天測航法 4─天測航法に必要なもの

天測に必要な道具はいろいろあるが、なければ話にならないという必須のものと、あれば便利かな(もっと正確になるかな)というものの二種類がある。まずリストを示し、その後で説明を加える。
必須のもの
1.正確な時計(クロノメーター)
2.六分儀(セクスタント)
3.天測暦(航海暦)
4.海図(航海海域に応じて)
5.方位磁石(コンパス)
6.天測計算表(米村表など)

 

次に、あれば便利なもの

7.関数電卓(またはパソコンの表計算ソフト)
8.位置決定用図
9.星図盤

順に説明していこう。

1.クロノメーター
航海用の精密な時計を指し、古くは時辰儀(じしんぎ)とも呼ばれた。

大航海時代以前から、いかに正確な時計を開発するかは航海の歴史だけでなく、科学史でも重要なテーマであり、これだけでも分厚い本が何冊も書かれている。
とはいえ、いまどきの水晶発振(クォーツ)の腕時計や電波時計(国内沿岸)は、大航海時代の最先端の時計と同等以上の精度があるので、クロノメーターの代用として十分な機能がある。
というより、揺れる小型船での観測誤差はかなり大きく、それより時計のずれの方がずっと小さいので、普通の時計でも実質的に問題はない。
時間は、グリニッジ標準時と船上での生活に必要な現地時間用に二つ用意するか、デュアル表示ができればなおよい。

2.六分儀
太陽などの天体について水平線からの角度(高さ)を測定する道具。
正確な高さを知るには、きちんと較正された正常に作動するものがほしい。日本では玉屋(現タマヤ計測システム)の製品が有名で、TAMAYAといえば六分儀の代名詞のようになっている。

sextant-jacklondon
太平洋周航中、六分儀を使って太陽の高度を測定するジャック・ロンドン(スナーク号にて)

とはいえ、かなり高価なので、使い方を覚えるのが目的なら、プラスチック製の廉価版(Davisのマーク15や25など)という選択枝もありだ。コロンブスの時代は六分儀などまだなかったので、新大陸発見につながる四次にわたる航海でも、六分儀の前身の四分儀やアストロラーベという器具を使っていたとされている。それも試験的なレベルにとどまり、現存する航海日誌を読むかぎりでは、ほとんど推測航法(DR)を用いていたようだ。これについては第四章で説明する。

というわけで、プラスチックと馬鹿にすることなかれ。

経験を積んだベテランの航海士が定評のある六分儀を使い、帆走しながら上下左右に揺れる小さなヨットで測定した場合と、あまり経験のないアマチュアが揺れをほとんど感じない大型の豪華客船でプラスチック製の六分儀を使って測定した場合を比べても、そう大きな差は出ないのではないか――というより、足下が安定している分だけ「アマチュア+プラスチック製の六分儀」の方が正確な数値が得られるのでは――と思わせるくらいの精度はある(何度も言うが、実際の航海ではGPSの併用は必須)。

これがないときはどうするか?

どうにもならない。

とはいえ、サバイバルの状況では、いろんな道具を使っておおよその高さを知ることはできる。

全長七メートル弱のヨットで大西洋横断中に遭難したスティーブン・キャラハンは、救命イカダで漂流中、鉛筆三本を組み合わせて三角形の簡易測定器を自作して太陽の高さを測った。時間は腕時計でわかる。
だいたいの高さとだいたいの時間がわかれば、だいたいの場所の検討くらいはつく。
それを航法と呼べるかは別の問題だが。

その意味では、自分の体を使うというのが究極の測定器になる。

腕を伸ばし、指を横向きにして水平線に平行にしてみよう。
指一本の幅が二度
握りこぶしを作ると、親指から小指までの幅が十度
親指と人差し指をめいっぱい開くと十五度、になる。

個人差もあるが、そう極端には違わないはずだ。

3.天測暦
地球は完全な球体ではなく、地軸は太陽に対して傾いているし、自転も厳密には1日24時間ではない。回転速度も一定ではなく早くなったり遅くなったりしている。
そのため、観測で得られた値は必要に応じて補正(改正)してから計算に用いなければならないが、天測暦には、それに必要な1日ごとのデータが記載されている。
それぞれの天体の運行について、1日ごとの位置など、膨大な観測と計算にもとづくデータをまとめたものが天測暦で、開くと、両ページに数字の詰まった表が並んでいて、とっつきにくい印象を受ける。
こんな感じ。

太陽、惑星(金星、火星、木星、土星)、月、それに恒星(北極星やシリウスなど数十個)の位置が、1日1ページの割で掲載されている。データの読み方さえ理解しておけば、あとは必要に応じて機械的に数値を拾うだけだ。

有料ではあるが、日本では毎年夏頃に、翌年分が刊行され、海図と同じく、日本水路協会のサイトで購入できる。
http://www.jha.or.jp/shop/index.php?main_page=product_info_js2&products_id=3674

当然のことながら英語版(Nautical Almanac)も、複数の国で刊行されている(アマゾンなどで購入できる)。

英語版については、オンラインで複数のサイトから入手することも可能だ(こちらは無料)。
http://www.nauticalalmanac.it/en/navigation-astronomy/the-nautical-almanac.html

4.海図
これは説明するまでもないだろう。
山歩きする人にとっての国土地理院の地形図のようなもので、航海する海域全体が見わたせるものと、島で錨泊地を探すための大縮尺の詳しい海図の両方があれば一番よい。
加えて、海図上で距離を測るためのディバイダ(製図用コンパスの両方の足が針になったもの)と定規、鉛筆、消しゴム。

定規は日本では二枚の三角定規を使うのが一般的(井上式という専用の定規がある)。一定の角度の直線を平行移動させるだけだから、製図用など大きめの三角定規でもよい。欧米では平行定規を使うことが多い。

5.方位磁石
天測はしなくても、船には絶対に必要なもの。注意すべきなのは、磁石の指す北(磁北)と北極点(真方位の北)には少しずれがあること。これを偏差という。
海図には、真方位と磁針方位を同心円で描いた図が必ず印刷してある。これをコンパスローズという。この偏差は年ごとに変化するが、その割合も海図に書いてあるので、海図の作成年と現在に差がある場合は、さらに年数分追加/削減する必要がある。

上のコンパスローズでは内側の磁針方位の北を指す線に「7°10’W  20** (1’5W)」と書いてあるが、磁針の北を指す方向が20**年の段階で真方位から7°10’西側にずれているいう意味である。カッコ内の数値はその年から1年ごとに1’5度ずつ西にずれていくことを示している。海図の刊行された年から2年後であれば7度10’に3’(1’5×2)を加える。

また、磁石はエンジンなどの金属が近くにあると影響を受ける。これを自差という。これは、船の向いている方角によっても違ってくるので、東西南北とその中間の八方位について、それぞれ自差がどれくらいあるのか、あらかじめ確かめて表を作っておくことも大切。

海の上で、実際に海図上で方向が確定できる見通し線を見つけて、船をその場でぐるっと360°回転させながら記録していくわけだが、このあたりのことは天測以前の航海術の話になるので割愛。
ここでは方位磁石(コンパス)の指す方角では、偏差と自差の分を考慮して修正しなければならない、ということだけを覚えておこう。

6. 天測計算表

天測に必要な計算では、関数電卓を使うか、表計算などのパソコンソフトで計算式を作っておいて、観測した値だけ入力すれば自動的に結果が出るようになっていることが多い。
天測計算表は、そうした何種類もの計算結果をあらかじめ一覧表にしたものだ。
天測計算表と位置決定用図は、上記の海図を販売しているところ(日本水路協会の海図ネットショップ)で購入できる。
天測暦と異なり、計算表は一冊あれば毎年購入する必要はない。

子午線高度緯度法では紙と鉛筆を使った初歩的な計算だけで結果が出るし、正午の太陽の観測による位置測定では、7以下については別になくてもかまわない。

こう言い切ってしまうと、反論もあるだろうが、実は一口に天測といっても、時代によって大きく異なっているのだ。

海員学校や航海士の養成課程で天測の訓練を受けた人にとっては「天測=位置の線航法」というイメージが強いが、そもそも「天体の方位と角度が観測者の位置を示している」ことが発見されたのは十九世紀半ばであり、それを元にした位置の線航法が確立され広く使用されるようになったのは、十九世紀後半から二十世紀にかけてのことにすぎない。

つまり、大航海時代のコロンブスやマゼランも、日本に鉄砲やキリスト教を伝えた南蛮船も、さらに時代が下って太平洋をくまなく周航してハワイを発見したジェームズ・クックも、この「位置の線」という概念は知らなかったし、当然のことながらそうした観測もしていなければ、そうした航法を用いてもいなかった。

位置の線航法は、ある意味で天測航法の完成形であり、外洋航路の航海士には必須の知識と技術なので、最後に取り上げる(第七章)が、目的が単に太平洋や大西洋を横断するとか、日本からハワイに行くという程度のことであれば、そうした知識がなくても可能であるのは間違いない。

というか、位置の線航法では、現実問題として、三角関数の計算や天測計算表など必要な知識や道具が一気に増えてしまうため、急にハードルが高くなってしまう。

7.星図盤
天測暦にも簡単な星を示す図は載っている(恒星略図と惑星位置図)。
とはいえ、現実に小さな船で、(ヨットはベテランでも天測は)アマチュアレベルの人に測定可能なのは北極星の観測くらいだろうから、あれば夜のワッチで星を眺めて退屈しのぎができるくらいか。
というのも、昼間は星が見えないし、夜は水平線が見えないわけで、両方が見えるのは、夜明けと夕方のごく短い時間帯のみ。しかも、揺れている船上で小さな星をレンズの中に捉えるのは至難の技だ。

ここで、もっと本格的に勉強したいという人のために、定評のある参考資料を紹介しておこう。
手元にある本を並べてみた。

referencebooks
左から、定番の『天文航法』長谷川健二著 海文堂
中央は英語の本で、
“CELESTIAL NAVIGATION FOR YACHTSMEN” Mary Blewitt著 International Marine/McGraw-Hill Book
右が『誰にもわかる漁船天測法』佐藤新一著 海文堂

手元には天文航法は昭和の版と平成の版の2冊、漁船天測法は最初の版と改訂新版の2冊があり、新しい版ほど、日本語として読みやすくなっている(「漁船…」はとうの昔に絶版)。
英語のものはタイトル通り「ヨット乗りのための天測航法」そのまま。必要最小限のことだけを説明し、69ページしかない。いちど基礎的な知識を頭に入れてから整理するのにいいが、いきなり読み始めたら、かえってわかりにくいかも。

次回から実践編。

 

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天測航法 3─なぜ太陽が真南にきた時間を知ると自分のいる位置(経度)がわかるのか

 

経度については、海外旅行をするときの日本と現地時間の差(時差)と考え方は同じで、経度が15度で1時間の差になる(360÷24=15)。緯度よりずっとわかりやすい。

とはいえ、赤道付近で経度が1度違うと距離は60海里(1852m×60=111120m)、15度では900海里(1667km)にもなるので、もう少し下の単位が必要になるが、前回述べたように時間と同じで、分や秒を用いる。

1時間=60分         1分=60秒

1度 =60分         1分=60秒

どちらも分と秒でまぎらわしいので、

時間の場合は、時間(h)、分(m)、秒(s)を使う(hour、minute、second)。
2時間5分30秒 => 2h、5m、30s

緯度・経度の場合、度()、分( ′)、秒(″)を使う。
135度15分25秒 => 13515’25″

経度1度の距離は、赤道付近が最大で、北または南に行くほどその距離は狭くなり、北極や南極では1点に収束する(理論上はほんのひとまたぎで、経度0度から経線をすべて横切って地球一周できる)。

緯度の1度はどこであっても距離は変わらない。

経度を知るには、その場所で太陽が真南にきたときの時間を計測し、

それが経度0度のグリニッジ標準時(GMT)より何時間何分進んでいるか(遅れているか)を調べ、

その時間差を度に換算すれば、いまいる場所の経度が算出できる。
現在では、GMTではなく、セシウム原子時計で調整した協定世界時(UTC)が使われる。両者では100年間で18秒ずれるとされるが、六分儀を使った観察では「同じ」とみなしてよい。

実際の観察では、太陽がいつ真南にきたのかを判断するのかが意外にむずかしい。また太陽はきちんと1日24時間で1回転しているわけでもないので、その分の補正も必要になる(「均時差(きんじさ)」という)のだが、その点については、実践編で具体的な手順を説明する。

ここでは、時間と度の換算について、きちんと理解しておこう。

時間と度の関係は、地球が24時間で1回転することを前提としている。
つまり 24h=360 だから
時間と度の換算表

船にはグリニッジ標準時を示す時計(いわゆるクロノメーター。いまどきの時計は昔の貴重で高価なクロノメーターと同等以上の精度がある)が必須になるが、グリニッジ標準時の正午との時間差を求めて、度に換算する。

グリニッジ標準時より早ければ東経、遅ければ西経になる。

具体的な例で考えよう。
太陽が真南にきた時間(南中時刻)をはかったら、グリニッジ標準時の正午(12時)より10時間18分41秒早かったとする。
10h×15=150
18m×15=270’=430’
41s×15=615”=10’15” なので、

経度(E)    =(150+4)(30+10)’15”
=15440’15”

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ここからは、おまけ

電卓かパソコンの表計算ソフトが使えれば、こんな筆算はしなくてすむ。

まず、10h18m41sを時間で表す。

10+18/60+41/60=10.31138889(時間)

これに15をかければ、整数部が度になる。
10.31138889x15=154.6708333

小数点以下に60をかければ、整数部が分になり、その小数点以下に60をかければ秒がでる。Excelのような表計算ソフトだとTEXTなどの関数を使えば、数値を入力するだけで

A°B′ C″の形式で表示させることもできるが、そういう今風の道具を使ってよいのなら、「最初からGPSを使えよ」って話になるわけで、天測にロマンを感じたいのであれば、計算も電卓なんか使わず、鉛筆片手に筆算できる範囲にとどめておいたほうがよい。

 

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天測航法 2ー天測って何?

まず、これだけは押さえておこう(基本の原理)

天側航法/天文航法とは、天空を動いている天体(太陽や月、恒星、惑星)の位置を測定することで地球上での自分の位置を知り、それに基づいて航海することをいう。

地球が完全な球で、自転の軸(地軸)が地球と太陽を結んだ線に対して垂直で、きっちり24時間で一回自転し、太陽のまわりを正確に365日かけて円軌道を描いて公転しているのであれば話は簡単だ。

まず、これを前提にして、太陽の高さと真南に来た時の時間でなぜ自分の位置がわかるのかについて説明する(今回は緯度、次回が経度)。

その後で、実践編として、緯度の計算で必要な補正(天測では改正と表現する)の理由と具体的な手順について説明する。

なぜ数値の補正(改正)が必要なのかというと、地球は、実際には球体(ボール)ではなく、しもぶくれの洋ナシのような、いびつな形をしていて、表面のふくらみにも差があるからだ。

それに、地軸は太陽に対して斜めに傾いているので、季節によって太陽の高さは違ってくるし、1日の長さも24時間ちょうどではなく、公転している軌道も真円ではなく楕円形をしている。さらに天体の見え方も気温や海水温によって密度が異なるので光の屈折率が違ってきて……と、理由は山ほどあるが、誤差の範囲という点から考えれば、補正すべきポイントは限られてくる。

世界一わかりやすい、といいながら、めんどうくさい理屈になりかけたが、実際には決まりきったルーチンの作業を機械的にやっていくだけなので、そうむずかしく考えることもない。

とはいえ、基本の考え方がわかっていれば、仮に間違っても自分で気づいて後で修正ができるので、これから述べることくらいは理解しておこう。

なお、原理とか理論といっても、直角は90度、平行線の同位角は等しいということを知っていれば、そうむずかしくはない。

天測術の本を開くと高校で習うサイン、コサインといった三角関数を使った、むずかしそうな計算式がずらっと並んでいたりするが、ここで紹介する計算では、そういうものは、まったく必要ない。

なぜ太陽の高さを観測すると自分の位置(緯度)がわかるのか

丸いボールの形をした地球は、北極から南極を貫通した線(地軸)を軸にしてコマのように回転している。
これを地軸に垂直な平面で輪切りにすると、この輪切りにした円の一番大きいところが赤道になる。この輪切りにした円の円周を緯線という(図はダブルクリックすると拡大します)。

図1-1
f1-1_latitude

緯度については、赤道を基準の0度とすると、北に90度まで(北緯)、南には90度まで(南緯)。北緯はN、南緯はSで示す。

また、北極点から南極点までを結ぶ地表で最短距離の線(経線)は無数に引ける。任意の場所を通るものを子午線という。
図1-2
f1-2_longitude

いろんな歴史的経緯があって、現在、イギリスの首都ロンドンのケンブリッジ天文台跡を通る経線を経度0度とし、東に180度まで(東経)と西に180度まで(西経)進むと地球の裏側で出会い、そこが日付変更線になる。東経はE、西経はWで示す。

地球上の場所はすべて、将棋盤や碁盤の目のように、この経線と緯線の組み合わせで表すことができる(北緯30度、東経150度のように)。

とはいえ、地球は大きいし、緯度も経度も「度」という単位だけではおおざっぱすぎる。もっと小さい単位が必要になるので、時間と同じく60進法が採用され、度の下の単位が分、分の下の単位が秒になる。

1時間=60分        1分=60秒

時間の場合は、時間(h)、分(m)、秒(s)で表す。
2時間5分30秒 => 2h、5m、30s

緯度・経度の場合、度()、分( ′)、秒(″)で表す。
135度15分25秒 => 13515’25″

図1-3は、昼と夜の長さが同じになる春分の日と秋分の日の正午における、北極点と赤道での緯度と太陽の高度の関係を示している。
注: 太陽までの距離は地球の大きさに比べて、とても遠いので、地球のどこから見ても、太陽の方向は同じ(平行線)とみなしてよい。
図1-3
f1-3_basic

図でわかるように、太陽の水平線からの高度は、赤道では90度(真上)、北極では0度になる(水平線と重なる)。

図1-4は、同じ日の、北半球の任意の地点●における緯度 ℓ と太陽高度 a の関係を示している。
図1-4
f1-4_basic2

緯度 ℓ は「平行線の同位角は等しい」ので ℓ1と同じになるため、緯度 ℓ と太陽高度 a を合わせたものが90度になることがわかる。

つまり、 ℓ(緯度)+a(太陽高度)=90(度)、これから ℓ = 90 -a が導かれる。
この関係は、図1-3の赤道と北極点に当てはめても成り立つ(赤道の緯度は0度、北極点は90度)。
前にも述べたように、地軸は太陽に対して傾いているため、春分の日と秋分の日をのぞけば、太陽は北に動いたり南に動いたりする。太陽が赤道からどれくらい南北に動いているかを示すのが赤緯(せきい)で、d で表す(赤緯は天測暦に掲載されている。赤緯の調べ方は実践編で具体的に説明する)。ここでは、まず基本的な原理を理解しておこう。

図1-5は、太陽が赤道から北に移ったとき(北半球の夏)を示している。
図1-5
f1-5_latitude-d

図1-4との違いは、 ℓ+a が90ではなく、赤緯 dの分だけ重複していることだ。
つまり、ℓ+a-d=90、これを整理すると ℓ=(90-a)+d になる。
春分や秋分の日の計算に赤緯の分だけ足せばよいわけだ。

図1-6は、逆に、観測者はそのまま北半球にいる状態で、太陽が赤道から南に移ったとき(北半球の冬)を示している。

図1-6
f1-6_latitude-s
図でわかるのは、z+a=90 ① ℓ+d=z ②
①と②から ℓ=(90-a)-d となる。

図1-7は、1-5と1-6の中間、つまり、観測者は北半球にいるが太陽の赤偉よりは南(赤道に近い方)にいる場合である。観測者は太陽を北側に見て高度を測ることになる。

f1-7_latitude-ns
このとき赤偉と緯度の差をzとすると、図からd=ℓ+z ①、a+z=90 ②
②をz=90-aと変形して①に代入し、整理すると

ℓ=-(90-a)+dになる。

北半球にいると想定した例を示したが、南半球の場合も同じである(図は上下逆さになるだけ)。

要するに、緯度(ℓ)は(90-a)とdの組み合わせ(ℓ=±(90-a)±d)という形になるのだが、プラスとかマイナスの符号がつくため、海の上で船酔いした頭で考えていると、どっちがどっちだかわからなくなってしまったりするので、次のように単純化して整理しておこう(次に示す青文字のところだけ覚えておけばよい)。

正午に太陽の高度(正中時の視高度という)を測定して緯度を求めるには


1.    太陽を南に向かって測定した場合、(90-a)の値にNという符号をつける
2.    太陽を北に向かって測定した場合、(90-a)の値にSという符号をつける
3.    天測暦で赤偉(d)を調べる
(赤偉には必ず赤道より北か南かを示すNかSの符号がついている)

●    (90-a)とdの符号が同じならば(NとN、SとS)、両方を足してその符号をつける。
●    (90-a)とdの符号が異なる場合(NとS、SとN)、
値の大きいほうから小さい方を引いて、大きい方の符号をつける


これだけ

仮に南に向いて観測した太陽の高度aが65度で、赤緯dがN10度30分だとすると、
(90-a)もdも同じNになるので、

緯度 ℓ     =北緯(N)(90-65)度+10度30分
=北緯(N)25度+10度30分
=北緯(N)35度30分 (N3530’)

 

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天測航法 1─はじめに

はじめに

カーナビはいうまでもなく、道に迷ったらスマホに内蔵されているGPSを使ったナビ・アプリで道案内してもらえばいい時代には、六分儀を使った天文航法による位置測定は、旧世紀の遺物、ほこりまみれの骨董の世界のように思える。とはいえ、大航海時代の探検家や帆船に乗った海賊、ヨットの冒険家が六分儀で太陽を観測して自分の位置を調べたりするのは、ちょっとかっこよかったりする。

実際問題として、二十一世紀の現在、大海原で自分が乗っている船の現在位置を正確に知るには、人工衛星を使って位置を表示するGPS受信機と紙の海図か電子海図があれば十分だし、そうしたものを丸ごと一台に組み込んだGPSプロッターも普及しているので、それがあれば世界一周でも用は足りる──

筆者も実際のヨット遊びでは、GPS内蔵のスマホやタブレットで電子海図に現在位置を重ねて表示させて、カーナビ・アプリのように使っているので、利便性について異論はない。

こういう電子機器は電源がなくなれば無用の長物になってしまうため、「バックアップとして旧来の道具や手法も必要」という人もいる。それはその通りだ。

とはいえ、紙の海図とコンパス(方位磁石)は現在でも必需品だとは思うが、率直に言って、六分儀まではいらない気もする。

今どきのヨットで、こういう小さな電子機器の消費電力も確保できないという状態は、転覆でもしない限り考えにくいので、バックアップが必要ならば、予備の携帯用GPS受信機と電池をタッパーウェアなど水の入らない容器に密封して積んでおけば足りるだろう。

しかし、利便性とか効率だけで測れないのが人間というやつで、そもそもヨットなんてもの自体が効率とはかけはなれたものだし、エアコンやラジオもないビンテージのクラシックカーに大金をつぎこんでいる人や、オートマ全盛で、コンピューター制御の自動運転車が現実に道路を走る時代にも、マニュアルのクラッチ操作にこだわる人がいるのも事実だし、そうした人々をマニアと呼んで、ひとくくりにして片付けたとしても、どこかそっちの方が楽しげだったりするのはなぜだろう──そういう功利的な発想をしている限り見えてこない「もの」があるのではないか?

損か得か、効率がいいか悪いか、利口か馬鹿かの二者択一ができないところに人生の妙味がある──ばかのやることを馬鹿だと思ってバカにしていると、自分自身が物事の本質が見えない馬鹿になる──のかもしれない。

すでに人類は何十年も前にロケットで月に行っているというのに、人はなぜちっぽけな山に登ろうとするのか? なぜ海を見ていると、水平線の向こうに行ってみたくなるのか。散歩の途中で路地を見つけたら、なぜ迷いこんでみたくなるのか――こういう無駄が人生をおもしろくする……のかもしれない。

というわけで、これから六分儀を使った天文航法についての話をしよう。

「天測には海のロマンを感じる」でも、「単なる道楽」でも、「うんちく自慢したい」でも、動機は何でもよいが、ルールや戦術や選手の特徴を知っていた方がサッカーがより楽しめるように、天測の基本を知っていれば、少なくとも帆船やヨットの航海記や冒険物語を読む楽しさは倍増するはずだ。

これだけ知っていれば、とりあえず現代の外洋ヨットでGPSを持たずに天測しながら日本から太平洋を渡ってアメリカに到着することは可能だという程度の、具体的かつ実践的な内容になる、はず……

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