ヨーロッパをカヌーで旅する 86:マクレガーの伝説の航海記

ジョン・マクレガー著

(緑色)現代のカヤックの原型となった(帆走も可能な)ロブ・ロイ・カヌーの提唱者で、自身も実際にヨーロッパや中東の河川を航海し伝説の人となったジョン・マクレガーの航海記の本邦初訳(連載の第86回)
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次に立ち寄ったのは「ラ・フェルテ・スー・ジュアール」である。かなり距離があった。ラ・フェルテという名のつく町はいくつかある。これはイギリスで、語尾が「カスター」や「セスター」となる町が多いのと同じだろう。ここのラ・フェルテの特産は石臼(いしうす)だ。高品質の石臼は五十ポンドもするし、大量に輸出されている。ここの石にはもとから穴が開いていて、それが臼(うす)の刻み目として利用できるので、その分の加工が不要になるという利点がある。ラ・フェルトでは、干し草小屋にカヌーを置かせてもらった。宿の食事では、パリから来ていた頭のいい腹をすかせたブルジョワ氏も一緒で、マナーもおかまいなしの食欲旺盛な女房殿を同伴していた。彼らの向かいの席には、町の噂話をあれこれしゃべり続ける人がいた。他人のやること、言うこと、失敗話、儲け話など、なんともつまらない馬鹿話を際限なくぺちゃくちゃやっている。とはいえ、ぼくを含めてこの四人の客のテーブルで、まったく毛色の違う二つの話が同時進行で展開されたのも、まあ面白くはあった。一方は延々とラ・フェルテの人間の噂話を披瀝(ひれき)し、他方は話題を靴やスリッパに向けようと懸命になっている。それというのも、このブルジョア氏は、各地を旅しながらブーツを売り歩いているのだ。結局のところ、ぼくらの日常生活における会話というのも多くは似たようなものだろう。イギリスの内閣にとって些事(さじ)にすぎないことでも、ホノルルでは高尚な政治問題だったりするわけだ。

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