米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第63回)
下、ケープホーンについて
こうした十分すぎる強迫観念にとらわれながらも期待していたケープホーンを、はなはだあっけない平凡な時化(しけ)のなかで通りすぎた。これは、一面からいえば、海に完全に慣れた結果であるかもしれないが、他の一面からいえば、単調な、いわゆるドッグライフの中毒である。欲求の刺激を受けない、のらくら生涯の満足である。波乱も起伏もない行事を日一日と送迎する生活にひたりきった結果である。