スモールボート・セイリング 〜 スモールボート・セイリング(その1)

スモールボート・セイリング(1)
Small-Boart Sailing (1)

ジャック・ロンドン
明瀬 和弘 訳

船乗りは生まれるもので、作られるものではない。ここでいう「船乗り」とは、外航船の船首楼に陣どっている、そこそこ仕事はこなせるが使えない連中のことではなく、海の上で木や鉄、ロープや帆布からなる構造物を自分の意思に従わせる者たちのことだ。本船の船長や航海士はともかく、小型帆船の船乗りこそ本物の船乗りである。彼は風を利用して船をある場所から次の場所へと運航させる術を知っているし、また知っていなければならない。潮流や激流、渦、砂洲や航路標識、信号や灯火に関する知識は必須だし、観天望気にも熟達していなければならない。船は一隻ごとに構造や艤装も違うし、船が好きであると同時にその特質を把握していなければならない。数限りない状況で船をコントロールする方法を熟知し、行き足を止めないようにし、また風下に流されずに船の向きを変えさせることができなければならない。

現代の外国航路の船員はこうしたことを知る必要がないし、実際、知りもしない。命じられるまま、ロープを引いたり運んだりし、甲板を磨き、塗料を洗い流し、鉄錆を削り落としたりするだけだ。何も知らないし、注意も払わない。こういう船員を小舟に乗せても何の役にも立たない。水夫を暴れ馬に乗せた方がまだましだろう。

こうした奇妙な連中の一人と子供の頃に出会って驚いたことを私は決して忘れない。その人はイギリスの便宜置籍船の船員だった。私は当時十二歳で、デッキのある十四フィートのセンターボード式の小舟に乗っていた。帆走は独学で覚えた。この船員が不思議な土地や人々、暴力ざた、ぞっとするような嵐について話をするとき、私は自分が神の足元に座っているような気がしたものだ。そうしたある日、彼をセイリングに誘った。自分がど素人でへまをするのではないかとびくびくしながら、私はセールを揚げ、船を進めた。その人は一目で私より巧みに船や海の状態を見抜くだろうし、批判的な目でじっと自分のすることを眺めているのだと感じていた。しばらくして彼にティラーとシートをまかせた。私は中央のスウォートに座り、感心するあまり口を開けて本物の帆走がどんなものかを学ぶことになるのだろうと思っていた。私の口はそのまま開いたままだった。というのは、本物の船乗りが小さなヨットに乗ったらどうなるかを知ったからだ。彼は状況に合わせてシートを調節することもできなかったし、一度ならずジャイブに失敗し、突風で何度か船を転覆させそうになった。センターボードがどういう働きをするのか知らなかったし、追い風を受けて帆走するときには片側の舷に寄るのではなく船の中央に座らなければならないということも知らなかった。締めくくりは波止場に戻ってきたときだ。彼はヨットのスピードを落とさずそのまま激突させたので、船首は壊れ、マストステップは吹き飛んだ。それでも、彼は大海原を実際に航海している本物の船員なのだった。

私の得た教訓はこうだ――大きな船の船首楼で生涯を過ごすような船員でも、真のセイリングがどういうものか知らないことがある。私は十二のときから、海に魅了されてきた。十五の時には、牡蠣を密漁するスループの船主船長だった。十六の時には大型で平底のスクーナーに乗って、ギリシャ人たちと一緒にサクラメント川でサケ漁に従事したり、漁業監視船に水夫として乗り込んだりしていた。私が活動していた海域はサンフランシスコ湾とそこに注ぐ川に限られていたが、自分は腕のいい船乗りでもあった。その時点で、私はまだ外洋を航海したことはなかった。

● 用語解説
便宜置籍船: 税金対策などのため外国で船籍を登録した船舶
センターボード: 横流れ防止のため海中に突き出す板
スウォート: ボートを漕ぐために腰かけるところ
ティラー: 舵柄
シート: 帆の開き具合を調節するためのロープ
ジャイブ: 風下に向かっているときに風を受ける帆を出す舷を変えること
強風のときほどタイミングが難しい
スループ: 一本マストの前と後ろに帆を張るタイプのヨット。ヨットと聞いて思いつく一般的なイメージのヨット
スクーナー: 時代や国によって異なる場合があるが、一般に二、三本マストの縦帆を備えたヨットで、後側のマストが高い。

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