米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第131回)
しばらく南米ブラジルの話が続いていますね。
大成丸の航海中、日本からブラジルに移民するための広大な農地の無償提供を日本側の受け皿となる団体が受けるなど、当時、海外ニュースとして、ブラジルは最も注目される話題の一つでした。
というのも、北米では、日本からの移民急増に対して日本人排斥運動が組織的に行われ、日本政府もアメリカ合衆国やカナダへの移民に対する旅券の発行を自粛するなど、当時は新興国だった日本国内の社会問題解決の一助となる、新たな移民先が求められていたからです。
この航海記は、ほぼ同時進行で新聞に連載されていたこともあり、航海とは直接関係がないものの社会的な関心の高い時事的な問題について踏み込んで取り上げています。
というわけで、ブラジル編は、もう少し続きます。
下院議員の日給
これらの非立憲的な弊害は、これを要するに、当然に議会を叱咤(しった)し、政府を監視すべき政党に権威がなく、世論は閥族を制肘(せいちゅう)するにはあまりに無気力であって、というより、むしろ、無気力な国民がいたずらに桃源郷の安定したつかのまの生活を楽しんで、政権を横暴にして無責任極まる少数党にゆだねたという、積年の弊害に基づいている。ある意味で、かえって、身から出たさびのそしりを免れないというべきである。
これというのも、原因(もと)をただせば、新興国の国民に特有の、憲法という観念に理解が浅いためである。日本でも、小児(こども)にでもわかるような常識問題をその分野を専門とする博士連中が、頭から湯気を立てて論争し、一国をしてその渦中にことごとく埋没してしまうようでは、一等国の未来も心細い限りである。 続きを読む