米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第130回)
大統領の製造者(プレジデント・メーカー)
生糸が日本の対外貿易で大きな割合を占めるように、ブラジルは珈琲(コーヒー)を唯一の国富の源泉としている。そして二つの国が、その内国の製造工業の隆盛ならざるは共に軌(き)を一(いつ)にしている。
日本が二十何億の国債を有して、しかも自ら極東の盟主をもって任じているのは、ブラジルが四十億の借金にあえぎながら、しかも南米の盟主を気どっているのと一対である。
日本の国民道徳がいまだ過渡期にあるのは、ブラジルの思想界が動揺的であるのに対するもので、日本が目下(もっか)盛んに新奇の欲求に渇(かつ)えているのは、ブラジルが英語に憧憬(しょうけい)し、パリ型(スタイル)の流行を追っているのに似ている。
まがいものを好むにおいて、両国民は申し合わせたるごとく、歩調を一にし、虚栄心、装飾性、贅沢(ぜいたく)欲においてほとんど同典型に入らんとしている。 続きを読む