現代語訳『海のロマンス』139:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第139回)。

ブラジル滞在編は今回で終了し、次回(1月1日)から南大西洋、インド洋、再び太平洋へ、という後半の航海が開始されます。

八、移民の逃亡と地方気質

前に述べた第一の種類の仕事に従事する労働者が、毎朝コーヒー農園の代表者の点検を受けることは前記のごとくであるが、これらの人々は、午後の五時になると、再び整列して朝と同じように点検を受ける。このように朝夕二度の点検を受けるのは、一年の契約期日が終了しないうちに、比較的に収入の少ないこの仕事を見限って、一日に五円、六円になる大工仕事や都市の労働や鉄道工夫などに鞍替(くらが)えをする不届き者が多いためである。 続きを読む

現代語訳『海のロマンス』138:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第138回)

六、渡航の不便と奨励金

日本人のうち、最初に通商、あるいは植民の意思をもってブラジル入りしたのが誰であるかは、もちろん判明していないが、今日のブラジルへの移民の基礎を建設する上で鮮やかな功労を有する人々は、当時の公使にして、ついにその英姿をブラジル国の青山(せいざん)に埋めた杉村虎一(すぎむらとらいち)氏、アルゼンチンから帰国してブラジル国の珈琲(コーヒー)の直取引を画策し、南米通と呼ばれた水野龍(みずのりゅう)氏、山縣商会の長としてリオ市第一の日本商店を管理し、唯一の肝(きも)いり役となっている山縣勇三郎(やまがたゆうさぶろう)氏、その他に盬川伊四郎(しおかわいしろう)氏、上塚周平(うえづかしゅうへい)氏などであろう。

次に、ブラジルへの移民の数と年代と会社名の統計を記載する。

一九〇九年 竹村植民会社、八百二十七人、笠戸丸、大不成功。
一九一〇年 前回の失敗と小村外務大臣の満韓集中政策のため移民中止。
一九一一年 竹村、千二百人、旅順丸(りょじゅんまる)。
移民にも船員にも逃亡した者がいたが、まずは成功。
一九一二年 「竹村」と東洋移民会社、五百人。
竹村組は鹿児島人と琉球人を募集しなかったが、
東洋組は募集したので、そのうちの七割が逃げた。
厳島丸(いつくしままる)
一九一二年 「竹村」と「東洋」三千人、第二開運丸、若狭丸。 続きを読む

現代語訳『海のロマンス』137:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活
(連載の第137回)

ブラジルの移民事情が詳細に語られていますが、内容は、これまであまり報じられていない初耳のことも多いですね。
ブラジル滞在編は12月までです。
来年(1月1日)から、
リオを出て地球の反対側からオーストラリア経由で帰国する航海が再開されます。

五、移民優待法

移民は──自由移民か契約移民かに関係なく──すべて、いったんリオ市、あるいはサントス港の移民収容所に引きとられ、各耕地あるいは各州での需要や注文に応じて、沿岸航路船または鉄道の便によって移送される。

これらの汽車賃または汽船賃はむろん無料で、移民収容所内にある初めの一週間は、居住や衣食に必要なものはみな州庁から支給される。耕地に到着した後は、政府支給の仮小屋に居住し、農具は一切貸与され、すべての種子(たね)は支給され、数年間は無料にて医師の診断を受けることができ、薬代も一年間は無料など、各種の恩典がある。 続きを読む

現代語訳『海のロマンス』136:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第136回)

四、寄り合い所帯

ブラジル国における欧州諸国の移民は、イタリアの百三十万人を筆頭に、スペイン、ポルトガルの各八十万人、ドイツの六十万人等が最も優勢である。

これらの移民のうちで、その時々で莫大な黄金(かね)をつかんで帰国する者が十万人を超え、一九〇八年に、この種の帰国者はリオ港から四万六千人、サントス港から四万人あった。

これらは皆、プロパガンダ(カトリック教)の手を経て入国して来た者である。ブラジル政府はこれらの欧州移民に対して、おのおのその国民性に応じ、速やかに本国と似た風土気候を物や土地を選定するなど、すこぶる丁重に応じている。 続きを読む