国によって異なる海上標識(浮標)を正確に理解しておきましょう

日本やイギリスでは車は左側通行ですが、アメリカは逆ですよね。

海外でレンタカーを借りる際に最も注意すべき点です。右折、左折、合流すべてが国内とは反対になるので、気が抜けません。事故にならないまでも、「うっかり」「つい」で肝を冷やした方がいらっしゃるかもしれません。

それと同じように、港の近くまで来たら船舶が頼りにする海上標識も、国によって真逆になることがあります。

各国でちがっていたら危険なので統一しようという動きは百年以上も前から行われていて、かなり整理されてはいます(IALA海上浮標式)が、21世紀になった現在でも、A方式とB方式が併存しています。

具体的に見ていきましょう。
一番身近で重要なのは、右舷と左舷の航海灯の色(これは世界共通)ですね。

日本では船舶の右舷にある航海灯が緑色で、左舷の航海灯が赤色です。
少し年配の方は、小型船舶操縦士の試験で、「赤玉ポートワイン」(左舷は赤)といった言葉で覚えた人がいらっしゃるかもしれません。

※ スターボード (Starboard) = 右舷、ポート(Port) = 左舷(ヨットレースの権利関係でも使います)
※ 小型船舶では左右に1個ずつというより、船首部に両色灯1個(電球1個で、外枠が緑と赤に色分けされている)が多いでしょうか。

海上標識の右舷標識(赤色)は「これよりを通れ」(ここが航路の右端)、
左舷標識(緑色)は「これよりを通れ」(ここが航路の左端)の意味です。

※ 右か左かは、どちらを向いているかで異なってきますね。
水源(日本では瀬戸内海など一部をのぞいて、沖縄・与那国島)に向かって右か左かです。
まあ、一般に、出入りする目的地の港を水源とみなしておけば間違いはありません。
※ 直感的にわかる覚え方として、磁石のS極とN極を連想する方法もあります。
港に入るときは、港の灯台の赤と船の灯台側の航海灯が緑になるようにし(磁石のSとNで引きつけ合うように)、港を出るときは同じ側を同じ色(赤と赤、緑と緑)にして反発しあう(SとS、NとN)ようにして出て行く。

この緑と赤の関係がなぜ重要かというと、船同士が「横切り」や「行き合う」関係になったとき、どちらが優先されるか/どちらが避けるべきか(特に、灯火の色で判断するしかない夜間)や、航路内、港への出入りでの船の進路に影響するからです。

基本として、国内では、下の図のように、

・航路内では(前を向いた状態で)右側通行
・港に近づいたら(前を向いた状態で)右舷に赤、左舷に緑(白)の浮標(灯台)を見るように進む
・港の入口付近では「出る船が優先」で、右舷に見えるものに寄せ、左舷に見えるもの(別の船等)から離れる(右へは小まわり、左へは大まわり)

国内(B方式)では、この原則を守っていれば大きなトラブルにはなりにくいですが、これがA方式とB方式で異なる(緑と赤が反対になる)国に行く場合、きちんと頭を整理しておかないと混乱しますよね。

A方式の国 左舷標識(赤)
右舷標識(緑)
ヨーロッパ、アフリカ、中東、インド、東南アジア、オーストラリア
B方式の国 左舷標識(緑)
右舷標識(赤)
日本、韓国、フィリピン、米国を含む北米、中南米

※ ちなみに、最も近い隣国・韓国は、海上標識は日本と同じB方式を採用していますが、陸上交通では車は右側通行で逆になっています。

船舶の横切りや行き合い関係でどちらが優先されるかについては、小型船舶の交通ルールとしてまとめていますので、必要に応じてご参照ください。

海上の交通ルールと、黒色形象物/音響信号の使い方

『太平洋諸島ガイド』『ワールド・クルージング・ルート』のご紹介

前回、日本の島について、SHIMADAS を中心に紹介しましたが、今回はその海外版です。

といっても、海外の島についての日本語の本はほとんどが有名な観光地のガイドブックで、SHIMADASのような島ガイドはほとんどありませんね。マニアックな世界なので、出しても売れる見込みがない?

そのなかで唯一といえる存在なのが『太平洋諸島ガイド』(牟田清著、古今書院、1991年)。
すでに絶版になっているため、これに加えて、ヨットや帆船で外洋航海をめざす人必携の、その名もずばり『ワールド・クルージング・ルート “World Cruising Routes”』(ジミー・コーネル著、インターナショナル・マリン社)についてもあわせて紹介します。

まず、『太平洋諸島ガイド』

「南の島の昔と今」という副題がついていて、見開きには案内されている太平洋の島々(北半球のハワイから西の島々)が紹介されています。

著者は小笠原諸島に赴任した経験のある元高校教師で、ヨット乗りでもありダイバーでもあり、自分が実際に訪ねた島を中心に、文化や風俗などがこまかく紹介されています。
目次から順に拾っていくと、
小笠原諸島、
グアム島、
カロリン諸島(ラモトレク環礁、サタワル島、ヤップ島、ウルシー環礁、トラック環礁、サタワン環礁、ルクノオール環礁、ポーンペイ島、コスラエ島)
ハワイ諸島(ハワイ島)
ライン諸島(パルミラ環礁、ファニング環礁、クリスマス島)
フェニックス諸島(カントン環礁)
ギルバート諸島(タラワ環礁、ブタリタリ環礁、マキン島)
マーシャル諸島(マジェロ環礁、ジャルート環礁)
となっています。

環礁が多いですが、環礁というのは、名前のとおり、輪状になった珊瑚礁で、内側(礁湖)に入ると、浅いものの非常に穏やかな水面になっていることが多く、「南の島で錨泊」というイメージにぴったりの地形です。

とはいえ、目立つ目標物が少ないため、礁湖への出入りには最善の注意を払わないと座礁ということにもなりかねませんが、、、

こうした南の島をめぐる旅がエッセイ風の読み物としてまとめてあります。

一方、ジミー・コーネルの『ワールド・クルージング・ルート』は、実際の航海を想定し、海域別に周辺地域の特徴やルート、使用すべき海図やパイロットチャート、実際に航海で設定すべきウェイポイントなど、豊富で圧倒的な量のデータが一冊にまとめられています。500ページ超の分厚くて重い本です。


大きさの比較

英語ですが、文学的に凝った表現ではなく、必要な事項を図や表を使い、簡潔な言葉で示してあるので、高校程度の英語力でも読めるレベルでしょう。

ここで紹介している本は1995年の第3版ですが、2022年にも新版が出ている定番のロングセラーです。

図の使い方でいうと、たとえば、こんな感じ。

この図は、季節ごと(3ヵ月単位)に、その時期の風の傾向を示しています(このページは4月~6月)。
赤い矢印はその時期に優勢な風向を示し、赤く塗られたエリアは特定の傾向がない(気象学的には variables = 変向風、つまりそのときどきで風向が変化する)ことを、グレーのエリアは、いわゆる赤道付近の無風帯を示しています。

これを見れば、春から初夏にかけて日本から北米大陸へ向かうには、ハワイ(図の中央、N.E. TRADEという赤い文字の少し右上)よりずっと北の、西風が優勢なエリアを航海し、逆にアメリカから日本に向かうには、まず大陸に沿って南下し、後方からの貿易風(北東風)を受ける形で進んだほうが楽なことが、一目瞭然でわかります。

ヨットは風が頼りなので、風向は重要な意味を持ちます。

それは強力なエンジンを持つ本船や航空機でも同じですね。

たとえば、日本付近の上空では強い偏西風が吹いています。

飛行機で東京・羽田から西の福岡へ向かう場合は向かい風になるので約2時間かかりますが、逆に福岡から東京へ向かう場合は1時間半程度ですみます(2023年2月現在のJALとANAの例)。距離は同じなのに所要時間が30分ほど違ってくるわけです。

ヨットで世界一周する場合も、西まわりと東まわりでは難易度や所要日数に大きな差がでます。

風をさえぎる陸がなく、吠える40度、荒れ狂う50度といわれる海の難所の南米大陸最南端のホーン岬やアフリカ大陸南端の喜望峰の周辺では、風と同じ方向に進むのと、風に逆らって進むのでは、天と地ほどの違いがある、らしい――実際には体験していないので、あくまで伝聞によるものですが……

このワールド・クルージング・ルートでは、大西洋(北大西洋、赤道付近、南大西洋)や太平洋(北太平洋、極東、赤道付近、南太平洋)、インド洋、紅海、地中海といった海域別に、まず風と海流について説明し、それから具体的なルートと使用すべき海図、航路図誌、ウェイポイントなどが示されています。

極東を見てみましょう。

著者のジミー・コーネルは英国のヨット乗りなので、香港を中心にコースが描かれていますね。
香港から日本へは長崎と大阪の2コースが採用されています。
(赤い手書きの線と×は、長崎と鹿児島の誤記を筆者が訂正したもの)

次に、こちらは日本(大阪)から北米大陸へ向かうコースの図。

一番北寄りのPN71はアラスカへ向かうものですが、下向きに弓なりになっているのは地図の図法の違いによるもので、航空機や船舶で用いられる大圏航法の図法では上向きの弧になります。
大圏航路/大圏コースは、たとえば、こんな感じ。赤い線が最短距離の大圏コース、下の緑はジェットストリーム。


ChaosNil, Public domain, via Wikimedia Commons

日本からカリフォルニアに向かうPN73のルートでは、下のような表と説明が記載されています(PN = 太平洋、北半球)。

上から順に
最適な時期: 7月~8月
熱帯性低気圧(台風のような嵐が発生する時期): 5月~12月
海図番号: BAは英国、USは米国の海図番号
パイロットチャート: 船舶用の海況・気象の詳細な情報を記載した冊子。
クルージングのガイドブック: Charlies’s Charts of the US Pacicfic Coast
ウェイポイント: 出発点、中間点、ランドフォールの目印になる場所、目的地の緯度経度、距離

ジミー・コーネルには『ワールド・クルージング・サーベイ』(舵社)という実際の体験談を含めたクルージング情報についての著書もあり、こちらは日本語で読むことができましたが、すでに絶版になっているようです。

SHIMADAS(シマダス)と島をめぐる旅の本10冊のご紹介

海の冒険といえばヨットや帆船の航海ですが、そのヨットや帆船でどこへ行くかといえば、目的地は島(米国大陸だって超巨大な島には違いない!)――海には島がよく似合う。

無人島という言葉の響きには、どこか惹かれるものがあります。

今回は、そうした日本の島のガイドブックの決定版ともいうべき

『日本の島ガイド SHIMADAS』のご紹介です。

日本で島といえば佐渡島や伊豆大島、小笠原諸島などが思い浮かびますが、東京の高層ビル街や大阪の繁華街などにいると「島」という感じはまったくしません。が、地理の世界では、本州や北海道をはじめとする日本の国土自体が島という位置づけなんですね。

余談ですが、島と大陸の違いは、単に大きさだけなんでしょうか?
一般には、オーストラリアが一番小さな大陸で、グリーンランドが一番大きな島ということになっています。ですが、両者を区別する基準は明確には示されていません。

大陸だって、とんでもなく巨大な島といえないこともありません。

大陸といえば、ふつうは、ユーラシア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極の六つを指します。しかし、完全に他と切り離されている巨大な陸地はオーストラリアと南極だけで、南北アメリカ大陸は陸続きですし、ユーラシア大陸とアフリカ大陸もそうですよね。

島の基準は、あいまいといえばあいまいで、つい先日(2023年2月2日)も、内閣府は、これまで島だとしてきた日本の領海または排他的経済水域内の島のうち、4つの島について、満潮時に水面下になってしまうため島ではなく「低潮高地」だと修正しました。

波の浸食で削られて低くなったり、海底火山の噴火で海上に新しく突き出したりと、長いスパンで眺めれば変化しているので、島の数自体、算数のテストみたいに正解があるわけではなかったりするんですね。

ちなみに、海上保安庁は、周囲が0.1km以上あるものを岩礁ではなく島とし、橋のような細いもので本土とつながっていても島と認めています。

国土交通省の『日本の島嶼の構成』によれば、日本にあって人が住んでいる島の数は416、無人島は6,432となっています。

有人か無人かは、5年に1度の国勢調査で人が住んでいると判断されるか、自治体の住民基本台帳に人の登録がなされていれば有人島、それ以外が無人島とされるのだそうです。

漁期など一定の時期だけ人が住んでいたり、神社がまつられていて関係者が交代で住み込み、1年365日誰かが滞在している場合もあるので、なかなか判断もむずかしそうです。

そうした多種多様でつかみどころのない日本の島を「網羅」しているのが、ここで紹介する

『日本の島ガイド SHIMADAS』

(編集発行 財団法人日本離島センター、2019年10月)です。

まあ、とにかく分厚い本です(手元の1998年版で約1151ページ、2019年の新版は1743ページ。

びっしり島の情報が掲載されています。住民基本台帳で住民の居住が確認された島をはじめ、重要な無人島などをふくめて、総計で850の島々が掲載されています。

アホウドリの営巣地として知られている鳥島や、ヨットの航海記などでもおなじみの伊豆諸島の南にあるベヨネーズ列岩や孀婦(そうふ)岩などもちゃんと掲載されています。

島好きにはたまらない本です。

※ 新版は数年前に出たばかりですが、すでに絶版になっています。希少性もあってコレクターズアイテム化しているようで、最近は古本市場でも高額になっていたりします。図書館で閲覧するという手もありますね。

※ 財団法人 日本離島センターのウェブサイト
青字をクリックすると、同センターのサイトに移動します。

日本離島センターからは、季刊の『しま』という広報誌が発行されています。

SHIMADASの巻末には、島の参考書として文献リストが掲載されていますが、こちらに、その後に出たものを含めて、比較的最近の島旅の本10冊を紹介しておきましょう(発行年の新しいもの順)。

  • 『GO! ISLAND GUIDE ―島旅―【全国版】』
    朝日新聞社編 2022年7月
  • 『いつか旅してみたい美しい日本の島100』
    パイインターナショナル編 2022年2月
  • 『美しい日本へ 里山里海の旅 』
    K&Bパブリッシャーズ編集部 編 2021年12月
  • 『美しい日本へ 島の旅』
    K&Bパブリッシャーズ編集部 編 2021年10月
  • 『離島ひとり旅』
    大畠 順子著 辰巳出版 2018年7月
  • 『絶対に行きたい! 日本の島 』
    齋藤潤著 大和書房 2014年9月
  • 『日本の島旅』
    加藤 庸二著 PHP研究所 2014年4月
  • 『日本百名島の旅』
    加藤 庸二著 実業之日本社 2013年6月
  • 『原色 日本島図鑑 改訂第2版』
    加藤庸二著 新星出版社 2013年5月
  • 『離島めぐり15万キロ―島の博士423島を行く』
    本木修司著 古今書院 1991年2月