『太平洋諸島ガイド』『ワールド・クルージング・ルート』のご紹介

前回、日本の島について、SHIMADAS を中心に紹介しましたが、今回はその海外版です。

といっても、海外の島についての日本語の本はほとんどが有名な観光地のガイドブックで、SHIMADASのような島ガイドはほとんどありませんね。マニアックな世界なので、出しても売れる見込みがない?

そのなかで唯一といえる存在なのが『太平洋諸島ガイド』(牟田清著、古今書院、1991年)。
すでに絶版になっているため、これに加えて、ヨットや帆船で外洋航海をめざす人必携の、その名もずばり『ワールド・クルージング・ルート “World Cruising Routes”』(ジミー・コーネル著、インターナショナル・マリン社)についてもあわせて紹介します。

まず、『太平洋諸島ガイド』

「南の島の昔と今」という副題がついていて、見開きには案内されている太平洋の島々(北半球のハワイから西の島々)が紹介されています。

著者は小笠原諸島に赴任した経験のある元高校教師で、ヨット乗りでもありダイバーでもあり、自分が実際に訪ねた島を中心に、文化や風俗などがこまかく紹介されています。
目次から順に拾っていくと、
小笠原諸島、
グアム島、
カロリン諸島(ラモトレク環礁、サタワル島、ヤップ島、ウルシー環礁、トラック環礁、サタワン環礁、ルクノオール環礁、ポーンペイ島、コスラエ島)
ハワイ諸島(ハワイ島)
ライン諸島(パルミラ環礁、ファニング環礁、クリスマス島)
フェニックス諸島(カントン環礁)
ギルバート諸島(タラワ環礁、ブタリタリ環礁、マキン島)
マーシャル諸島(マジェロ環礁、ジャルート環礁)
となっています。

環礁が多いですが、環礁というのは、名前のとおり、輪状になった珊瑚礁で、内側(礁湖)に入ると、浅いものの非常に穏やかな水面になっていることが多く、「南の島で錨泊」というイメージにぴったりの地形です。

とはいえ、目立つ目標物が少ないため、礁湖への出入りには最善の注意を払わないと座礁ということにもなりかねませんが、、、

こうした南の島をめぐる旅がエッセイ風の読み物としてまとめてあります。

一方、ジミー・コーネルの『ワールド・クルージング・ルート』は、実際の航海を想定し、海域別に周辺地域の特徴やルート、使用すべき海図やパイロットチャート、実際に航海で設定すべきウェイポイントなど、豊富で圧倒的な量のデータが一冊にまとめられています。500ページ超の分厚くて重い本です。


大きさの比較

英語ですが、文学的に凝った表現ではなく、必要な事項を図や表を使い、簡潔な言葉で示してあるので、高校程度の英語力でも読めるレベルでしょう。

ここで紹介している本は1995年の第3版ですが、2022年にも新版が出ている定番のロングセラーです。

図の使い方でいうと、たとえば、こんな感じ。

この図は、季節ごと(3ヵ月単位)に、その時期の風の傾向を示しています(このページは4月~6月)。
赤い矢印はその時期に優勢な風向を示し、赤く塗られたエリアは特定の傾向がない(気象学的には variables = 変向風、つまりそのときどきで風向が変化する)ことを、グレーのエリアは、いわゆる赤道付近の無風帯を示しています。

これを見れば、春から初夏にかけて日本から北米大陸へ向かうには、ハワイ(図の中央、N.E. TRADEという赤い文字の少し右上)よりずっと北の、西風が優勢なエリアを航海し、逆にアメリカから日本に向かうには、まず大陸に沿って南下し、後方からの貿易風(北東風)を受ける形で進んだほうが楽なことが、一目瞭然でわかります。

ヨットは風が頼りなので、風向は重要な意味を持ちます。

それは強力なエンジンを持つ本船や航空機でも同じですね。

たとえば、日本付近の上空では強い偏西風が吹いています。

飛行機で東京・羽田から西の福岡へ向かう場合は向かい風になるので約2時間かかりますが、逆に福岡から東京へ向かう場合は1時間半程度ですみます(2023年2月現在のJALとANAの例)。距離は同じなのに所要時間が30分ほど違ってくるわけです。

ヨットで世界一周する場合も、西まわりと東まわりでは難易度や所要日数に大きな差がでます。

風をさえぎる陸がなく、吠える40度、荒れ狂う50度といわれる海の難所の南米大陸最南端のホーン岬やアフリカ大陸南端の喜望峰の周辺では、風と同じ方向に進むのと、風に逆らって進むのでは、天と地ほどの違いがある、らしい――実際には体験していないので、あくまで伝聞によるものですが……

このワールド・クルージング・ルートでは、大西洋(北大西洋、赤道付近、南大西洋)や太平洋(北太平洋、極東、赤道付近、南太平洋)、インド洋、紅海、地中海といった海域別に、まず風と海流について説明し、それから具体的なルートと使用すべき海図、航路図誌、ウェイポイントなどが示されています。

極東を見てみましょう。

著者のジミー・コーネルは英国のヨット乗りなので、香港を中心にコースが描かれていますね。
香港から日本へは長崎と大阪の2コースが採用されています。
(赤い手書きの線と×は、長崎と鹿児島の誤記を筆者が訂正したもの)

次に、こちらは日本(大阪)から北米大陸へ向かうコースの図。

一番北寄りのPN71はアラスカへ向かうものですが、下向きに弓なりになっているのは地図の図法の違いによるもので、航空機や船舶で用いられる大圏航法の図法では上向きの弧になります。
大圏航路/大圏コースは、たとえば、こんな感じ。赤い線が最短距離の大圏コース、下の緑はジェットストリーム。


ChaosNil, Public domain, via Wikimedia Commons

日本からカリフォルニアに向かうPN73のルートでは、下のような表と説明が記載されています(PN = 太平洋、北半球)。

上から順に
最適な時期: 7月~8月
熱帯性低気圧(台風のような嵐が発生する時期): 5月~12月
海図番号: BAは英国、USは米国の海図番号
パイロットチャート: 船舶用の海況・気象の詳細な情報を記載した冊子。
クルージングのガイドブック: Charlies’s Charts of the US Pacicfic Coast
ウェイポイント: 出発点、中間点、ランドフォールの目印になる場所、目的地の緯度経度、距離

ジミー・コーネルには『ワールド・クルージング・サーベイ』(舵社)という実際の体験談を含めたクルージング情報についての著書もあり、こちらは日本語で読むことができましたが、すでに絶版になっているようです。