ジョン・マクレガー著
現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第85回)
水辺にほど近いエレファント・ホテルのシャトー・ティエリでは快適な一夜をすごした。あくる日はカヌーを干し草置き場から引き出して川に浮かべた。流れは少しずつ速度を増した。ブドウ園の周囲は林になっていて、あちこちにイカダも浮かんでいた。そのイカダというのが、大きな樽をしばって連結させたものもあれば、板や伐採した丸太を組み合わせたものだったりした。巨木をそのまま利用しているのもあった。イカダの上にはそれぞれ小屋が作られている。いわば船長室だ。イカダ師たちは、この寄せ集めの木の構造物を岸から曳いたり押したり、流れに乗るよう操ったりして、二週間ほどかけてセーヌ川へと向かう。大変な作業だが、要は、組み合わせた木材の連結具合を調節したり形が崩れたりしないようにするだけだ。とはいえ、結構な仕事量ではある。このあたりでは、この手の人件費は非常に安い。