ヨーロッパをカヌーで旅する 51:マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第51回)。
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第九章

濡れまくり、アドレナリン出まくりの体験を前日したばかりだったので、この日、はじめのうちは、どこか緊張していた。前方から急流らしい水音が聞こえてくると、また同じような手荒い試練を受けるはめになるのではないかと心配になったりもした。そんな川音が聞こえてくると、これまでは「よし急流下りが楽しめるぞ」と思ったものだったのに。しかし、それにもだんだん慣れてきて、朝から晩まで続く川下りを楽しむことはできた。

ロイド川は相変わらずの急流ではあったが、あれほどの難所はもうなかった。それほど多くないものの川にはボートも浮かんでいた。下見をしているとき、イカダも一つ見えた。イカダ師たちは「どうやってあの流れに乗せようか?」などと相談しあったりしてした。川沿いの集落の多くは高い崖の上にあった。そうじゃないときは上陸には向かない場所だったりした。それで、どこかカヌーを着けられる場所はないかと探しながら川を下ったのだが、適当なところがなかなか見つからない。蛇行した川の湾曲部にさしかかるたびに、そこを曲がると休めるのではないかと希望的観測を抱いたりしたものの、ずっと遠くまで高い崖が続いていたするのだった。はるかかなたに岬のようなところが見えてきた。あそこまで行ってみれば朝飯を食べるところくらいはあるに違いないと思ったが、いつもの朝食の時間はとっくにすぎていた。川岸は人家もまばらで、とにかく腹が減ってたまらない。絵のように美しい場所で、川に突き出るように水車小屋が建っていた。そこに上陸することにした。

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