ミノタ号は手を抜かずに建造されていた。こういうことは、船が岩礁に乗り上げたようなときにものを言う。船が何に耐えたかについては、座礁して最初の二十四時間に二本の錨鎖がちぎれ、八本の太いロープが切れたという事実でもわかるだろう。乗組員たちは海に飛びこんでは錨を探して新しいロープを結びつける作業に忙殺された。ロープで補強した鎖が切れたりもした。それでも、まだ耐えていた。キールや船底を守るため、海岸から三本の大木を運んで船の下に押しこんだが、太い幹もずたずたになって裂けてしまい、それを固縛していたロープもぼろぼろになった。船は何度もドシンドシンとぶつけられたが、持ちこたえた。だが、ぼくらはアイバンホー号より幸運だった。アイバンホー号は大型のスクーナーで労働者の募集に使われていたのだが、数カ月前にマライタ島の海岸に乗り上げてしまい、たちまち原住民による略奪にあったのだ。船長と乗組員はボートで脱出に成功したものの、陸の民と海の民が持ち運べるものをすべて運び出してしまった。
ケウムの人々――ソロモン諸島
土砂降りの雨が続き、眼もあけていられないほどの強風がミノタ号をおそっている。海は大荒れになってきた。五マイルほど風上にユージニー号が錨泊していた。が、途中に岬があって視界をさえぎっているため、ミノタ号のトラブルに気づくはずもなかった。ヤンセン船長の提案で、ぼくはケラー船長宛に、余分に錨があれば持ってきてもらえないかという手紙を書いた。しかし、その手紙を運んでやろうというカヌーは一隻もなかった。半ケースのタバコをやると言ったのだが、連中はニヤッと笑うだけで、またすぐ離れてしまうのだ。半ケースのタバコといえば三ポンドの価値がある。風や波は高かったが、その手紙を運ぶほんの二時間ほどの手間をかけるだけで、農園で半年汗水流してやっと手にする賃金に相当する価値のあるものを受けとれるのに。ぼくはコールフェイルド氏がボートで錨を運んでいるところまで、なんとかカヌーを漕いでいった。彼ならぼくらより原住民に対する影響力があるだろうと思ったのだ。氏は周囲のカヌーを自分のところに呼び集めた。二十人ぐらいが近づいてきて、半ケース分のタバコをやるという話に耳を傾けた。皆、無言だった。
「君たちが何を考えているのか、私にはわかる」と、伝道師は語りかけた。「座礁したあの船にはたくさんのタバコが積んであるはずだから、それをごっそりいただこうと思ってるんだろう。だがね、船にはライフルもたくさんあるんだよ。タバコどころか銃弾をくらうことになるぞ」
やっとのことで、小さなカヌーに乗った男がその手紙を運んでくれることになり、一人で出発した。救助を待つ間も、ミノタ号では作業が続けられた。水タンクを空にし、円材や帆、バラストを陸に運ぶ。ミノタ号が揺れるたびに船上には活気が戻った。交易品を詰めた箱やブーム、八十ポンドもある鉄のバラストが一方の舷からもう一方の舷まで飛び交うたびに、二十人もの男たちが押しつぶされないよう逃げまわるのだ。かわいそうに、この船はおだやかな港内での帆走用に建造された華奢なヨットだったのに! 甲板も動索もぼろぼろになっていた。甲板の下では、何もかもがひっくり返っていた。船室の床にはバラストを取り出すための穴が開けられていたし、錆の浮いたビルジが船底でびちゃびちゃはねていた。ライムを入れた樽が、調理中のシチューからこぼれた団子のように、小麦粉をぶちまけた海水にプカプカ浮かんでいた。奥の船室では、ナカタがライフルと弾薬を守っていた。
手紙を持って出発してから三時間がたった。激しい風雨をついて、一隻のボートが巨大な帆を揚げてやってきた。ケラー船長だった。雨と波しぶきでずぶ濡れになっていたが、ベルトには拳銃を差し、ボートの乗組員は完全武装していた。ボート中央には錨とロープが山のように積みこまれていた。突風も顔負けの迅速さだった――白人が白人の救助に来てくれたのだ。
ハゲタカのようにじっと待っていたカヌーの列が乱れ、来たときと同じようにあっという間に消えてしまった。結局、一人の死者も出なかった。これでボートは三隻になったので、二隻がミノタ号と海岸との間を往復し、もう一隻が錨を担当した。切れたロープを補修し、失った錨を回収した。その日の午後遅く、話し合いをし、船の乗組員の数と採用した地元の労働者が十人になったことを考慮して、ぼくらは乗組員の武装を解いた。それで、両手を自由に使って船の作業に専念できるようになった。ライフルはコールフェイルド氏の手伝い五人に預けた。壊れた船室では、伝道師と彼が改宗させた地元の少年たちがミノタ号を救ってくれるよう神に祈っていた。印象的な光景だった。一点の曇りもなく信じて祈っている丸腰の男の背後で、元は野蛮だった連中がライフルを持ち、アーメンと唱えているのだ。船室の壁が揺れた。船が持ち上がり、波が寄せるたびにサンゴにぶつかった。甲板からは吐いたり疲労困憊した声や、目的も腕力もある連中が別の流儀で祈ったりする大きな声が聞こえてきたりした。