ヨーロッパをカヌーで旅する 83: マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第83回)
eyecatch_2019

こうした丘の一つに、マダム・クリコの館があるのに気づいた。この名前は多くのシャンパンのボトルやそれ以外のボトルのコルクにも刻印されている。エペルネの近くのアイのブドウ園はこのワインの名産地だ。ワインは瓶詰にされた後、ボトルの首を下に向けて沈殿物をコルク周辺に集める。それから熟練した職人がコルクを交換する際に、瓶内の圧力で少量のワインもろとも沈殿物を吹き飛ばす。ボトルは「洞窟」や巨大な貯蔵室に保管されるが、そうした場所は温度変化がほとんどない。そのために瓶(びん)が破裂することもある。ボトルの四分の一がそうやって爆発したこともあったそうだ。この有名なマダム・クリコでは、一八四三年の暑かった夏、四十万本のボトルが失われたという。その後、大切な貯蔵庫の冷却用に十分な量の氷がパリから調達できるようになると、そういうことはなくなった。フランスでは毎年約五千万本の「本物」のシャンパンが製造されているという。世界中で「フランス製シャンパン」と称するものが年間に何百万本飲まれているのか、確実なところは誰にもわからない。イタリアのワインの産地として有名なベローナでも、ここのシャンパン・ボトルは尊重されている。

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ヨーロッパをカヌーで旅する 82:マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第82回)
eyecatch_2019
水もれするカヌーに乗っているのは、なんとも情けなくみじめだ──足を引きづった馬に乗ったり、銃身の曲がった銃を使うようなものだ。カヌーでは多くの機能が必要とされるが、最優先すべきは信頼性である。それで、最初の村まで来たところでカヌーを止めた。そこで修理してくれる人を見つけてパテなどを調合してもらい、それを継ぎ目に押し当てた。岸辺の宿で食事をする間に硬化してくれるはずだ。その場所では、長大なイカダが組み立てられていた。パリまで下るのだそうだ。宿ではエネルギーに満ちあふれた農夫たちが一瓶二ペンスのワインを飲んでいた。

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