米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第153回)
三、シャンペイ
練習船は遠浅の海を、抜き足差し足、こわごわと探りつつ港に入っていって、上陸場から二海里も手前に投錨する。
入ってみると、案外にやせた、うるおいのない荒れた土地である。心に描いた南洋とはだいぶ違う。これでは、得意のゴムも育つまい。
しばらくすると、変な端艇(ボート)がたくさん、船の周囲(まわり)に集(たか)ってきた。中をくりぬいて左右に一対(いっつい)の防波材(ローリングチョック)をつけている。音に聞いた独木船(カヌー)だ。船の中には魚類、果物、ニワトリなどが積んである。やがて、半裸体の船頭が(さすがに商人だけあって下半身は婦人の腰巻きのような布片(きれ)で覆(おお)っている)、杓子(しゃくし)のような櫂(かい)で巧みにカヌーを進退させながら、口々にシャンペイ、シャンペイと呼び、シャーツルピーと叫び、バジュー、アイアンなどと吠(ほ)える。
いやはや、とんだ港に入ったものだ。これこそ掛け値も飾りもない、正真正銘の外国語で、ちんぷんかんぷんである。 続きを読む