現代語訳『海のロマンス』103:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第103回)

セントヘレナへの決別

セントヘレナは、三月二十日の朝十時に出帆した。

あまりにも風向が見事だったので、文字どおり帆で出るという予定であった。ところが、いわゆる月に叢雲(むらくも)、花に風、「帆船に軍艦」といえばいえるわけで、あいにく当時、石炭積み込みのため練習船の風下に碇泊(ていはく)しておった英国軍艦ヒヤシンス号のお尻がだんだんと出張ってきて、あわよくば鞘当(さやあ)てでもしかねまじき形成となったので、にわかに変更して、平常(いつも)の通り機走で出てしまった。 続きを読む