米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第134回)
ブラジルは移民を欲す
一、日本移民の歓迎
Brazil wants colonist (ブラジルは入植者を欲す)の三語は、西暦一五〇〇年にブラジルがポルトガル人によって発見されて以来、渇(う)えた者が水を欲するがごとく、過去四世紀間にわたって全国のいたるところで提唱され、重要な問題であった。過去においてしかり、歴史はこれを証明している。現在においてしかり。(歴史)はこれを証明している。そして、近い将来においても、さらにまたそうであると思われる。以下に記すところの観察が、これを証明している。
しかし、移民については、オーストラリアで手を焼き、北米で背負い投げを食らわされ、少なからず苦い経験を味わわされた日本人士は、「近寄るまいぞ、信じずまいぞ、また例の、かの手段(あて)で……」とおじけをふるって怖(こわ)がるだろうが、例の移民という同一の素顔に「黄白両面(おうはくりょうめん)」の仮面(めん)をかぶらせて、愛情と憎悪、賞賛と悪口の両芸当を巧みに使い分けるアングロサクソンの人々とは違って、情操豊かにして華やかな名目を好み、感情の起伏が激しいブラジル人の観念には、こういった激烈な毛嫌い根性はないようである。コロニスト(入植者)という意味のうちには、モンゴロイド系(イエロー)とコーカサス系(ホワイト)という二つの人種が同等の待遇を受けていると解釈してさしつかえない。 続きを読む