現代語訳『海のロマンス』45:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第45回)
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ミセス・ホラハン

ぼくはかつて、外国へ行っている日本の留学生が、心さびしい異国の地で、「ドイツの母」とか「ロンドンの母」とか、なつかしげに呼びならわしている老婦人を持っていると聞いている。そうして心の中で、物の道理のわかった、親切で、心の広い、どんな人種に向かっても快い抱擁を与える年とった女性を描いてみた。

この多年、心の中で描いていた美しい絵が現実となって現れたのが、わが「カリフォルニアの母」ミセス・ホラハンである。

船は「女性」である。練習船・大成丸はそのあらゆる種類の女性の中でも、最も優艶(ゆうえん)にして最も高雅な一人である。

美しく清らかな女には、また美しく清らかな同性の友がある。美しく気品のある友人として最もすぐれた人が二人いる。すなわち、日本の伊藤静代夫人と、カリフォルニアのホラハン夫人と……

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