III
海の上で同じ船に乗りあわせた者たちに生じる微妙な連帯感を言葉で表すのはむずかしい。誰も同志だとはいわなかったし、そういうことを口にする者もいなかったが、一緒にボートに乗るはめになってみると、そういう感情というものが実際に存在し、互いに親近感がわいてくるのだった。船長がいた。機関士がいて、船の料理長がいて、それに乗客の記者がいた。この四人は同志だが、普通の仲間よりもっと強いきずなで結ばれていた。負傷した船長は船首の水がめにもたれ、いつも低い声で穏やかに話した。しかし、船長にとって、このボートに乗り合わせた他の三人ほど命令をすぐに受け入れて機敏に動くクルーはいなかっただろう。そこには、安全という共通の目的のために何が最善かをただ認識するということを超えるものがあった。たとえば、司令塔たる船長の命令に従ってみると、たとえば、すべてを批判的に見ろと教えられてきた記者のような者であっても、遭難している状態とはいえ、これが自分の人生で最高の体験になるとわかった。だが、誰もそうだとはいわなかったし、そういうことを口にする者もいなかった。
「帆があったらなあ」と、船長がいった。
「私のオーバーコートをオールの先端にかけてみようか、そうすれば、君ら二人も休めるんじゃないか」
それで、コックと記者はオールをマストのように立てて持ち、コートを広げた。機関士が舵をとった。すると、この新しい帆は小さなボートをうまく前に運んでくれた。機関士は、ボートが波に突っ込まないように、ときどき舵をすばやく動かして漕がなければならなかったが、それをのぞけば、この帆走はうまくいった。
一方、灯台は少しずつ大きくなってきた。いまでは塗られている色もだいたいわかるようになり、空を背景に小さな灰色の影のように見えていた。両手でオールを漕ぐ係は灯台に背を向けていたが、この小さな灰色の影の灯台を見ようと、たびたび振り返った。
やがて、波に頂点まで持ち上げられるたびに、ようやく揺れるボートから陸が見えるようになった。灯台は空を背景にした垂直な影だったが、陸地は水平線上に細くのびた黒い影みたいだった。たしかに紙よりも薄かった。
「ニュースミルナの沖あたりかな」と、コックが言った。彼はこの海岸沿いをスクーナーで何度も航海したことがあったのだ。「ところで、船長、海難救助の詰め所が廃止されたのは一年ぐらい前だったでしょうか?」
「そうなのか?」と、船長がいった。
風は徐々に落ちてきた。コックと記者はもう風を受けるためにオールを立てておく必要がなくなった。だが、波はあいかわらずボートに襲いかかってくる。小さなボートは進むこともできず、波に翻弄された。機関手と記者はまたオールを手にした。
船の沈没は、いきなり起きるものだ。避難訓練を受け、心身が健康なベストの状態で沈没が起きるのであれば、海での溺死者は減るはずだ。だが、このボートに乗っている四人は、救命ボートに乗り込む前の二日二晩というもの、ろくに寝ていなかったし、沈みかけた船の甲板上をはいつくばって登るという異常に興奮した状態にもあったので、腹一杯食べておこうという気にもならなかったのだ。