現代語訳『海のロマンス』126:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第126回)

リオ市民の虚栄
一、両手に八個の指輪

もともとリオ人は最も宝石を愛玩(あいがん)する国民として世界に有名である。

ちょっとした中流家庭の主婦でさえ必ず両手に八個の指輪をはめている。スカートには単に桃色の木綿の布を身につけ、垢(あか)じみた足には怪(あや)しげな木靴(トマンコ)をはいている洗濯女にいたるまで、一日に二度の食事をやめてまで指にまがいものの宝石の指輪を並べたがるほどである。

この虚栄的趣味は、ただ婦人間のみにとどまらず男子にまで及び、一国の宰相とか南米の富豪とかいう輩(てあい)までが、その夫人が夜会に招かれるような時は、高い金をかけたせっかくの自慢の指輪が隠れるのを悲しんで、冬でも決して手袋をはめさせないとのことである。

というわけで、リオ市で最もにぎやかで最も人出の多い例のオビドールの両側に並んでいる店は、珈琲店(カフェー)でなければことごとく宝石商で、間口(まぐち)二間(にけん)足らずの小さい店舗(みせ)の窓飾り(ウィンドショウ)に、一個七千ミル(四千五百円)、八千ミル(五千二百円)などのダイヤ入りの指輪が無造作(むぞうさ)に陳列されているのは珍しくもない。 続きを読む