現代語訳『海のロマンス』40:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第40回)

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うぬぼれ挑発策

世にも名高きアメリカ松をざっと荒削(あらけず)りしたばかりの、幅一尺厚さ五寸の巨材を密着させて敷きならべた、サンタフィの埠頭(はとば)から五百歩ほど歩み去ったとき、そこに海員読書室と看板を掲げた粗略(ぞんざいな)一木造家がある。

どんなところかとドアを開けて入ると、正面に、

新兵は守ってやれ。君や俺の子供ではないかもしれないが、どこかの母親の子だ。

と書いた額がうやうやしく掲げられてあった。なるほどと、ちょっと感服して立っていると、奥から人の好さそうな好々爺(こうこうや)が出てきて、ゴトゴトと何か一人でなまった英語で挨拶したのち、少し指に疼痛(いたみ)を感じるくらいの温かい握手をしてきた。なるほど、こんなものかなあと、二たび腹のなかで感嘆の声をもらした。

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