天測航法12─位置の線航法(2)

位置の線航法(2)

前項で説明したように、
天体(ここでは太陽)が真上に見える場所の緯度経度と船がある位置の緯度経度(推定値)がわかれば、船が円周上に存在する円が描ける。

計算した天体の高度と実際に測定した高度の差で、円をもっと大きくすべきか小さくすべきかがわかる。

天体位置決定用図に作図して位置を出す。

という手順で作業が進められる。

では、具体的にみていこう。

1. 天体の高度を測定し、時間を記録する
観測高度に必要な改正を行って真高度 at を求める。
(改正については、子午線高度緯度法の項を参照)

2. 現在の船の推定位置を出す
前回の船の位置から進行方向と経過した時間を考慮して現在の船の位置(緯度と経度)を推定する。推定位置は多少ずれていても問題ない。

3. 天体が真上にある場所Xの緯度(赤緯d)と経度(赤経R.A.)を求める
赤緯は天測暦から赤経はグリニッジ標準時(GMT、または世界時UT)との差から時角(h)として求める。
(子午線高度緯度法の項と経度の項を参照)。

4. 推定位置(2項)と天体の位置(3項)の緯度経度から、AXの方位(計算方位角Z)と計算高度Acを求める

ac:計算高度、ℓ: 推定緯度、d: 赤緯、h:時角とすると

(1) 高度acの計算式

sin ac = sinℓ・sin d + cos ℓ・cos d・cos h

(2) 方位角の計算式

cos Z = (sin d – sin ℓ・sin ac) / (cos ℓ・cos ac)

こういう数式が出てくると面倒に見えるが、天測専用の電卓や関数電卓があればすぐに結果はでる。エクセルなどのスプレッドシートに計算式を入れておいて数値を入力すれば自動的に計算されるようにしておいてもよい。

とはいえ、天測計算表にはすでにそうした計算を行った結果が記載されているので、それを使えば、単純な手計算でも出せる。

いわゆる米村表で「高度方位角計算表」として計算されている。こんな感じ……使い方も欄外に記載されている。

出典:書誌第601号『天測計算表』 海上保安庁

天測計算表を使った計算高度と方位の求め方

(1) 計算高度

地方時角 h に対してA1、赤緯 d に対してA2、推定緯度 ℓ に対してA3の値を計算表から探し出し、A4を求める。

A1+A2+A3=A4

A4 の値から計算表の A4 で該当する欄から A5 を求める。
ℓ と d が同符号のときは ℓ - d異符号のときは ℓ + d をA6とする。下の計算式でA7を求める。

A5 + A6 = A7

計算表で A7 に該当する値が計算高度 ac になる。

(2) 計算方位角

A1 を求めるとき、その列の右に Z1  の値が記載されている。
A2 の値はそのまま Z2 の値になる。
A7 の値を求めるとき、右横に Z3 の値が記載されている。

Z1 + Z2 - Z3 = Z4

表でZ4に該当する値が方位角Zになる。

5. 作図

(1) 天体位置決定用図で、コンパスローズの中心を船の推定位置として、計算方位角の線を引く。
図の線②

(2) 計算高度 at と真高度 ao の差(修正差 I )を求め(単純な引き算)、修正差 I 分だけ、船の推定位置を方位角の線に沿って外側(真高度が計算高度より小さい場合)または内側(真高度が大きい場合)に移動させ、方位角に垂直な線を引く。
これが位置の線になる(細い赤線①)。船はこの位置の線上のどこかにいる。

修正差Iの距離は、緯度によっても異なるので、位置決定用図の右側に印刷されている漸長緯度差の尺度からディバイダで測る(オレンジ)。

6. 数時間後に同じ手順で観測を行って、さらに位置の線を引く。
この二本の線の交点が船の位置(船位)になる。

注意: 最初の位置の線を時間の経過分だけずらす必要がある(転位)。これは速度と進行方向で距離をだして、その分だけ平行移動させるか、最初の推定位置をその分だけずらして作図し直してもよい。

[ 1 ] [ 2 ] [ 3 ] [ 4 ] [ 5 ] [ 6 ] [ 7 ] [ 8 ] [ 9 ] [ 10 ] [ 11 ] [ 12 ]

天測航法11─位置の線航法 (1)

位置の線については、平面で考えるとわかりやすい。
海上にいて、ある小さな島の山の頂上が磁針方位で60度の方向に見えたとする。
海図のコンパスローズで60度に定規をあてて、その島まで平行移動させ、山頂を通る線(方位線)を引けば、自分の現在地は、その線上のどこかにあるはずだ。

次に別の目標物を調べて、同じようにそれを通る線を引く。二本の方位線の交わる点が自分の位置を示している。これが前回取り上げた、地文航法のクロスベアリング法である。
ichinosen_6-1

この目標物を天体に移したのが天測航法/天文航法の位置の線航法と呼ばれるものである。

ある日ある時間に地球上のある地点から天体(太陽、月、惑星、星)を見上げたとき、その角度が70度だったとする。
地球上でその時間にその天体が高さ70度に見える場所は無数に存在するが、そうした点を結んでいくと、大きな円になる。
ichinosen_6-2

つまり、この円周(赤線)上のどこかにいることになる。

天体を目標物にした場合、この円周が位置の線になるのだが、実際の作図ではずっと狭い範囲を取り扱うので、円周も直線として扱う。

次に別の天体を調べて、その高さに見える場所を点で結べば同じように円が描ける。この二つの円の交点が自分の位置を示している。
ichinosen_6-3

直線と違って、交点は2つできるが、この2つの場所は、たとえば太平洋とユーラシア大陸とか、インド洋と大西洋とか、極端に離れているので、自分のいる場所がどっちかはすぐにわかる。

同時に二つの天体の高度を知るのがむずかしいときは、同じ天体を時間をおいて二度測定しても同じ結果が得られる

星がよく見える夜は水平線が見えにくいし、水平線がよくわかるときは、まだ空に明るさが残っているので星が見えにくく、星は星座として全体でとらえるとわかりやすいが、六分儀のレンズの中では本当にその星かわかりにくかったりと、現実には星の高度を測るのはなかなか厄介なので、一般には太陽を使うことが多い。

太陽の場合、可能であれば、朝、昼、夕方の三回観測する。それぞれ、モーニングサイトヌーンサイトイブニングサイトと呼ぶ。

まず日の出から少し時間が経った頃(たとえば午前八時)に太陽高度を測定し、必要な改正を行って真高度を求める。改正については子午線高度緯度法で述べた方法と同じだ。

その上で、天測計算表から方位角を見つければ、位置の線が一本引ける(具体的な手順は後述)。

さらに、正午か夕方にも測定して同じように位置の線を引く。

最初の線については、時間の差がある分だけ(船の速度×方向で距離を計算して)位置をずらす必要はあるものの、この二本の線の交点が観測者のいる場所になる。

正午の場合は子午線高度緯度法で説明したように、位置の線を使わなくても、それだけで位置を確定できるためバックアップとしても有効だし、両者を比較することで精度の向上にもつながる。

では、もう少し具体的にみていこう。
天体はほぼ規則正しく運行しているので、ある年の○月○日の○時○分に地球上のどの地点の真上にあるかは、あらかじめわかっている(天文暦に記載されている)。

天体をSとする。
観測する自分の位置を推定する(前日の位置から進行方向と速度で推定すれば、だいたいの検討がつく)。この推定位置をAとする。この位置は正確でなくても問題はない。
ichinosen_6-4

観測地点と天体がその時間に真上に来ている場所をXとすると、観測者から見て天体のある方位(A-X)と角度(∠SAX)が計算できる。

自分の推定位置Aと天体が真上にある位置Xを直線で結ぶ(これが円の半径になる)。

そのとき観測した高度と計算で出した高度を比べて、
同じであれば、推定した位置Aが実際の位置になる。

観測値の方が大きければ、推定位置より内側Bになる。
観測値の方が小さければ、推定位置より外側B’になる。

その角度の差を距離に換算して推定位置から内側または外側に移動した点(BまたはB’)を通り、半径A-Xに垂直な線を引く。これが位置の線になる。

大きな円のごく一部になるので、円周は半径に対して垂直な直線とみなすことができる。

これをもう一回、別の天体か、同じ天体であれば時間をずらして行い、最初の線は船が移動した距離だけ平行させる。

この二本の位置の線の交わった点が観測者がいる実際の位置になる。

この作業は海図ではなく、「天測位置決定用図」と呼ばれるものを使って行う。

この上の写真は『天文航法』(長谷川健二著)に付属しているものだが、海図販売所で専用の冊子が販売されている。

(この項は次回に続きます)

[ 1 ] [ 2 ] [ 3 ] [ 4 ] [ 5 ] [ 6 ] [ 7 ] [ 8 ] [ 9 ] [ 10 ] [ 11 ] [ 12 ]