米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著
夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第53回)
アホウドリを釣る
一、彼らはおそれ、彼らはおどろき、
彼らはうらみ、彼らはののしった。
生暖かい鳥の首をキューキューと、
こともなげに俺が絞めたとき。
二、何という無残なしうち?!
おそろしい悪魔の心!!
手前が鳥を殺した故に、
海が時化(しけ)たらどうするつもりだ?
三、見ろやい、祟(たた)りがもう現れた、この外道(げどう)め、
無辜(むこ)の鳥を殺した報いは、
マストにうなる強い風となったわ。
と、震えながら彼らは吠えた*1。
*1: イギリスの作家、コウルリッジの幻想的で怪奇な長編物語詩『老水夫行』に、アホウドリを殺したために船が呪われて……という、ほぼ同じような一節がある。
バタバタと甲板を駆ける靴の音がしたと思ったら、「釣った、アホウドリを釣った」という、浮世離れしたユーモアに富んだ声が、人々の心のどこやらに必ずひそんでいる、子供のごとき好奇的欲求をけしかけるように、けたたましく甲板に響く。