米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第34回)
(前回までのあらすじ)太平洋横断中に明治天皇が崩御され、サンディエゴ到着後には上陸した船長が失踪するという前代未聞の出来事が相次いで起こりましたが、今度は航海士が急死します。
意気揚々たる世界一周航海の前途に、なにやら暗雲がただよってきた気配です。
先帝をしのぶ
「本日午後二時ごろ、いま当地を視察されている竹越代議士が来船されてスピーチをされることになっている……」という一等航海士の説明が、九月六日の朝に与えられた。
母国においてならばいざ知らず、五千里も離れた異国において、しかも国内外の五千万の国民が等しくやるせない思いを抱いて暗く沈んだ心でいるときに、日本の政界の一方の論客として知られた知名の士を迎えるのは、少なからず心強く、またなつかしく思われる。