波の頂点でボートが跳ねると、風が無帽の男たちの髪をかき乱した。ボートがまた船尾から着水すると、水しぶきが乱れた髪をなでつけていった。盛り上がった波は丘のようで、その頂点にきたとき、一瞬だが、風が吹き乱れている広大な光かがやく大海原が見えた。このエメラルドや白や黄色の光に満ちた荒々しく自由奔放な海は、おそらく壮大で、おそらく輝かしくもあっただろう。
「いいぞ、陸に向かって風が吹いてる」とコックが言った。「そうじゃなかったら、どうなるんだろうな? 考えたくもねえけど」
「そうだな」と記者が言った。
あれこれ作業で忙しい機関手は、無言でうなづき同意した。
すると、船首にいた船長がユーモアと侮蔑、悲しみの入り混じった複雑な笑顔を見せ、「助かりそうだとでも思っているのかね、君たちは?」と言った。
すぐに三人は黙った。気まずく咳ばらいしたり口ごもったりした。こんな状況で何かしら希望的観測を述べるのは子供じみていて馬鹿げていると、彼らも感じたのだった。とはいえ、心の中では疑いもなく、なんとかなるんじゃないかと感じててもいるのだった。若者というのはそんなときは強情になるものだ。彼らは若くもあったし、あからさまに示された絶望には反抗したいという思いもあった。だから、船長に反論せず黙りこんだのだ。
「まあ、そうだな」と、船長はとりなすように言った。「なんとか陸には着けるだろうよ」
だが、彼の声の調子には、条件つきだぞと思わせるものがあったので、機関手がそれを受けて「そうです! この風が続いてくれさえすれば!」と続けた。
海水をくみ出していたコックは「そうそう! 波でひっくり返りさえしなけりゃな!」と言った。
中国製のネルの生地でできているようなカモメが、ボートの周囲を飛んでいた。洗濯ロープにかけられ強風で揺れるカーペットのように、茶色い海藻の塊が波とともに揺れ動いては巻き波になってくずれ落ちたりしていたが、カモメたちはその近くの海面に降りて浮いたりもしていた。海鳥の群れが平気な様子で浮かんでいるので、ボートに乗った連中には、それをうらやましがるものもいた。というのは、荒れ狂う海といえども、カモメにとっては、数千マイルも内陸の草原ライチョウの群れに対するようなものにすぎなかったからだ。カモメたちは何度も近くまで来て、黒いビーズ玉のような目でボートの連中を見つめた。鳥はまばたきをしないので、監視されているようで不気味だし、何かをたくらんでいるようにも見えたので、男たちは鳥に向かってどなったり、あっちに行けと叫んだりした。一羽のカモメが接近してきて、船長の頭の上に降りようとした。そのカモメは円を描かず、ボートに並行して飛びながら、ニワトリのように短く空中を斜めに移動した。物欲しそうな黒い目は船長の頭に向けられていた。「くそったれの畜生が」と、機関手が鳥に向かって叫んだ。「てめえの体はジャックナイフでできてるみたいじゃねえか」 コックと記者もその鳥をあしざまにののしった。当然のことながら船長も太く重いもやい綱の端でその鳥を追い払いたいと思っていたのだが、あえてそうしなかった。というのも、激しい動作をすると、自分たちを乗せたボートが転覆してしまいかねないからだった。船長は手を広げ、あっちに行けと穏やかに追い払った。カモメに狙われたことで弱気になっていた船長は、ともかく頭を守ることができてほっとしたように息を継いだ。その鳥を何か嫌な不吉なもののように感じていた他の男たちもほっと一息ついた。