(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第36回)
都市の飾り人形
管仲(かんちゅう)*1は三千年の昔においてすでに「衣食足知礼節」(生活の心配がなくなってはじめて礼儀をわきまえるようになる)と喝破(かっぱ)した。それが一方では潁川(えいせん)の水に耳を洗ったり首陽(しゅよう)の山にワラビを掘ったりした*2純朴の時代であるから、ことに驚く。管仲(かんちゅう)の識見も高遠であるといえようが、そのときからもはや、ジョンブル気質やアンクルサム観念の萌芽(ほうが)を見ることができるともいえよう*3。
*1: 管仲(紀元前720年~645年)は、中国春秋時代(日本の弥生時代前期)の政治家。著書とされる『管子』に記載された言葉から。
*2: 「潁川(えいせん)の水に耳を洗う」とは、栄達の誘いを拒絶し、イヤなことを聞いたと耳を川の水で洗ったという中国の故事から。
「首陽の山にワラビ」も同じく、王をいさめた武将が隠棲(いんせい)した山で餓死したとされる故事から。
*3: ジョンブルはイギリスという国またはイギリス人を擬人化したもので、アンクルサムはアメリカ合衆国またはアメリカ人を擬人化した表現。
群居と不公平はつきものである。共同生活と競争は切っても切れない腐れ縁である。