ジョン・マクレガー著
現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第56回)
カヌーを載せた牛車の行進はまもなく小さな町に入ったが、地名はわからない。通りに敷いてある大きな丸石を乗りこえながら、荷馬車ならぬ荷牛車がガタゴト音を立ててゆっくり進んでいくと、昼間で人の気配がなかった窓から、たくさんの人が顔を出した。ぼくらをのぞき見て、なんだか面白そうだ、もっとよく見ようと家から飛び出してくる。立派なホテルの入口まで牛が小舟を引いていくのは、確かにめったにお目にかかれない珍光景には違いない。主役となった殊勲の四つ足動物の名誉のために言っておくと、この牝牛はここでは由緒正しい淑女のごとき振る舞いをしてくれた。