現代語訳『海のロマンス』42:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第42回)

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邦人のホームシック

カリフォルニアに移住する人間がヤンキーから、同化しない頑迷な人種であるとか、野卑(やひ)にして現地のしきたりに従わない頑固者だとか、とかくの非難を受けるのみならず、実際に彼ら白人の高慢ちきの鼻柱をくだくほどの成功者が実に少ない真の原因はなんであるか。

日本人の多くは最初から、この五千里も離れた異国に永住し、かの古(いにしえ)の有名なるシボラの七都市*1のような世界を、二十世紀の現実世界にああいったバラ色の世界を生み出そうというような大きな抱負そのものを持っていない。彼らの多くが独身の若い身空(みそら)で渡米してくるのを見ても、このあたりの事情はわかる。そうして十に一、二で成功した──成功といわれる者の資産がようやく万の単位で数えられるくらいで、多くは十万にも足らぬ──と評判される者も、故郷に錦を飾ろうとして続々と帰国してしまう。ホームシックの患者は米国人ばかりと言い切れるほど、続々と帰国してしまう。

*1: シボラの七都市 - 大航海時代の底流にあった南米アンデス地方の黄金郷(エル・ドラード)伝説と同じく、長期にわたり何度も真剣な探索の対象となった、黄金にあふれた豊かな七つの「架空の」都市を指す。
七という数は、十二世紀にムーア人(北西アフリカのイスラム教徒)がスペインを征服した際に七人の司教が聖なる遺物とともに町を逃れたことに由来する。

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