天測航法 7─経度を知る

緯度に比べれると、経度の求め方は、かなりハードルが低くなる。
「なぜ太陽が真南にきた時間を知ると自分のいる位置(経度)がわかるのか」の項で簡単に説明したが、ここでは、ざっとおさらいをして、実践的な手順に進もう。

地球は1日に1回自転している。
一周ぐるっとまわる(360度)のに24時間かかることになる。
これで15度=1時間という関係が成り立つ。

この関係は海外旅行をするときの時差でおなじみだが、角度も時間もその下の単位は分、秒になる。

1時間=60分 1分=60秒

1度 =60分 1分=60秒

どちらも分と秒でまぎらわしいので、

時間の場合は、時間(h)、分(m)、秒(s)を使う。
緯度・経度の場合、度()、分( ′)、秒(″)を使う。

経度を知るには、その場所で太陽が真南にきたときの時間を計測し、それが経度0度のグリニッジ標準時(GMT)より何時間何分進んでいるか(または遅れているか)を調べて、その時間差を度に換算すれば、いまいる場所の経度が算出できる。

グリニッジ標準時より早ければ東経(E)、遅ければ西経(W)になる

現在ではグリニッジ標準時よりも協定世界時(UTC)を使うことが多いが、天測レベルでは両者は同じとみなしてよい。

天測では地動説より天動説の方が感覚的にわかりやすい。
太陽は24時間で地球をぐるっと一周する。
だが、正確に24時間ではなく、その速度も一定ではない。
だから、計算で経度を求める場合、実際の太陽の運行と計算上の運行には差があり、それを均時差というが、これを補正する必要がある。

[経度を求める手順]
1.太陽が真南に来たときの時間を確認する。
2.その時間を天測暦に記載されている均時差で修正する。
3.修正した時間を度数に換算する(=経度)。

ステップ1
まず太陽が真南にきたときの時間を知る必要があるが、これが意外にむずかしい。
方位磁石を使えば太陽が南にあるかどうかはわかるが、磁北と北点は必ずしも一致せず、方位磁石の示す方角が真南とは限らない。
だから、正確な時間を知るには、
(1) 真南になる少し前に六分儀で太陽の高さを測り、その時間を記録しておく。
(これを仮に t1 とする)。
(2) それから2、3分おきに太陽の高さを測り、時間を記録する。
(順に t2、t3……とする)

太陽高度は少しずつ高くなった後、こんどは少しずつ下がりだす。

(3) 下がり始めた太陽高度が t1 または t2 と同じ高さになった時間を記録する。
(仮に t6 とする)。

T1とt6の高さが同じだとすると、両者の時間の中間の時刻がその場所の正午(南中時刻)になる。

ステップ2
記録した時間を均時差で補正する。
(1) 天文暦で、その日のグリニッジの正午における均時差を確認する。

均時差とは、太陽が一定の速度で動くと仮定した計算上の正午と太陽が実際に南にくる時間との差で、その計算結果が日付ごとに天測暦に載っている。

◎太陽の二列目の値から12hを引くと均時差が得られる。

均時差 = (図のE◎の列にあるh m sの値)-12h

ほとんどの場合、均時差は数分程度だ。

その均時差を ステップ1 で記録した南中時刻に足す(または引く)。

例:その日の正午に実際の太陽が南中する時間(これを視太陽時という)が計算上の正午より1分10秒早かったとすれば、測定した時間から1分10秒引く(遅ければ足す)。こうした修正作業を補正という。

ステップ3
補正した時間を度数に換算する
均時差で補正した時間を度数に変換して経度を求める。
換算は24時間=360度で比例案分する(1時間=15度)。

時間と度の換算表

時間 24 h 1 h 4 m 1 m 4 s 1 s
360o 15o 1o 15’ 1’ 15”

※ 単純な計算なので、数分で終了する、はず――海の上では船酔いなど、頭がちゃんと働かないときもある、、、
時(h)、分(m)、秒(s)にそれぞれ15をかけて合計する。
それぞれ時(h)は度(o)、分(h)は分(‘)、秒(s)は秒(“)に対応するが、分(‘)と秒(“)が60を超えた場合は60で割り、商は一つ上の単位に(分なら度に、秒なら分に)繰り上げ、余りがそのまま、それぞれ分と秒になる。
天測計算表には「時間弧度換算表」が掲載されているので、その表を使えば計算する必要もない。

とはいえ、具体的な例で計算してみよう。

太陽が真南にきた時間(南中時刻)をはかって均時差を修正したら、グリニッジ標準時の正午(12時)より10時間18分41秒早かったとする。
10h×15=150
18m×15=270’=430’
41s×15=615”=10’15” となるので、

経度(E)    =(150+4)(30+10)’15”
=15440’15”(東経154度40分15秒)
ちなみに、経度の測定には、月距法という方法もある。
月と他の天体との距離(観測者から見た角度)を測定し、天測暦の月距表で時間を割り出す。
小型ヨットではじめて世界一周したジョシュア・スローカムや幕末に太平洋を横断してサンフランシスコまで行った江戸幕府の咸臨丸も、この方法で経度を測定したと言われている。
この方法の利点は、正確な時計(クロノメーター)がなくても経度がわかるということだ。
緯度は太陽の高さでかなり正確に出せるので、問題は正確な時計がないときに経度をどうやって知るか、である。
スローカム船長は1ドルで買った中古の時計しか持っていなかったので、必然的にこの方法に頼らざるをえなかった。
だが、クロノメーターの普及に伴って、この方法は急速に忘れられてしまった。現実にも、日本を含むほとんどの国の天測暦に月距表はもう掲載されていないので、現代では忘れられた方法となっている。

[ 1 ] [ 2 ] [ 3 ] [ 4 ] [ 5 ] [ 6 ] [ 7 ] [ 8 ] [ 9 ] [ 10 ] [ 11 ] [ 12 ]

天測航法 3─なぜ太陽が真南にきた時間を知ると自分のいる位置(経度)がわかるのか

経度については、海外旅行をするときの日本と現地時間の差(時差)と考え方は同じで、経度が15度で1時間の差になる(360÷24=15)。緯度よりずっとわかりやすい。

とはいえ、赤道付近で経度が1度違うと距離は60海里(1852m×60=111120m)、15度では900海里(1667km)にもなるので、もう少し下の単位が必要になるが、前回述べたように時間と同じで、分や秒を用いる。

1時間=60分         1分=60秒

1度 =60分         1分=60秒

どちらも分と秒でまぎらわしいので、

時間の場合は、時間(h)、分(m)、秒(s)を使う(hour、minute、second)。
2時間5分30秒 => 2h、5m、30s

緯度・経度の場合、度()、分( ′)、秒(″)を使う。
135度15分25秒 => 13515’25″

経度1度の距離は、赤道付近が最大で、北または南に行くほどその距離は狭くなり、北極や南極では1点に収束する(理論上はほんのひとまたぎで、経度0度から経線をすべて横切って地球一周できる)。

緯度の1度はどこであっても距離は変わらない。

経度を知るには、その場所で太陽が真南にきたときの時間を計測し、

それが経度0度のグリニッジ標準時(GMT)より何時間何分進んでいるか(遅れているか)を調べ、

その時間差を度に換算すれば、いまいる場所の経度が算出できる。
現在では、GMTではなく、セシウム原子時計で調整した協定世界時(UTC)が使われる。両者では100年間で18秒ずれるとされるが、六分儀を使った観察では「同じ」とみなしてよい。

実際の観察では、太陽がいつ真南にきたのかを判断するのかが意外にむずかしい。また太陽はきちんと1日24時間で1回転しているわけでもないので、その分の補正も必要になる(「均時差(きんじさ)」という)のだが、その点については、実践編で具体的な手順を説明する。

ここでは、時間と度の換算について、きちんと理解しておこう。

時間と度の関係は、地球が24時間で1回転することを前提としている。
つまり 24h=360 だから
時間と度の換算表

船にはグリニッジ標準時を示す時計(いわゆるクロノメーター。いまどきの時計は昔の貴重で高価なクロノメーターと同等以上の精度がある)が必須になるが、グリニッジ標準時の正午との時間差を求めて、度に換算する。

グリニッジ標準時より早ければ東経、遅ければ西経になる。

具体的な例で考えよう。
太陽が真南にきた時間(南中時刻)をはかったら、グリニッジ標準時の正午(12時)より10時間18分41秒早かったとする。
10h×15=150
18m×15=270’=430’
41s×15=615”=10’15” なので、

経度(E)    =(150+4)(30+10)’15”
=15440’15”

———————————————————————-

ここからは、おまけ

電卓かパソコンの表計算ソフトが使えれば、こんな筆算はしなくてすむ。

まず、10h18m41sを時間で表す。

10+18/60+41/60=10.31138889(時間)

これに15をかければ、整数部が度になる。
10.31138889x15=154.6708333

小数点以下に60をかければ、整数部が分になり、その小数点以下に60をかければ秒がでる。Excelのような表計算ソフトだとTEXTなどの関数を使えば、数値を入力するだけで

A°B′ C″の形式で表示させることもできるが、そういう今風の道具を使ってよいのなら、「最初からGPSを使えよ」って話になるわけで、天測にロマンを感じたいのであれば、計算も電卓なんか使わず、鉛筆片手に筆算できる範囲にとどめておいたほうがよい。

[ 1 ] [ 2 ] [ 3 ] [ 4 ] [ 5 ] [ 6 ] [ 7 ] [ 8 ] [ 9 ] [ 10 ] [ 11 ] [ 12 ]