天測航法 8─六分儀の使い方

ここでは、六分儀の使い方について理解しよう。

六分儀は、船の航海で天体の位置(角度や高度)を観測して現在位置を知るために必須の道具で、帆船やヨットの外洋航海では、こんな光景がよく見られる。
sextant-jacklondon
観測しているのは『野生の呼び声』などの作品で知られる作家、ジャック・ロンドン (『スナーク号の航海』より)

ひとくちに六分儀といっても、時代やメーカーによってさまざまなので、一般に共通する部分の名称を示し、その仕組みについて説明する。

4-1 各部の名称

写真は、日本で六分儀の代名詞になっているTAMAYA製のMS-733。
わりと新しい、ごく標準的なもの。軽合金製で重さは二キロ弱。
これを重いと思うか軽いと思うかは、使う人の体力と体調によるだろう。
長期の航海で疲れているときは、これを構えるだけでも結構な重さに感じることもある。

(1) 望遠鏡 telescope
(2) 動鏡 index mirror
(3) シェードグラス index shades
(4) 水平鏡 horizon mirror
(5) シェードグラス horizon shades
(6) 弧(アーク) arc
(7) 儀面 body
(8) マイクロメータ micrometer
(9) バーニャ vernnie(10) 指標棹 index arm
(11) レバー release levers(12) ハンドル handle

それぞれ役割
(1) 望遠鏡は、もちろん、ここに目を当ててのぞく。
(2) 動鏡(インデックスミラー)は天体をここに反射させて水平鏡に像を送る。
(3) シェードは濃淡が数段階あり、太陽を見るときは濃い色を使用する。
(4) 水平鏡は望遠鏡から素通しで水平線が見えるが、同時に動鏡からの映像を反射させて望遠鏡に送る働きもする。
(5)シェードは(3)と同じ。天候など周囲の状況によって適したものを選ぶ。
(6) 弧(アーク)はスケールともいい、1度ごとに目盛りが刻んである(-5~+125)。
(7) 扇形の儀面は鏡や望遠鏡を取り付ける本体部分。
(8) マイクロメータはアークの角度の微調整を行う。
(9) バーニャでは1度以下の角度を読む(0.2’)。
(10) 指標棹(インデックスアーム)を動かして角度を調整する。動鏡と一体。
(11) 指標棹の下にあるレバー二本を同時につまむと指標棹が動く。離すと固定される。
(12)ハンドルは写真に見えている側の裏側にあり、右手で持つ。

4-2.天体と水平線を見る仕組み

tamaya-sextant
上図でわかるように、天体の映像は動鏡で反射して、水平鏡に送られ、そこからさらに反射されて望遠鏡に送られる。
と、同時に、望遠鏡の視界には水平線もそのまま見えている。
天体の映像と水平線の実像が一直線に並ぶように、指標棹(インデックスアームの角度を調節する。
レバーで大体合わせ、マイクロメータを回して微調整する。

4-3. 実際の観測手順
A.六分儀を調整する。
(1) 動鏡(インデックスミラー)と水平鏡(ホライゾンミラー)は儀面(本体)と直角になっていなければならない。

確認し調整する方法はメーカー/製品によって異なるので、それぞれの説明書を見て確認する必要があるが、たとえば、動鏡が直角かどうかは「鏡に映る弧と直接に目で見える弧が直線になっていれば直角、屈折していれば直角ではない」といったことでわかる。近くに調整ネジ(または類似の仕組み)があるはずなので、それで調節する。

水平鏡の直角は普通に縦にして持ったときの「水平線と映像が一直線になっている」状態で、そのまま六分儀を倒していって水平にしてもなお「一直線」であれば直角、そうでなければ直角ではないので、ネジ等で調整する。

(2)器差(インデックスエラー)の改正

指標棹(インデックスアーム)を弧の00’に合わせたときに、動鏡と水平鏡は平行になっていなければならない。

指標棹(インデックスアーム)を00’に合わせて、水平線を見る。
sextant-image01
こうなっていればOK。
sextant-image02
こうなっていれば調整ネジで一直線になるようにする。

さらに正確さを確認するには、そのままの状態で六分儀を傾けて、なおかつ一直線になっているかチェックする。必要に応じて調節する。
ただし、どう調節しても段差が消えない場合は、マイクロメータで指標棹を動かして一直線にし、その時の角度をメモしておき、後で計算により加減する。

B.調整終了後、実際に天体の角度を測る。
太陽を見る場合はかならず濃いシェードを使うことを忘れないように。

ヒント: 体がふらふらしない場所や体勢を確保し、天体のおよその高さを推測して、あらかじめ六分儀をその角度にしておくと、割と楽に天体と水平線の両方を捕らえることができる。
望遠鏡に水平線と太陽の両方が入ったら、マイクロメータで微調整して位置を合わせる。
sunandhorizon
普通はこのように太陽の下辺を合わせる。

C.目盛りを読む。弧(アーク)は度単位なので、それ以下はマイクロメータとバーニャで読む(0.2’単位)。目盛りの中間は比例させて読む。

4-4 人工の水平線を使う

実際に海に出ると、太陽などの天体は見えるのに水平線がはっきりしないことはよくある。代表的な例は海霧だが、それに限らない。

で、そういうときに便利なのが人工水平線 (アーティフィシャルホライゾン)だ。
専用の器具がある。
多少の差はあるが、大体はこんな形をしている。
artificialhorizon-01

ま、洗面器のような容器に水を入れて、水面を通して太陽を見ても測定可能だが、風などで水面が揺れると映った像も揺れるので、専用の方が使いやすい。

仕組みはこうだ。
artificialhorizon
六分儀と人工水平線に差しこむ太陽からの光線は平行とみなすことができる。
水面の入射角と反射角は等しいので、●はすべて同じ角度になる。
つまり、六分儀で測定した角度を2で割ると天体の高度になる。

これは水平線の見えない陸上で六分儀による天体の高度観測の練習にも使える。
この場合、高度改正で、眼高による改正は不要になる。

 

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天測航法 7─経度を知る

緯度に比べれると、経度の求め方は、かなりハードルが低くなる。
「なぜ太陽が真南にきた時間を知ると自分のいる位置(経度)がわかるのか」の項で簡単に説明したが、ここでは、ざっとおさらいをして、実践的な手順に進もう。

地球は1日に1回自転している。
一周ぐるっとまわる(360度)のに24時間かかることになる。
これで15度=1時間という関係が成り立つ。

この関係は海外旅行をするときの時差でおなじみだが、角度も時間もその下の単位は分、秒になる。

1時間=60分 1分=60秒

1度 =60分 1分=60秒

どちらも分と秒でまぎらわしいので、

時間の場合は、時間(h)、分(m)、秒(s)を使う。
緯度・経度の場合、度()、分( ′)、秒(″)を使う。

経度を知るには、その場所で太陽が真南にきたときの時間を計測し、それが経度0度のグリニッジ標準時(GMT)より何時間何分進んでいるか(または遅れているか)を調べて、その時間差を度に換算すれば、いまいる場所の経度が算出できる。

グリニッジ標準時より早ければ東経(E)、遅ければ西経(W)になる

現在ではグリニッジ標準時よりも協定世界時(UTC)を使うことが多いが、天測レベルでは両者は同じとみなしてよい。

天測では地動説より天動説の方が感覚的にわかりやすい。
太陽は24時間で地球をぐるっと一周する。
だが、正確に24時間ではなく、その速度も一定ではない。
だから、計算で経度を求める場合、実際の太陽の運行と計算上の運行には差があり、それを均時差というが、これを補正する必要がある。

[経度を求める手順]
1.太陽が真南に来たときの時間を確認する。
2.その時間を天測暦に記載されている均時差で修正する。
3.修正した時間を度数に換算する(=経度)。

ステップ1
まず太陽が真南にきたときの時間を知る必要があるが、これが意外にむずかしい。
方位磁石を使えば太陽が南にあるかどうかはわかるが、磁北と北点は必ずしも一致せず、方位磁石の示す方角が真南とは限らない。
だから、正確な時間を知るには、
(1) 真南になる少し前に六分儀で太陽の高さを測り、その時間を記録しておく。
(これを仮に t1 とする)。
(2) それから2、3分おきに太陽の高さを測り、時間を記録する。
(順に t2、t3……とする)

太陽高度は少しずつ高くなった後、こんどは少しずつ下がりだす。

(3) 下がり始めた太陽高度が t1 または t2 と同じ高さになった時間を記録する。
(仮に t6 とする)。

T1とt6の高さが同じだとすると、両者の時間の中間の時刻がその場所の正午(南中時刻)になる。

ステップ2
記録した時間を均時差で補正する。
(1) 天文暦で、その日のグリニッジの正午における均時差を確認する。

均時差とは、太陽が一定の速度で動くと仮定した計算上の正午と太陽が実際に南にくる時間との差で、その計算結果が日付ごとに天測暦に載っている。

◎太陽の二列目の値から12hを引くと均時差が得られる。

均時差 = (図のE◎の列にあるh m sの値)-12h

ほとんどの場合、均時差は数分程度だ。

その均時差を ステップ1 で記録した南中時刻に足す(または引く)。

例:その日の正午に実際の太陽が南中する時間(これを視太陽時という)が計算上の正午より1分10秒早かったとすれば、測定した時間から1分10秒引く(遅ければ足す)。こうした修正作業を補正という。

ステップ3
補正した時間を度数に換算する
均時差で補正した時間を度数に変換して経度を求める。
換算は24時間=360度で比例案分する(1時間=15度)。

時間と度の換算表

時間 24 h 1 h 4 m 1 m 4 s 1 s
360o 15o 1o 15’ 1’ 15”

※ 単純な計算なので、数分で終了する、はず――海の上では船酔いなど、頭がちゃんと働かないときもある、、、
時(h)、分(m)、秒(s)にそれぞれ15をかけて合計する。
それぞれ時(h)は度(o)、分(h)は分(‘)、秒(s)は秒(“)に対応するが、分(‘)と秒(“)が60を超えた場合は60で割り、商は一つ上の単位に(分なら度に、秒なら分に)繰り上げ、余りがそのまま、それぞれ分と秒になる。
天測計算表には「時間弧度換算表」が掲載されているので、その表を使えば計算する必要もない。

とはいえ、具体的な例で計算してみよう。

太陽が真南にきた時間(南中時刻)をはかって均時差を修正したら、グリニッジ標準時の正午(12時)より10時間18分41秒早かったとする。
10h×15=150
18m×15=270’=430’
41s×15=615”=10’15” となるので、

経度(E)    =(150+4)(30+10)’15”
=15440’15”(東経154度40分15秒)
ちなみに、経度の測定には、月距法という方法もある。
月と他の天体との距離(観測者から見た角度)を測定し、天測暦の月距表で時間を割り出す。
小型ヨットではじめて世界一周したジョシュア・スローカムや幕末に太平洋を横断してサンフランシスコまで行った江戸幕府の咸臨丸も、この方法で経度を測定したと言われている。
この方法の利点は、正確な時計(クロノメーター)がなくても経度がわかるということだ。
緯度は太陽の高さでかなり正確に出せるので、問題は正確な時計がないときに経度をどうやって知るか、である。
スローカム船長は1ドルで買った中古の時計しか持っていなかったので、必然的にこの方法に頼らざるをえなかった。
だが、クロノメーターの普及に伴って、この方法は急速に忘れられてしまった。現実にも、日本を含むほとんどの国の天測暦に月距表はもう掲載されていないので、現代では忘れられた方法となっている。

 

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天測航法 6─北極星緯度法

2-2 北極星緯度法

天候によっては正午に太陽を観測できるとは限らない。
緯度を知る有力なバックアップ手段として北極星がある。
北極星は、ひしゃくの形をした北斗七星やWの形をしたカシオペア座を使った見つけ方を含めて、最もよく知られている星の一つだ。

地軸を北極の先まで伸ばした延長線上にあるため、つねに方角の北を指すが、それだけではなく、北半球では、北極星の水平線からの高さで、その場所の緯度がわかる。

次の図は、北極星の高度と緯度の関係を示している。
図2-1
f-2-1
Pは観察者のいる場所、ℓ は緯度、aは北極星の水平線からの高さを示している。

その一部を拡大する、こうなる。
図2-2
f-2-2

三角形OPXは直角三角形で∠xは直角なので、
ℓ+●=90度 (1)
∠hPz=a+●=90度 (2)
よって ℓ =a

つまり、北極星の高度aは緯度 ℓ に等しい。

しかし、正確には北極星は地軸の延長線上から少し離れたところにあるため、その分の補正が必要になる。

[北極星の高さから緯度を求める手順]

1.北極星の水平線からの高さを測定する(観測値)
2.太陽の場合と同じように高さの観測値を補正して真高度を得る
3.地方時角(L.H.A.)を求める
4.天測暦の北極星緯度表から時角に基づく補正値を見つけ、真高度を補正する(=緯度)

以下、具体的に説明する。

1.太陽と北極星の観察で一番違うところは、北極星は昼間は見えないという点だ。夜になると、星は見えるが、今度は水平線が見えなくなってしまう。
というわけで、夜明けか夕方に観測するしかない。
この手順では、揺れる船上で小さな星を六分儀で視界にとらえるのが一番むずかしい。そこさえクリアできれば、後は単純な計算になる。

2.観測高度を真高度にするには、太陽の場合と同じように高度改正を行う。
太陽は地球から近くて見かけの大きさがあるので、高度改正では視半径や視差による調整を行ったが、星(恒星)の場合は距離が遠く、ほぼ点とみなしてよいので、六分儀の器差(インデックスエラー)と眼高差、それに気温と水温の差のデータがあれば、それを使って補正する。
天測計算表には「星の測高度改正表」が掲載されているので、そこから必要な数値を拾って改正する。

図2-3 星の測高度改正表

出典:『天測計算表』(書誌第601号)海上保安庁

観測高度から真高度を求めるには

(1) 器差(インデックスエラー)を改正する
(2) 第1改正 眼高と測高度による改正
(3) 第2改正(惑星の視差の改正なので、北極星では不要)
(4) 第3改正 気温と水温の差で、水温が高ければ表の値を足す。低ければ引く。

これで真高度が出る。

3.地方時角 (L.H.A.)とは、観測した場所の時間がグリニッジ標準時(世界標準時)とどれくらいずれているかを示すもので、要するに、海外旅行でよくいう時差と考えればよい(例の経度15度=1時間という考え方)。

天測暦には「北極星緯度表」が四ページにわたって記載されている。
これはグリニッジ標準時の場所に基づき、それと実際に観察した地点との差を一覧表にしたもの。

まず自分のいる場所とグリニッジ標準時(世界標準時)との時間差(これを「地方時角」という)を確認し、それに基づいて表で改正値を求めることになる。

地方時角(L.H.A.)の計算については「経度を知る」の項で詳しく説明する。
ちなみに日本の標準時となっている明石(東経135度)の地方時角は9時間(9h)である。
地方時角がわかったという前提で話を進める。

図2-4 北極星緯度表

出典:『天文航法』(海文堂)添付の「(平成某年)天測暦抜粋」から
天測暦は毎年刊行され年ごとに数値が異なる。実際の天測暦には年が記載されている。

左ページが第1表、右ページの上が第2表、下が第3表。
それぞれ横軸を1時間ごと、縦軸は分ごとに整理してあるので、時角の時間(縦)と分(横)の交わるところの数値が目指す値になる。
これを真高度に加減して緯度を出す。第1表だけプラスとマイナスの値があるので、符号通りに足すか引く。第2表と第3表の値はつねに加算する

緯度の計算

緯度(ℓ)=北極星の真高度+第1表の値+第2表の値+第3表の値

 

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天測航法 5─子午線高度緯度法

2 実践編 緯度

帆船による大航海時代には、まだ正確な時間を知るクロノメーターがなかったので、航海術の基本は「緯度を知る」ことだった。
まず目的地と同じ緯度まで航海し、その緯度に達してから東または西に向けて航海するわけだ。
これはコロンブスの第一回航海でもそうだった。
情報が多く、よくわかっているアフリカ大陸の沖をカナリア諸島まで南下し、そこから西へと向かうことで、やがてはアジアの果て、つまり中国よりさらに東にある黄金の国に到達すると信じていた。
日本人ではじめてヨットでの単独太平洋横断に成功した堀江青年も、米国西海岸にあるサンフランシスコを念頭において、その緯度を維持しながら東へ東へと向かって計算通りに到達した。

というわけで、緯度を正確に知ることからはじめよう。

2.1 子午線高度緯度法

子午線高度緯度法とは、太陽が真南に来たとき(南中時)に太陽の高さを六分儀で測定し、その値を使って船の現在地の緯度を計算することである。
太陽が南中する時間がわかれば、経度も算出できる。
これは天測の最も基本となる方法で、実践編では、具体的な手順について説明する。

[緯度を求める手順]

1.観測値(測定した高度)に必要な修正を加えて真高度を得る(これを「測高度改正」という)。
両者を区別するため、観測高度をa、真高度をaで表す。

測高度改正では、次の修正を行う。

(1) 器差(インデックスエラー)の改正
(2) 第一改正(眼高と高度の改正値で修正する)
(3) 第二改正(気温と高度の改正値で修正する)
(4) 第三改正(気圧と高度の改正値で修正する)
(5) 第四改正(視半径(太陽の測定では上辺か下辺か)で修正する)

(6) 第五改正(気温と水温の差で修正する)

こうした修正を観測高度 aに加えると、真高度 aが得られる。
(2)~(6)の改正値は「天測計算表」の最初に記載されているので、そこから該当する数値を拾って順に足すか引いていく。

2.その日の赤緯 d を天測暦で調べる。
(赤緯にはNかSの符号がつけてあるので、それもメモしておく)。

手順の1で真高度(a)、2で赤緯(d)がわかれは、後は単純な足し算引き算になる。

1.    太陽を南に向かって測定した場合、(90-a)の値にNという符号をつける
2.  太陽を北に向かって測定した場合、(90-a)の値にSという符号をつける

●    (90-a)とdの符号が同じならば(NとN、SとS)、両方を足してその符号をつける。
●    (90-a)とdの符号が異なる場合(NとS、SとN)、値の大きいほうから小さい方を引いて、大きい方の符号をつける

これで、緯度が求められる。

以下、簡単に補足しよう。

六分儀について

まず六分儀を使って観測するわけだが、六分儀の操作自体は、実物を手にして実地で練習すれば、すぐに覚えられる。
ごく普通の運動神経と視力があれば半日で十分だ。
とはいえ、より正確な値を得るには慣れというかコツが必要になるが、こればかりは場数を踏むしかない。
ここでは、六分儀の扱いはひと通りできるという前提で話を進める。六分儀については、実践編の最後にあらためて説明する。

まず、六分儀を使って観測値が得られたとして、その後は、観測値に必要な修正を加えて実際に使う値(真高度)を得る作業になる。
天測では「改正」という表現を使用するが、「修正する/補正する」という意味である。

順に説明する。

(1) 器差(六分儀自体の誤差)
たとえば、体重を計るとき、体重計に乗る前に目盛りがゼロになっているか(アナログ計では針が0を指すか)を確認する必要がある。それと同じで、六分儀がきちんと調整されているか(水平線とゼロが一致するか)をまず確認する。
ずれていたら、その分を観測値に対して足すか引くかする。

具体的な手順としては、六分儀では水平線と太陽を同時に並べて見比べることになるが、目に当てる単眼鏡は一つしかないため、まず単眼鏡を目に当てて水平線を見る(それで見えるものを「真像」という)。
それと同時に、天体の方は鏡を使って光の反射を利用し単眼鏡に映るようにする(こちらを「映像」という)。
六分儀のレバーを操作し、真像と映像の両方が単眼鏡の同じ丸い視野で横に一直線に並ぶようにする(「太陽を水平線まで下ろす」という)。
これが一致したときの六分儀の目盛りが「天体の水平線からの角度(高度)」を示しているのだが、器差があると、その分だけ誤差になる。
で、まず、六分儀のインデックスバーを0o0’の近くに固定し、単眼鏡をのぞきながら、真像と映像が一直線になるようにマイクロメータをまわしていく。
そのときに示された角度が0o0’であれば器差はない。
もしずれていれば、その目盛りを読んでおいて、その分を観測結果に足したり引いたりする。
(インデックスバーやマイクロメータについては六分儀の項で説明する)。

(2)~(6)の改正は、天測計算表の最初に「太陽の測高度改正表」(第一改正~第五改正)として掲載されている。略称 Cor 1~5が使用される。
こんな感じだ。

出典:海上保安庁「天測計算表」書誌第601号

眼高
観察する人が海面すれすれから見ているのか、山の上から見ているのかで、天体の高さ(角度)も違ってくる。
そのために補正が必要になる。それが、眼高による修正で、計算表には、
横軸に眼高(0mから36mまで)、縦軸に測高度(0度~6度)が見開きで記載されている。
その次の見開きページには測高度6度~90度まで、全部で四ページにわたって記載されている。
自分に当てはまる眼高と天体の測定した高度の交わるところの数値を選ぶ。

天測計算表がなければ眼高の改正値は計算でも出せる。日本付近で、大気の状態が標準的な場合、1.776に高さ(m)の平方根をかければよい(あくまでも近似値だが)。

眼高をθ(シータ)、単位は分(’)とすると

Θ (’)= 1.776√h

h:高さ、観察者の目の位置の海面からの高さ(m)
ヨットのデッキに立って観察するとして眼高は3mくらいだろうか。それで計算すると、

Θ = 1.776×√3≒3.07’≒3.1’ (小数第一位までで十分)

第二改正は気温で五度刻み、第三改正は気圧で10ミリバール(ヘクトパスカル)刻みで示されている。その中間は、単純に案分比例した値を使うが、値自体が小さいので、どちらか近い方を選んでも、結果に問題になるような差は生じない。

第四改正の視半径とは、太陽や月のように地表から見ても大きいものは、観測時に水平線と天体の下側(下辺)を合わせたのか上側(上辺)を合わせたのかで違ってくるため、それを修正するもの。星は点とみなし、修正する必要はない。
天測計算表の第四改正には、こんな風に月別に図入りで掲載されているので、間違えようがない。
F2-2

第五改正は気温と水温の差による改正になる。

現実問題として、一人や二人でのヨットの航海では、舵や帆の操作もあるし、天測だけにかかりきりというわけにもいかないので、気温や水温、気圧の改正は割愛され、器差と眼高、視半径の改正だけですませることが多いようだ(だからといって、それで大きな誤差がでるわけでもない)。何度も繰り返すが、そういう誤差よりも、観察する者の技量と、波で上下するなど海況による誤差の方が圧倒的に大きいと断言できる。

緯度を計算する実際の例

某年5月14日正午に南を向いて太陽の下辺の高度を観測すると、7029.5’だった。六分儀の器差2.1’、水温25度、気温20度、眼高3m、気圧1015hPaだったとする。

まず真高度を出すため、天測計算表で該当する改正値を探して下表に記入し、それを単純に合計する(値がプラスのときは足す、マイナスのときは引く。正負の符号のない値はプラスとみなす)。

観測値(Ao)

インデックス・エラー
7029.5’

2.1’

第一改正 (Cor 1) 10.7’
第二改正 (Cor 2) 0.1’
第三改正 (Cor 3) 0.0’
第四改正 (Cor 4) 0.1’
第五改正 (Cor 5) -0.1’
真高度 (At) 7042.4’

真高度が出たら、天測暦で5月14日当日の赤緯(d)を調べる。N1742.8’だったとする。南を向いて測定したのでNをつけて、

N(90-a)=N(90ー7042.4’)=N1917.6’

赤緯もNで同符号なので、

緯度=N1917.6’+N1742.8’=N3700.4’

 

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