米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第78回)
五、ハーシェル翁
テーブルクロスと呼ばれる雲の成因と、その雲自体と南東風(サウイースター)との関係はずいぶんと長い間、気象学者が頭をひねった問題であった。そして、今なお的確に理解し説明したものはないが、強いサウイースターがテーブルマウンテンの裏手にあるサイモンズ湾から吹き上がって、生ぬるいインド洋の湿潤な空気が冷涼な山頂にぶつかり、白いテーブルクロスとなるという大雑把な説では皆一致するようである。この白いテーブルクロスが黒く汚れたが最後、獰猛(どうもう)な雲と風とは義経(よしつね)のひよどり越えさながら無造作に落とし来たって、ケープタウンはたちまち塵(ちり)と瓦礫(がれき)の修羅場(しゅらば)となってしまう。
※ 一般の世界地図のイメージに合わせて、原図の左右を逆にして示してあります。
サイモンズ湾は、ホオジロザメの見学ツアーでも有名な、広い意味のファルス湾にある小湾です。