位置の線については、平面で考えるとわかりやすい。
海上にいて、ある小さな島の山の頂上が磁針方位で60度の方向に見えたとする。
海図のコンパスローズで60度に定規をあてて、その島まで平行移動させ、山頂を通る線(方位線)を引けば、自分の現在地は、その線上のどこかにあるはずだ。
次に別の目標物を調べて、同じようにそれを通る線を引く。二本の方位線の交わる点が自分の位置を示している。これが前回取り上げた、地文航法のクロスベアリング法である。
この目標物を天体に移したのが天測航法/天文航法の位置の線航法と呼ばれるものである。
ある日ある時間に地球上のある地点から天体(太陽、月、惑星、星)を見上げたとき、その角度が70度だったとする。
地球上でその時間にその天体が高さ70度に見える場所は無数に存在するが、そうした点を結んでいくと、大きな円になる。
つまり、この円周(赤線)上のどこかにいることになる。
天体を目標物にした場合、この円周が位置の線になるのだが、実際の作図ではずっと狭い範囲を取り扱うので、円周も直線として扱う。
次に別の天体を調べて、その高さに見える場所を点で結べば同じように円が描ける。この二つの円の交点が自分の位置を示している。
直線と違って、交点は2つできるが、この2つの場所は、たとえば太平洋とユーラシア大陸とか、インド洋と大西洋とか、極端に離れているので、自分のいる場所がどっちかはすぐにわかる。
同時に二つの天体の高度を知るのがむずかしいときは、同じ天体を時間をおいて二度測定しても同じ結果が得られる。
星がよく見える夜は水平線が見えにくいし、水平線がよくわかるときは、まだ空に明るさが残っているので星が見えにくく、星は星座として全体でとらえるとわかりやすいが、六分儀のレンズの中では本当にその星かわかりにくかったりと、現実には星の高度を測るのはなかなか厄介なので、一般には太陽を使うことが多い。
太陽の場合、可能であれば、朝、昼、夕方の三回観測する。それぞれ、モーニングサイト、ヌーンサイト、イブニングサイトと呼ぶ。
まず日の出から少し時間が経った頃(たとえば午前八時)に太陽高度を測定し、必要な改正を行って真高度を求める。改正については子午線高度緯度法で述べた方法と同じだ。
その上で、天測計算表から方位角を見つければ、位置の線が一本引ける(具体的な手順は後述)。
さらに、正午か夕方にも測定して同じように位置の線を引く。
最初の線については、時間の差がある分だけ(船の速度×方向で距離を計算して)位置をずらす必要はあるものの、この二本の線の交点が観測者のいる場所になる。
正午の場合は子午線高度緯度法で説明したように、位置の線を使わなくても、それだけで位置を確定できるためバックアップとしても有効だし、両者を比較することで精度の向上にもつながる。
では、もう少し具体的にみていこう。
天体はほぼ規則正しく運行しているので、ある年の○月○日の○時○分に地球上のどの地点の真上にあるかは、あらかじめわかっている(天文暦に記載されている)。
天体をSとする。
観測する自分の位置を推定する(前日の位置から進行方向と速度で推定すれば、だいたいの検討がつく)。この推定位置をAとする。この位置は正確でなくても問題はない。
観測地点と天体がその時間に真上に来ている場所をXとすると、観測者から見て天体のある方位(A-X)と角度(∠SAX)が計算できる。
自分の推定位置Aと天体が真上にある位置Xを直線で結ぶ(これが円の半径になる)。
そのとき観測した高度と計算で出した高度を比べて、
同じであれば、推定した位置Aが実際の位置になる。
観測値の方が大きければ、推定位置より内側Bになる。
観測値の方が小さければ、推定位置より外側B’になる。
その角度の差を距離に換算して推定位置から内側または外側に移動した点(BまたはB’)を通り、半径A-Xに垂直な線を引く。これが位置の線になる。
大きな円のごく一部になるので、円周は半径に対して垂直な直線とみなすことができる。
これをもう一回、別の天体か、同じ天体であれば時間をずらして行い、最初の線は船が移動した距離だけ平行させる。
この二本の位置の線の交わった点が観測者がいる実際の位置になる。
この作業は海図ではなく、「天測位置決定用図」と呼ばれるものを使って行う。
この上の写真は『天文航法』(長谷川健二著)に付属しているものだが、海図販売所で専用の冊子が販売されている。
(この項は次回に続きます)
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