現代語訳『海のロマンス』39:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第39回)
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仮面を使う人々

なんといっても、アメリカは酒と女と賭博(とばく)と喫煙(きつえん)が自由な国である。二十世紀の相良(さがら)の領地*1である。

*1: 相良の領地 - 将軍の小姓から側用人をへて江戸幕府の老中にまで出世した田沼意次(たぬまおきつぐ、1719年~1788年)は、遠江相良(とおとうみ さがら)藩(静岡県西部)の初代藩主でもあった。
田沼の治世では、賄賂(わいろ)と縁故・縁戚による人事が横行したとされる。

百年前におけるわが享保文政のおおらかな時代を、空中に怪物*2が横行する刺激的気分に満ち満ちている二十世紀に再現させ、これにバターの香りを加え、享楽という異名をかぶせただけである。

*2: 空中に怪物 - 練習帆船・大成丸が竣工した1903年、ライト兄弟が飛行機の初飛行に成功している。
今回の大成丸の世界周航は、その9年後になる。また、飛行船はそれより半世紀ほど早く登場しており、日本でも大成丸が出港する前年、東京で飛行船の初飛行が行われている。

されば、古今独歩、東西無比の天才と、お国自慢のヤンキーから保証された作家ワシントン・アービングはその短編集『スケッチブック』で、

寡婦(かふ)を手に入れんとする者は、ためらうべからず。よろず日の暮れぬ間に仕事を片づけんと覚悟せよ。ゆめ遠慮がちに先の機嫌を問うことなく思い切って言え。さらば寡婦は御身(おんみ)のものなりと。

と、さかんに出歯亀(でばかめ)主義を推奨している。物騒なことである。かくて唯一の天才先生から鼓舞され奨励されては、助平根性たっぷりのヤンキーがおとなしくしているわけがない。

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