の時期だけ人が住んでいたり、神社がまつられていて関係者が交代で住み込み、1年365日誰かが滞在している場合もあるので、なかなか判断もむずかしそうです。

そうした多種多様でつかみどころのない日本の島を「網羅」しているのが、ここで紹介する

『日本の島ガイド SHIMADAS』

(編集発行 財団法人日本離島センター、2019年10月)です。

まあ、とにかく分厚い本です(手元の1998年版で約1151ページ、2019年の新版は1743ページ。

びっしり島の情報が掲載されています。住民基本台帳で住民の居住が確認された島をはじめ、重要な無人島などをふくめて、総計で850の島々が掲載されています。

アホウドリの営巣地として知られている鳥島や、ヨットの航海記などでもおなじみの伊豆諸島の南にあるベヨネーズ列岩や孀婦(そうふ)岩などもちゃんと掲載されています。

島好きにはたまらない本です。

※ 新版は数年前に出たばかりですが、すでに絶版になっています。希少性もあってコレクターズアイテム化しているようで、最近は古本市場でも高額になっていたりします。図書館で閲覧するという手もありますね。

※ 財団法人 日本離島センターのウェブサイト
青字をクリックすると、同センターのサイトに移動します。

日本離島センターからは、季刊の『しま』という広報誌が発行されています。

SHIMADASの巻末には、島の参考書として文献リストが掲載されていますが、こちらに、その後に出たものを含めて、比較的最近の島旅の本10冊を紹介しておきましょう(発行年の新しいもの順)。

  • 『GO! ISLAND GUIDE ―島旅―【全国版】』
    朝日新聞社編 2022年7月
  • 『いつか旅してみたい美しい日本の島100』
    パイインターナショナル編 2022年2月
  • 『美しい日本へ 里山里海の旅 』
    K&Bパブリッシャーズ編集部 編 2021年12月
  • 『美しい日本へ 島の旅』
    K&Bパブリッシャーズ編集部 編 2021年10月
  • 『離島ひとり旅』
    大畠 順子著 辰巳出版 2018年7月
  • 『絶対に行きたい! 日本の島 』
    齋藤潤著 大和書房 2014年9月
  • 『日本の島旅』
    加藤 庸二著 PHP研究所 2014年4月
  • 『日本百名島の旅』
    加藤 庸二著 実業之日本社 2013年6月
  • 『原色 日本島図鑑 改訂第2版』
    加藤庸二著 新星出版社 2013年5月
  • 『離島めぐり15万キロ―島の博士423島を行く』
    本木修司著 古今書院 1991年2月

航海の安全を確保するツールとしてのAISと便利な使い方

AISとは、船舶の自動識別装置(Automatic Identification System)のことです。

これを搭載している船は、地図上に自動的に表示されるので、自艇のいる海域にどんな船がどれくらいいるのか、どういう位置関係にあるのか、すぐにわかります。

これは船の安全な航行にも役立つと同時に、気になる豪華客船が今どこにいるのか、とか、世界一周中のヨットの現在位置を知る、ということにも使えます。

船舶の位置を示した地図を見るだけなら、特別な機材を使わなくても、パソコンやスマホのアプリで簡単に表示可能です。どんなものか、実際に見た方が早いでしょう。

ここで示している例は Marine Traffic というサイト で、日本付近を航行する船舶を示しています(2022年12月)。

東京湾~相模湾付近はこうなっています。

東京湾の出入口付近にズームインすると、こんな感じ。

気になる船があったら、その船の矢印をクリックしましょう。たとえば、中央やや上の赤い矢印をクリックしてみます。
次の図のように、船名、速度、進行方向などがポップアップで表示されます。

また、その船の詳細も(登録されていれば写真を含めて)知ることができます。

もちろん、船名から位置を検索することもできます。
日本を代表する豪華客船・日本丸が現在どこにいるのか、調べてみると、こんな風に港に停泊中でした。

上記はすべてパソコンで表示させたAISの船舶データです。

エリアは日本やアジアに限りません。欧米やアフリカなど、世界中の海を表示できます。船も世界中の船舶が対象です。

スマホのアプリでも、エリアを選んで、自由に拡大縮小ができます。

※AISで検索すれば アプリも何種類か出てきます。

では、もう少し具体的に見ていきましょう。

客船かタンカーか、プレジャーボートかなど、どういう船かは色分けされています。
動いている船は、矢印で示され、動いていない船は●で示されます。

AISについては、旅客船や一定の大きさを超える船には搭載義務があります。

日本では、海上人命安全(SOLAS)条約に基づき、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」という長い名前の法律で、すべての旅客船と総トン数500トン以上の船舶(国際航海に従事する船舶は300トン以上)にAISの搭載が義務づけられています。

プレジャーボートに搭載義務はありませんが、その利便性から、日本一周など、ロングクルージングをしているヨットなどでも、AISを搭載した艇が増えているようです。

利便性というのは、たとえば、海の上は沿岸でもスマホが通じないことがよくありますが、スマホが圏外でも、自宅にいる家族には船が今どのあたりにいるのか、どの方角に向かっているか一目瞭然なので、安否確認ツールにもなっています。

海上保安庁のAISについて説明したサイト

国際VHF無線機の運用手順と関連情報

船舶での非常時の連絡に有効な国際VHFについて、
利用可能なチャンネルと具体的な手順を A4 用紙 2 枚に整理した「国際VHFの運用手順」(pdfファイル)をダウンロードできるようにしました。もちろん無料です(欧米ではこうしたカードが普通に販売されています)。
印刷してラミネート加工し、無線機の近くに置いておけば、忘れても安心?

国際VHFの運用手順 (pdfファイル)

国際VHFでは、操作(運用)する者の資格として
海上特殊無線技士の免許

設置する無線機(船舶局)に対して
特定船舶局の免許

の2つが必要になります。

プレジャーボート用の無線機としては、
●携帯可能な出力5W以下のハンディタイプ
●25W 以下の固定型

があります。

無線機の出力によって、必要な運用資格が変わります。

●5W 以下: 第3級海上特殊無線技士以上
●25W以下: 第2級海上特殊無線技士以上

※ 自艇で無線局を開局するには、海上特殊無線技士免許を取得した上で、
電波法に基づいて「特定船舶局」の開局申請をする必要があります。

3級海上特殊無線技士免許については、マリーナ等で行われる講習を受けるだけで免許が与えられたりするため、ハードルはそれほど高くありません。国家試験を受けて、手数料のみで安くすませることも可能です。

船舶局の開局申請については、技術基準適合証明を受けた、いわゆる「技適マーク」付きの無線機を購入して申請すれば許可されます。

申請内容については、無線機に添付された資料の説明に従って所定の用紙に記入するだけです。提出は、オンラインでも可能です。

関連する情報のサイトは、次のとおりです。

総務省の『国際VHF利用ガイド』(pdfファイル)

国際VHFに関する一般的な説明(日本マリン無線協会のサイト)

国際VHFを使用するための免許について(日本無線協会のサイト)
ここで1~級海上特殊無線技士の詳細情報が入手できます。

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前回掲載したの国際VHFの具体的な運用手順についてはこちら

安全備品としての国際VHF無線機の使い方と具体的な手順(日本語と英語)

 

安全備品としての国際VHF無線機の使い方と具体的な手順(日本語と英語)

小型船舶で緊急時の法定備品として指定されている信号紅炎(非常事態を知らせる発煙装置)(1個)が携帯やスマホで代用できることは、プレジャーボートに乗っている人はよくご存じでしょう。

スマホはGPSで現在地もわかるし、海図を表示させてナビゲーションに利用することもできる便利なツールです。

問題は、相手の番号がわからないと通話できないことと、海の上では圏外のことが多いということ。

たとえば、目の前に他の船がいても番号を知らないと連絡できないし、スマホの基地局は建物や住宅の多いエリアから重点的に設置されているので、海の上では陸の近くでも意外なところで圏外になることがあります。

そういう場合に役立つのが、国際VHFと呼ばれる無線装置です。

これは国内外で広く利用されている船舶共通通信システムです。

海外では、海沿いにあるレストランに船から食事の予約をして乗りつける、といったカジュアルな使い方もされています。日本では、海岸局/船舶局ともに申請・許可が必要で、操作する者にも運用免許が必要になるため、ちょっとハードルが高くなっています。

管轄の総務省はしきりに旗をふっていますが、プレジャーボートではなかなか普及しませんね。

とはいえ、国際VHFは、プレジャーボートだけでなく、大型の船舶や海上保安庁、各国コーストガードも常時ワッチしているため、特に非常時には威力を発揮します。

知床の遊覧船事故はまだ記憶に新しいですが、船と会社との連絡に(携帯が通じないエリアなので)アマチュア無線を使用していた(しかも会社の装置は故障で使えなかった)ことも露見しました。そもそも、アマチュア無線を業務の連絡用に使うことはできません。

無線機があっても事故そのものを防ぐことはできませんが、いち早く救助を求める連絡手段を確保しておくことが、特に海や山では「命の確保」につながります。

というわけで、国際VHFの無線について、知っているようで知らない、具体的な運用の手順(ワッチ/聴守すべきチャンネル、相手への呼びかけとチャンネル移動、非常時の発信のやりかた)について、整理しておきましょう。

 

ワッチ(聴守)すべきチャンネル

ワッチとは船では見張り(当番)のことです。
無線では、電源を入れ、特定のチャンネルで何らかの応答がなされたとき、それが聞こえるようにしておくことです。

チャンネル16:海上航行する船舶で呼び出しや応答をする専用チャンネル。

これは必須(既定)。救助要請もこのチャンネルで呼びかけます。
海上保安庁(以下、「海保」)を含め、本船はほぼすべてがこのチャンネルを聞いている(はず……本船では設置が義務化されています)。

複数のチャンネルを同時に並行して聴守できるマルチワッチ機能付の無線機では、これに加えて

チャンネル77: 旧マリンVHFの呼び出し専用チャンネル

(プレジャーボート用に総務省推奨)
プレジャーボート同志で交信をするときは、このチャンネルで呼び出し、別の空いているチャンネルに移動して交信を続けます(チャンネル16でも可能ですが、エリアによっては順番待ちになることもあるので)。

※ かつて日本ではVHF無線は国際VHF(主に本船用)とマリンVHF(プレジャーボート用)の二本立てでしたが、法改正で、現在は国際VHFに統一されています。
国際VHFといっても英語では Marine VHF になるため、国内専用のマリンVHFとの混同もあり、非常にまぎらわしかったですね。

チャンネル9: 海保の基地局との交信

特定の相手(船)に呼びかける手順

まず、

  • チャンネル16(または77)で相手(船)を呼び出し、
  • 応答があったら、
  • 別の空いているチャンネル(通話用チャンネル)に切り替えて話をします。

プレジャーボートの通話用チャンネル: 69、72、73(総務省で推奨)
航行している船舶同士の通話用チャンネル: 6、8、10
航行の安全のための通信用チャンネル: 13(海上保安庁を含む)

※ 移動先のチャンネルが空いているか(そのとき他の船が使っていないか)を確かめて、つまり、そのチャンネルで応答がなされているかしばらく聞いてみて、呼び出し専用チャンネル(16/77)に戻って、マイクのボタンを押し、呼び出しの発信をします。

では、具体的な交信の例です。

日本では海外の船も数多く航行しているので、英語の例もつけ加えてあります。
(自艇をドンブラコ号、相手の船をコロンブス号、通話チャンネルを69と仮定)
チャンネルを16または77にしてから、呼びかけます。

自艇: コロンブス号、コロンブス号、コロンブス号。こちらはドンブラコ号。どうぞ。
英語: Columbus, Columbus, Columbus. This is Donburako. Over.

相手の船名を3回、自分の船名を1回言ってから、「どうぞ」(終わりの合図)で、応答を待ちます。
逆に自艇がコロンブス号で、上のように呼び出されたら、同じ形式で返事をします。

相手の船: ドンブラコ号、ドンブラコ号、ドンブラコ号。こちらはコロンブス号。どうぞ。
英語:Donburako, Donburako, Donburako. This is Columbus. Over.

自艇: ではチャンネル69に移ります。どうぞ。
英語: Please switch and listen to Channel 69. Over.

相手の船: チャンネル69に移ります。以上。
英語: Switching to Channel 69. Out.

この「移ります」まで耳で確認してから、無線機のチャンネルを69に切り替え、
最初の呼び出しと同じ手順で相手の船を呼び出して、必要な会話を続けます。

必要な会話とは、たとえば逆方向から来て行き合い関係になった船同士で、互いに相手の船を認識しているのか確かめたり、自艇の回避行動を告げたり、事故を未然に防止するための連絡です。

「以上」 (Out) は、呼び出し専用チャンネルを終了するという意味です。

呼び出し専用の16チャンネルを使おうとして、他船等がすでに呼び出しを行っていた場合、その呼び出しの終了を確認して(「以上」(Out)を聞いて)から、自艇での呼び出しを開始します。

相手が船舶ではなく陸上の海岸局の場合も手順は同じですが、通話チャンネルが異なります。

海保の基地局: チャンネル9
海保やポートラジオ等: チャンネル11、12、14
マリーナ等の海岸局: 71、74、86

※ ポートラジオは港湾業務用の通信を伝達するための陸上の海岸局で、全国に33カ所あります。
プレジャーボートに直接関係ありませんが、気象情報や船の航行状況、入出港時間など、さまざまなやりとりがなされています。

非常時に救助を求める場合

事故による船の浸水/沈没の危険があり、人命にかかわる状況で救助を求める通信を行うには、VHF無線機をチャンネル16にセットし、次のように発信します。

メーデー、メーデー、メーデー。こちらはドンブラコ号、ドンブラコ号、ドンブラコ号。
Mayday, Mayday, Mayday. This is Donbrako, Donbrako, Donburako.

次に、自艇の位置、非常事態の内容(浸水/負傷/火災)、必要な支援(排水ポンプ/救助/曳航)、乗員数、艇の種類/大きさ/外観(色)など、わかる範囲の情報を簡潔に伝え、「以上」で切って、応答を待ちます。

しばらく待ち、応答があれば、通話に切り替えます。
応答がなけば、少し間をおいて、何らかの応答があるまで、上記を繰り返します。

[通話内容の例]
磁針方位185度に石廊崎灯台、距離3海里
Irozaki Light bears 185 degrees magnetic, distance 3 miles.

(GPSで緯度経度がわかる場合は、それも伝えましょう)
現在地は北緯34度33分39秒、東経138度51分20秒
My position is 34 degrees, 33 minutes, 39 seconds North, 138 degrees, 51 minutes, 20 seconds East.

※ 非常時にはデータなどわからないことも多いでしょう。そういうときは目に見える範囲で目立つもの(山や灯台、建物、煙突など)がどっちの方向に、どれくらいの距離に見えるかを伝えるだけでも救助到着までの時間短縮につながります。

水面下の物体と衝突した。
Struck submerged object.
排水ポンプ/治療/けん引が必要。
Need pumps / medical assistance / tow.
乗員は5人
Five persons on board.
大人3人、子供2人。
Three adults, two children.
1名、腕の骨折。
One person, fracture of arm.
2時間は浮いていると思われる。
Estimate can remain afloat two hours.
全長32フィートのキャビンつきクルーザー、船体は白、デッキハウスは青。
Thirty two foot cabin cruiser, white hull, blue deck house.
以上。
Over.

といったことを伝えます。

また、国際VHF無線機には、非常用ボタン(赤色で Distressなどと書いてある)がついていることもあります。
このボタンを押すと、救助要請が自動的に発信され、海保や周囲にいる他の船舶の無線機でアラームが鳴って知らせるようになっています。
船が沈没する危険があるなど、命の危険があるときは、ちゅうちょなく押しましょう。

※ ボタンにふれただけで誤作動しないように、3秒ほど長押しすると発信されるようになっています。
誤って押してしまった場合は、遭難信号の発信を停止させ(手順は無線機によって異なります)、さらに呼び出しを行ったチャンネルで、次のように取り消しておきましょう。

各局、各局、各局。こちらはドンブラコ号。12時40分の遭難通報を取り消します。
英語: All stations, All stations, All stations. This is Donburako. Cancel my distress alert of 12 40 JST.

※ JSTは日本標準時 (Japan Standard Time),
UTC: 協定世界時(= グリニッジ標準時)

何らかの救助が必要だが、船が沈むとか人命にかかわる危険がそれほど差し迫っていない場合には、メーデーの代わりにパン、パン Pan-Pan を使います(それ以外の手順は同じです)。

パン・パン、パン・パン、パン・パン。こちらはドンブラコ号。
英語: Pan-Pan, Pan-Pan, Pan-Pan. This is Donbrako.

状況、必要とする支援内容、乗員数、艇の説明などを説明して応答を待ちます。

 

小型船舶の灯火の使い方と見分け方

海の上では、陸上と交通のルールが違っているのは当然ですが、目には見えないものの航路という名の道はあります。

海に出るときに知っておくべき最低限のルールの後半。今回は灯火です。

夜間航海するときに灯火は必須ですが、帆走中のヨットが夜にマストの全周灯をつけていたり(オーバーナイトのレースでは実際に多い)、間違って覚えている人も多いようです。

衝突しそうになったときに、どちらが避けるべきか判断する基準にも大きく影響しますから、条件別に整理しておきましょう。きちんと整理しておけば、それほど複雑なシステムではありません。

灯火の種類

舷灯: 船の右舷(緑)か左舷(赤)を示す灯火。
両色灯: 左右の舷灯を1個にまとめた灯火器(小型船で使われる)。
三色灯: 左右の舷灯と船尾灯を1つにまとめ、光の色を120度ごとに分けた灯火器(ヨットで使われる)

※両色灯やマスト灯と呼ばれるものは(後の120度の白灯がない/見えないようになっている)

船尾灯: 後方からのみ(120度)見えるようになっている灯火(白)。
全周灯: 360度の方向から見える灯火(白)
(ヨットのマストトップなどに設置)
マスト灯: 全周灯(白)に似ているが、船尾方向からは見えない。
(マストの前面に設置)

※マスト灯と船尾灯をあわせて、ちょうど360度になる。

灯火が一般的に意味すること

1 夜間に自艇の進行方向に別な船の赤灯が見えたら、自分の船が避航船になる。
2 1の例で、緑と赤の灯火が並び、しかも白灯が見えたら、
正面から向き合っている!
3 緑と赤の舷灯が見えず白灯だけが見えたら、
前方を同じ方向に進んでいる船がいる。
※ 例外: 帆船やろかい舟(後述)

では、小型船舶の灯火の設置について、具体的に見ていきましょう。

まず、動力船か、それ以外か、に大別されます。

動力船(モーターボートなど)の灯火

長さ20m未満
両色灯+マスト灯+船尾灯
前から見ると 両色灯とマスト灯が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火+マスト灯(白)
後ろから見ると 船尾灯(白)

長さ12m未満
両色灯+全周灯(白)
前から見ると 両色灯と全周灯(白)が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火+全周灯(白)
後ろから見ると 全周灯(白)

長さ7m未満
全周灯(白)
前から見ると 全周灯(白)が見える。
横から見ると、全周灯(白)が見える。
後ろから見ると 全周灯(白)が見える。

帆船やろかい舟(ヨットや手こぎの釣り船など)の灯火

長さ20m未満の帆船
帆走時: マストトップに三色灯(または両色灯+船尾灯)
機走/機帆走時: 動力船とみなされるので、白色全周灯をつける。
(※ 船尾灯は消す=大型船と間違われないように)。
前から見ると 両色灯が見える。
横から見ると、緑か赤の灯火
後ろから見ると 船尾灯(白)

長さ7m未満の帆船とろかい舟
白色の携帯電灯(携帯可能な小型の全周灯)
前、横、後ろのどこから見ても、白灯1個が見える。

大型船などの灯火

夜間航行中、接近している船舶があり、しかも白灯が2つ見えた場合、50m以上の大型船か、漁労中の船舶の可能性があります。

また、3つ見えた場合、操縦性能制限船か、船が連なった引き船の可能性があります。

大型船のブリッジから小さなプレジャーボートは見えにくく、回避行動もとりにくい(急に方向転換できない)ので、いずれの場合も危険を察知した小型船の方で自衛のために早め早めに回避行動をとるのがおすすめ。

自艇に権利がある有利な状況でも、ぶつかったらプレジャーボートの方が負けますからね。

こういう場合、「逃げるが勝ち」「君子危うきに近寄らず」で、楽しく遊びましょう。