現代語訳『海のロマンス』4:練習帆船・大成丸の世界周航記

米窪太刀雄(よねくぼ たちお)著

夏目漱石も激賞した商船学校の練習帆船・大成丸の世界周航記。
若々しさにあふれた商船学校生による異色の帆船航海記が現代の言葉で復活(連載の第74)

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五、古本屋とストリート・ミュージック

二週間という短い碇泊(ていはく)中、アデレイ通りに一軒、パーラメント通りに一軒の古本屋を探し当てて、何か掘り出し物をと渉猟(しょうりょう)したが、多くは経済上とか工業上から南アフリカの状態を書いたもの、あるいは一九〇〇~一九〇二年のボーア戦争記*1などで、それが堂々と赤の山羊皮の背皮の装丁で幅をきかしている他には、これぞと思うめぼしい物も見当たらなかった。なかには「南アフリカ植民者の心得(こころえ)」「いかにして金鉱を発見すべきや」などという本に五シリングとか七シリングとかいう定価が貼られているのを見て、これは!とばかり、さっそく店を出てしまった。

*1: ボーア戦争 - 南アメリカの植民地化をめぐり、イギリスと現地在住のオランダ系アフリカ人(ボーア人)との間で生じた戦争を指す。
オランダの背後にはドイツの存在があり、ドイツ包囲網の一環としての日英同盟(1902年)の締結にも影響を与えた。
大成丸の世界一周はそれから約十年後のことである。

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