米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第151回)
海洋の日没美 ――故山のT君へ――
T君――海を恋し、俗世の束縛(そくばく)にしばられない船乗りの生活をうらやみ、広く青い海洋(うみ)で人知れず生まれては消え、散っては砕ける白い雲の運命に悲しき思いをはせるT君よ。
八月二十三日にフリーマントルを辞した練習船は、折からの南東風を受けて、日夜走り続け、シケと無風との境で、今や航海三昧(ざんまい)に入りました。
神秘の多い南インド洋の海を飾るこの頃の日没美は、平素、自然美に対してさしたる反発も興奮も起こらない免疫性の船乗りにとっても、賛嘆のあまり、その色彩は、強く美意識を刺激する十分な力があります。 続きを読む